AIの進化でどうなる?商社の未来は“使いこなす人”次第 ― AI活用の仕方とリストラされない社員となる為に
承知しました。以下の構成で、商社業務におけるAI代替可能性を12分割・合計2万語で徹底的に解説いたします。各回で指定の職種(営業・開発・IT系技術・事務・人事)に関する今後の展望と、AI活用における必要人材像も含めて詳述します。
第1回:総合商社・専門商社におけるAI導入の全体像と方向性
総合商社・専門商社はいずれも「ヒト・モノ・カネ・情報」をつなぎ、グローバルな取引を仲介・実行・展開する業態です。扱う商材も、資源・エネルギー・食料・化学品・電子部品・インフラ機器など広範に及び、その業務プロセスには多くの知識集約的かつ対人関係重視の業務が含まれています。
しかし、こうした業務においても、現在はAI技術の進化によって下記のような変化が起きつつあります。
● 業務の情報処理・分類・出力精度が飛躍的に向上
● 翻訳・交渉文作成・資料作成といった“人間らしい業務”の自動化
● 意思決定支援や将来予測といった“思考”領域への踏み込み
結果として、これまで「人間でなければ無理」とされていた範囲まで、AIが入り込めるようになってきました。
第1章:情報をあつめるしごと(リサーチ・マーケティング部門)
AIが得意な領域
● 市場調査・業界動向の把握
AIは世界中のニュースサイト、財務データベース、SNS、特許情報などを横断的に分析し、地域別・時系列・業種別の傾向を即座に抽出可能です。たとえば「アジアでのEVバッテリー供給網に関する2023年の業界動向」という曖昧なテーマでも、具体的な企業名・数字・動きまで自動整理して出力できます。
● 競合分析・顧客分析
競合企業のIR資料・決算短信・提携情報・株主構成まで網羅的に分析し、強み・弱み・リスク要因を言語化。過去数年の業績推移や戦略転換の兆候まで可視化できます。人手によるExcel分析に比べて数百倍のスピードです。
今後AIが代替可能なこと
● 戦略的意思決定支援
単なる情報の整理を超えて、「どの市場が今後成長するか」「どういう競合の動きがリスクになるか」といった意思決定支援が可能になります。具体的には、投資判断や新規事業展開の判断材料を、自動で複数パターン提案できるようになります。
● トレンドの予測と感情分析
SNSや報道の感情的文脈を把握し、バイアスや風評リスクの予兆も検出。新商材の受容性や、ある国での炎上リスクなど、今までは属人的な直感に頼っていた領域を定量的に補完できます。
営業職の展望:分析型営業への進化
「情報を集める仕事」がAIに代替されることで、営業職には単なる関係性構築だけでなく、情報を活用した提案・構成力が求められます。単に「足で稼ぐ」時代から、「AIで整理された情報を元に仮説を立て、相手のビジネス課題を先回りする営業」への進化が必要です。
● 従来型営業 → 「仲良くなること」が重視
● これからの営業 → 「先読みと提案構成の力」が重要
IT系技術職の展望:プロンプトエンジニアの需要急増
AIを業務に正しく組み込むためには、「何を聞くか(プロンプト設計)」が極めて重要です。IT職には次のようなスキル転換が求められます。
● 旧来のインフラ・アプリ開発 → AIと連携するワークフロー構築へ
● コーディングスキル → ノーコードAI連携の最適化・整備
● 「AIが間違える理由を人に説明できるスキル」も重要に
事務職・リサーチ職の今後:単純集計・入力系業務は激減
情報収集・報告資料作成といった「正確さ・速さ」が重視される事務系・マーケ系業務は、AIの導入で大幅に人手が不要になります。
今後は、「なぜこのデータが使えるか」「このデータは何を意味するか」を人に伝えられるスキル=情報の文脈化力・翻訳力が事務職に求められるようになります。
AI導入で求められる人材像(第1章)
この領域でAIを活用するうえで必要となる人材像は以下のとおりです。
● 「問いの立て方」が上手い人:曖昧な依頼から目的に合った情報を抽出できる
● 「因果と関連」を区別できる人:データを見てストーリーを構築できる
● 多文化・多国籍の価値観に理解がある人:AIの出力を“翻訳”し、現実に適応できる
第2回:海外とのやりとりのしごと(貿易実務)とAIの可能性・商社における貿易実務の重要性
商社の根幹業務のひとつが、国際取引=貿易実務です。商品を輸出入するにあたり、法令遵守、通関、物流管理、保険、為替リスク対応など、実務レベルでは非常に複雑で専門性の高い業務が必要とされます。
これまでは、各国の法規制や文化的背景に通じた人材によって細やかな調整が行われてきましたが、近年ではAIの導入により、以下のような変革が進んでいます。
輸出入書類の作成・翻訳
今すでにできること
● 書類の自動作成
AIはインボイス(商業送り状)、パッキングリスト(梱包明細)、B/L(船荷証券)、L/C(信用状)など主要な貿易書類のテンプレートを理解しており、入力データを元に正確な書類を生成できます。日本語→英語、中国語、スペイン語などの多言語化も即時対応可能。
● 法規制の自動チェック(初期段階)
国や地域ごとに異なる輸出入の禁止事項・規制物資なども、一定レベルで自動判定できるようになっています。たとえば「この商材は関税免除対象か?」「この書類にHSコードは必須か?」などのチェックは、AIによるスクリーニングで代替が進んでいます。
今後可能になること
● 通関要件の即時チェック・最適化
相手国の最新の法制度・通関条件・現地語表記を反映し、「この項目が未記載だと税関で止まる」「この国ではこの表現に変えるべき」といった、国別のナレッジを自動的に反映した書類作成が可能になります。
● 非定型データの読み取りと記載補完
取引先からのPDF見積書、FAX画像、写真のラベル等をAIがOCR解析し、自動で内容を理解しながらB/LやL/Cに正確に転記。いわゆる「人手での読み替え・記載補完」まで自動化が進みます。
海外とのメールや契約交渉支援
今すでにできること
● 多言語のビジネスメール自動生成
目的(例:価格交渉/納期調整/謝罪対応)と相手国(例:インド企業、ドイツのメーカー)を指定すれば、文化背景・業界慣習を加味したビジネスメール文面を自動で作成可能です。たとえば「欧州向けには丁寧に→北米向けには率直に」など、言語と文化を踏まえた対応ができます。
● 契約文書のドラフト作成・校正
売買契約、NDA、覚書などの文書を、過去事例・業界標準・国別ルールに即して自動生成するAIモデルが登場しています。条項の整合性、法的なリスク、抜け漏れをレビューする作業も高度化中です。
今後可能になること
● 相手企業ごとの交渉傾向分析と対応
AIが過去のメール・議事録・応対履歴から「この企業は納期交渉に厳しい」「価格では妥協しやすい」といった交渉傾向を学習し、状況に応じた“交渉スタイル”の提案まで行えるようになります。
● 会話レベルでのリアルタイム通訳+意図理解
テキストだけでなく、オンライン会議・商談の音声をリアルタイムで翻訳し、かつ話者の意図や文化的ニュアンスを把握したうえでの“返答案提示”が可能に。今後は同時通訳のプロに近い品質が期待されます。
営業職の今後:人対人の交渉力から「文化翻訳と判断力」へ
貿易実務がAIにより自動化される一方で、営業職には新たな役割が生まれます。それは、AIの出力を踏まえた意思決定と、人間らしい信頼関係構築です。
● 書類作成や交渉文はAIが自動化
● ただし「どこで譲るか」「いつ強気に出るか」は人の判断
よって営業には、取引先との信頼関係や、文化的な細部の把握力がより求められるようになります。
開発職の関わり:AIを内製化する力
商社では社内に開発部門がないことも多いですが、今後は以下の理由で「内製AIモデルの開発力」が必要になります。
● 書類生成AIや契約文書AIの精度を、商社固有のルールで調整したい
● 特定取引先の過去データを踏まえた“個別最適化”をしたい
● 公開されていない社内ナレッジ(例:通関トラブル回避例)を学習させたい
これにより、従来の「業務システム部門」ではなく、実務に近い開発職が社内に必要とされてきます。
IT系技術職の展望:貿易×AIのプラットフォーム化推進
商社では複数のERP、通関システム、契約管理ツール、輸送管理システムが同時稼働しています。
今後、IT技術職にはこれらをAIでつなぎ、ワンストップで取引が完結する「統合業務プラットフォーム」の設計・保守が求められます。
● API連携を理解し、貿易業務に最適な業務設計ができる
● 書類の出力やエラー処理を自動補完するAI監視システムを構築できる
● 実際の取引現場の動きを理解して設計に活かせる
事務職の変化:入力・送付・確認から「取引全体の文脈管理」へ
現場の事務職が担ってきた「書類の入力・送付・翻訳・記録」などの作業は、大部分がAIで自動化されます。
しかし今後求められるのは、「この文書がどういう背景で作られているのか」を理解し、人間側の“最後の目”として文脈チェックできる人材です。
人事職への影響:グローバルなAI活用人材の配置・育成
グローバル取引にAIを導入する際、国や商材によって事情が異なるため、画一的なルールでは対応できません。
人事職には以下のような視点が求められます:
● 貿易AIの知識を持ち、業務内容を理解している人材の発掘
● 各地域のAI活用レベルに応じた研修・再配置の設計
● 外国籍人材との連携や多言語人材の確保
AI導入で求められる人材像(第2章)
この領域において、AIを効果的に活用できる人材の特徴は以下のとおりです。
● 国際商習慣とAIの“ズレ”を翻訳できる人
● 相手国の文化・表現・価値観を文面に反映できる人
● AIを使いつつも、交渉の“本質”を判断できる人
第3回:売上・利益を管理するしごと(営業・企画)とAIの影響・商社における営業・企画部門の役割
商社の「営業・企画部門」は、商材の仕入れと販売を担うだけでなく、収支予測、リスク管理、価格戦略、取引条件の設計、社内稟議の作成など、利益の源泉を支える多機能部門です。
商社における営業とは、単に売るだけではありません。
たとえば:
● 為替と連動した仕入価格の変動への対応
● 在庫リスクと資金回収のバランス調整
● 市場価格の急変に合わせた動的な利益計算
こうした複雑な管理業務も含めて「営業・企画」の業務とされており、ここにもAI導入の余地が大きく広がっています。
売上予測・収支管理
今すでにできること
● 過去実績+季節性+在庫による予測
AIは、社内の売上データ、天候、為替、イベント日程などを統合し、「来月この商材はいくら売れそうか」「今年の第4四半期は前年比で何%増減するか」を即座に予測します。
● Excel・ERPとの自動連携
AIはERPや会計システム、Excel表から必要な情報を抽出し、数式による損益計算書やグラフを即時生成。人手による「月次集計」が不要になりつつあります。
今後可能になること
● リアルタイム収支シミュレーション
AIが仕入価格、為替、物流費、関税、販売価格を日々の変動ベースで反映し、「この契約を今週中に決めれば利益率は◯%」「来週だと赤字リスクがある」といった即時判断が可能になります。
● 利益最大化のためのレコメンド
「価格を5%下げれば他社より競争優位だが、利益率は落ちる」「この取引先にだけ値引きしても全体収支に与える影響は小さい」といった、部分最適と全体最適をバランスさせるアドバイスをAIが提示できるようになります。
新商材の提案・プレゼン作成
今すでにできること
● 業界動向+顧客ニーズに応じた資料生成
AIは特定顧客の過去購買履歴や課題、業界の最新トレンド、競合の動向などを総合して、「この商材なら御社の課題解決に役立つ」というプレゼン資料を自動生成可能です。
● 顧客別に構成・言葉遣いを自動調整
「役員向けは数字と成長性を重視」「現場担当者には導入手順と保守性を重視」など、同じ内容でも相手に応じてカスタマイズした文面・構成をAIが自動で調整できます。
今後可能になること
● マルチバージョンのプレゼン一括生成
ひとつのプロンプト(例:「水処理装置を提案したい」)に対して、AIが業界別・企業別に複数案を作成し、かつスライド資料・話す原稿・補足資料まで自動生成できます。
● 会話型AIによるプレゼンリハーサル
「この提案、相手にどう響くか?」をAI相手に模擬プレゼンし、論点の弱さや説明の足りない部分をリアルタイムで指摘してもらうといった、対話型の提案支援AIの導入も視野に入っています。
営業職の未来像:戦術から戦略・数値管理までの一貫担当へ
AIの導入により、「資料作成」「価格計算」「実績集計」といった作業系の業務が減る一方で、営業担当者には以下の役割が強く求められるようになります。
● AIが示した複数シナリオを比較して選択する判断力
● 提案を“売る”のではなく“共感と構造”で通すスキル
● 顧客の課題に対する仮説設定と構成能力
いわば、「営業=提案と人間関係」から、「営業=意思決定と価値構成」へと進化することになります。
企画職の今後:AIとの協働による構造思考強化
企画職は、営業部門と経営層の間で意思決定を設計する立場です。
AIの導入によって、従来の「数字を集めて報告書を作る」仕事が縮小する代わりに、
● 「数字の意味」を解釈する力
● 「なぜこの予測が重要か」を説明する能力
● 「次のアクションを提案する構造的思考」
が求められます。
特に、AIの出力をそのまま渡すのではなく、「これは戦略的にどう活かすべきか」を提案する能力が強く求められます。
開発職の展望:商社特化型の意思決定支援ツール開発へ
商社の営業・企画部門に特化したAIツール(例:貿易取引最適化AI、契約条件自動最適化ツールなど)は、今後ますます社内開発が求められる領域になります。
開発職には次のような技術的・業務理解的スキルが必要です:
● 事業部ごとの損益構造に即したモデルの調整
● 営業現場の声を聞いたUI/UXの改善
● リスク評価や複数シナリオの最適化技術
IT系技術職の展望:ダッシュボードとAIの融合
IT部門は、営業現場が使うレポート・KPIモニタリング・見える化ツールの整備を進めていますが、今後はAIと融合し、次のようなことが求められます。
● 「この数字の変化は何を意味するか」をAIに語らせる機能
● 月次レポートではなくリアルタイムの“判断材料生成”
● 問題の兆候を可視化するアラート+レコメンド設計
事務職の変化:数値処理から「要点整理と補足判断」へ
売上報告や利益管理に関する事務業務は、すでにAIによって高度な自動化が進んでいます。
今後事務職が担うのは、「この数字は正しいか?」「このレポートで上司に伝わるか?」という、最終確認と意味づけの業務です。
● 数字を“伝わる形”に翻訳できる人材
● 例外処理を自ら判断し、AIにフィードバックできる力
が重要視されます。
人事職の課題:営業パーソンの再定義と再教育
「人と話すのがうまい」だけでは評価されない営業職時代に、人事には次のような対応が求められます:
● AIツールを活かせる「論理+感性型営業」の育成
● 数値と感情を統合的に扱える“構造的思考力”の評価制度整備
● 営業職への「業務の構造設計と判断力トレーニング」導入
AI導入で求められる人材像(第3章)
営業・企画領域でAIを活かすために必要な人材像は以下の通りです。
● AIが出した数字に“意味と提案”を付与できる人
● 複数案の中から“最適な一手”を選べる判断軸を持つ人
● 人間関係を超えて“構造的に相手を説得する”営業力を持つ人
第4回:投資・M&AのしごとにAIはどう使えるか商社における事業開発の役割
総合商社・専門商社にとって、**事業投資・M&A(企業買収・提携)**は、売買仲介や流通と並ぶもう一つの収益の柱です。とくに近年は、資源開発、再生可能エネルギー、物流インフラ、食品加工などへの大型出資や、異業種との提携が相次いでいます。
これらは単なる「お金の投資」ではなく、
● 将来収益が出るか?(バリュエーション)
● 相手とシナジーがあるか?(戦略的整合性)
● 法務・財務・労務のリスクは?(DD:デューデリジェンス)
といった多面的な検討が必要です。ここにおいて、AIが担うべき領域が急速に広がっています。
投資候補企業の調査と評価
今すでにできること
● 公開情報の収集と初期レポート作成
対象企業のIR情報、決算、登記、業界レポート、特許出願、株主構成、提携履歴などをAIがクロールし、自動で「評価レポート(A4数枚)」を生成できます。
● 比較分析とスコアリング
複数候補企業を対象に、「売上規模」「営業利益率」「ROE」「過去3年の業績推移」などを比較し、レーダーチャートやランキング形式で視覚化。意思決定者に分かりやすく提示可能です。
今後可能になること
● 非公開情報の統合的推定
SNSの評判、社員の口コミサイト、ニュース記事などをAIが横断し、「この企業は直近で大量退職が発生している可能性」「競合から訴訟リスクがある」といった、定量化しにくいリスクの予兆検出まで実現します。
● 業界動向×自社資産との整合評価
「この企業を買うと、当社の物流部門との親和性が高い」「既存投資先と競合になるリスクがある」など、商社特有の“ポートフォリオ全体”の中での適合性評価まで、AIが多角的にサポート可能です。
バリュエーション(企業価値評価)
今すでにできること
● DCF法やマルチプル法での自動計算
将来キャッシュフローの予測値、WACC(加重平均資本コスト)、売上成長率などを前提に、AIは複数シナリオによる企業価値算定を即座に実行できます。
● 各種前提の変更による試算比較
「為替が円安に振れた場合」「法人税制が変更された場合」など、前提条件を数クリックで変更し、それによって価値がどう変化するかを即時試算するダッシュボードも構築可能です。
今後可能になること
● 交渉余地の定量化
「提示価格に対する割高度/割安度」「相手が提示する価格と本来の理論値の差分」をAIが算出し、“どこまで譲歩可能か”という交渉戦略支援が可能になります。
● M&A後の事業統合(PMI)支援
買収後の部門統合、人材の役割変更、業務システムの統一などに関する“統合計画書”をAIが過去事例から学習し、シミュレーション付きで提案する機能も進展しています。
営業職の変化:取引から戦略への意識転換
M&Aの初期段階では、候補企業との面談・関係構築・情報収集といった人間的な活動が必須です。
営業職は、単なる“紹介役”を超えて、
● 「この相手企業がどう使えるか」を仮説立てる構想力
● AIが出した情報を正確に咀嚼し、話題をリードする構成力
● 投資後も継続して関係構築する外交能力
が求められるようになります。
開発職の役割:投資判断モデルの社内設計
M&AにおけるAI活用は、社外製品では不十分なことが多く、商社自身の業務ロジックを反映させたモデル開発が必要です。開発職には、
● シナリオベースの価値算定モデル(確率付き)を構築できる力
● 社内で管理している非構造データ(商談ログ、会議議事録)も活用できるスキル
● 投資意思決定フローそのものをツール化する力
が求められます。
IT系技術職の展望:意思決定ダッシュボードと社内ナレッジ連携
AIによって算出されたバリュエーションやリスク評価が、**社内の意思決定者(役員・部長)に“分かりやすく伝わるか”**が極めて重要になります。IT部門には以下の役割が生じます。
● 複数の評価指標を可視化・比較できるダッシュボード開発
● 社内データベース(過去の案件、投資回収実績など)との自動連携
● 意思決定の“根拠提示”を支援する対話型AI設計
事務職の変化:資料作成ではなく“検証者”へ
M&A関連の事務職は、従来、契約書類・財務比較表・投資稟議資料の作成を担当していました。
今後、作業自体はAIが担うようになるため、事務職には、
● 出力結果の“妥当性”や“抜け漏れ”をチェックする
● 提出資料の文脈や整合性をレビューする
● 書類の“意味”や“背景”を理解して補足できる
といった、実務補完型の専門性が求められるようになります。
人事職の課題:PMIに対応できる人材の確保と育成
M&A後に課題となるのが「人材の統合・配置・文化融合」です。人事職には次のような対応が必要です:
● 異なる人事制度・評価体系をスムーズに統合する能力
● 投資先との人材交流・出向・採用戦略を立案できる力
● AIを使ってPMIの過去事例から“失敗パターン”を抽出し、防止策を講じる判断力
AI導入で求められる人材像(第4章)
投資・M&A業務において、AI時代に求められる人材は以下の通りです:
● 数字の裏にある「意味」や「意図」を読める人
● 投資判断を“物語化”し、社内外を説得できる人
● AIを信じすぎず、疑いすぎず、「人間の責任領域」を明確に持てる人
第5回:社内調整やレポート作成のしごとはAIに任せられるか
商社の花形である営業・投資・貿易といった仕事の裏側で、見過ごされがちだが欠かせないのが、社内調整・報告業務です。
これには以下のような業務が含まれます:
● 月次・週次での会議資料や報告書の作成
● 他部門との連絡・稟議手配・承認フロー管理
● プロジェクト進行状況の把握と報告
● 突発的な資料の作成・数字の抽出と整形
これらは“地味”でありながら、「正確・速い・整っている」が強く求められ、業務負荷の大きい領域です。現在、ここにもAIが着実に入り込み始めています。
会議資料・報告書の作成
今すでにできること
● 部門ごとの定例レポート作成
各部門から上がってくる数字やトピックを統合し、PowerPointやWord、Excel形式で週報・月報として出力する作業は、AIとRPA(自動化ツール)との連携により、ほぼ全自動化が可能です。
● 体裁・テンプレートの自動整形
たとえば「営業第2課の報告書を、役員向けテンプレートに変換」や「部内会議用に箇条書き形式で再構成」といった体裁・構成の切り替えも、プロンプト次第で自動対応できます。
今後可能になること
● 読み手ごとのパーソナライズ最適化
AIが読み手の特性(論理重視/感情重視/数字を好む/結論から知りたい)を学習し、「この課長にはこの順番」「この部長にはグラフ多め」など、読み手別に最適化された資料を生成できるようになります。
● 報告書の“言い訳”・“配慮”文面の自動生成
「目標未達となったが、次月に改善が見込まれる」「A社トラブルの影響で納期遅れが発生」というような、組織内の調整に必要なニュアンス表現を、立場と状況に応じて自動で生成できる機能も進展中です。
プロジェクトの進捗管理と報告
今すでにできること
● タスク状況の可視化と一覧化
プロジェクト管理ツール(例:Asana、Backlog、Jira、Excel進捗表)と連携し、各担当者の進捗・滞留タスク・完了見込み日などをAIが自動収集し、一覧レポートを作成できます。
● 遅延のアラート通知と自動調整提案
「納期までに必要な工数と現在の進行度から、この作業は遅延見込み」と判断し、誰の作業を前倒し・並行実行すべきかを提案するAI支援機能も実装可能になっています。
今後可能になること
● 複数プロジェクトの横断的分析とボトルネック発見
たとえば「この人が3つのPJで遅延要因になっている」「この工程が全体の遅延を引き起こしている」といった、構造的なボトルネックを抽出して可視化するAI分析が進化しています。
● リスク報告書のドラフト自動生成
「このまま進行すれば◯月に納期遅れが確定」「◯社の承認が遅れると影響度は高い」といった、“未来のトラブル予測”と、その説明資料をセットで出力することが可能になります。
営業職の影響:報告書作成から「意味を伝える設計者」へ
営業職が多くの時間を費やしていた、週報・会議資料・顧客報告書の作成がAIに代替されることで、「まとめる作業」は減ります。しかしそれと同時に、
● 「なぜこの数字なのか」「次に何をすべきか」を設計する力
● 「相手にどう伝えるか」を資料の構造から考える力
が求められるようになります。“出す資料の質”=営業パーソンの評価基準にもなり得る時代です。
開発職の役割:文書構造を理解したAI設計力
報告書や会議資料は「単なるテキストの並び」ではなく、読み手の期待・社内の文化・報連相の作法などを前提に組み立てられています。
AIによる報告支援ツールの開発には、次のような設計力が必要です:
● どの文型・構成が“社内で通る”のかを理解する
● 数字とテキスト、図表の配置の最適化アルゴリズムを持つ
● 曖昧な入力(「営業Aの要点まとめて」)に対し明確な出力を返すモデル設計
IT系技術職の展望:社内ナレッジと業務フローの統合
IT部門には、社内に散在する「資料作成ルール」「過去の成功資料」「役員の好み」などを構造化し、AIに反映させる知識管理システム構築が求められます。加えて、
● 毎月の資料作成フローを自動化するRPA+AI連携設計
● Slack/Teamsのやりとりを文脈情報として吸収する機構
● “誰に何を見せるとき、どう構成すべきか”という判断基準のモデル化
が求められます。
事務職の変化:入力・整形から「調整と意味づけ」へ
事務職が担当していた「数字入力」「表作成」「印刷・展開」といった作業は、すでにAIとRPAで自動化可能な領域です。今後事務職には、
● 出力された資料を見て「これで伝わるか?」を判断できる
● 各部門間の情報を調整し、「資料の目的」を守る視点
● 文面の表現トーンを調整し、関係性を壊さない微調整ができる
といった、**人間ならではの“調整感覚”**が必要になります。
人事職の視点:AIによる評価・報告の精度向上と課題
AIによる報告書作成支援が浸透すると、**「誰がどんな報告をしているか」「その質がどうか」**がより正確に可視化されるようになります。人事には、
● 各職種の“報告力”を評価できる仕組み作り
● AI作成物に依存しすぎる社員への教育
● 報告を受け取る側(上司)の“AIリテラシー”向上施策
といった課題対応が求められます。
AI導入で求められる人材像(第5章)
社内調整・報告業務のAI化が進むなかで求められる人材像は以下の通りです。
● 「この情報は誰にとって何を意味するか」を設計できる人
● 数字と文章を“人に伝える”視点で調整できる人
● 資料作成を“納品物”ではなく“コミュニケーション”として考えられる人
第6回:AI導入がもたらす商社内の職種別・構造的な変化
AI導入を「単なる業務効率化」と捉えると、現場の抵抗感は根強いままです。しかし実際には、AIの本質は「業務構造そのものの再設計」にあります。
商社におけるAI導入は、次のような構造変化を引き起こします。
● 作業者の減少と、判断者・設計者の比率増加
● 職種ごとの“定義そのもの”の揺らぎ
● 若手〜マネジメントまで階層横断的な再編圧力
以下、各職種ごと・階層ごとに、具体的に何がどう変わるのかを分析します。
営業職の構造変化:提案型→設計型へ
Before(従来の営業)
・属人的な関係構築
・定型的な提案書の繰り返し作成
・「なんとかします」でまとめる判断回避型行動
After(AI導入後)
・関係構築の比重は維持
・提案書はAI生成、内容の監修と構造調整が主業務に
・判断力と仮説構成力を中心に評価が変化
営業は「提案書を書く」仕事から、「AIが作った提案案を取捨選択・補正して使う」職種へと転換します。情報の咀嚼力・構成力・交渉判断力が主軸となり、数字を基に“なぜこの提案か”を説明できる営業パーソンが昇格候補になります。
開発職の構造変化:AI×業務知識の高度融合へ
Before
・社内システムの運用・保守
・要件ヒアリング+外注コントロール
・ツール単体の導入設計
After
・業務内容を深く理解した上でのAI連携設計
・業務横断型ツール開発(投資評価+契約管理など)
・AIの限界と強みを説明・制御できる立場に
特に商社のように業務横断的な組織では、「全社共通のロジックをAIに学習させる設計」が急務となります。開発職はツール開発者というより、組織の“業務言語”をAIに伝える翻訳者として再定義されます。
IT系技術職の構造変化:“情報の流れ”設計職へ
Before
・社内インフラの管理
・各部門のデータ連携支援
・基幹システムの保守と改修
After
・社内の情報が“どこからどこへ流れるか”の全体設計者
・AIによるデータ統合・可視化・意思決定支援の設計実務
・ナレッジマネジメントのインフラ構築主導
もはやIT部門は「システム担当」ではなく、情報の流れと“意図”をつなぐ設計職です。
「部門間の壁を越えて、どの情報をどの判断に活かすか」を構造的に設計する力が重視されます。
事務職の構造変化:ルーティンから“運用管理”へ
Before
・データの入力・チェック・転記
・定型文書の整形と提出準備
・稟議や連絡調整の物理的処理
After
・AIが作成・提出する情報の確認と例外処理判断
・出力物に対する“意味の補足”とコミュニケーション調整
・業務フロー自体の維持・運用責任者に昇格
入力作業がなくなったことで、事務職は逆に「AIの動作と品質を監督する側」に移行します。
「この出力で社内関係が壊れないか」「意味が伝わるか」「例外ケースに適切な処理がされているか」といった、人間の“文脈感覚”が問われる時代です。
人事職の構造変化:評価・配置・育成の意味が変わる
Before
・成果・年功・コンピテンシーに基づく人事評価
・異動・昇格・採用計画の策定
・スキル研修の運営と手配
After
・AIツール使用の能力差に基づく再評価
・「AIと働く力」の可視化と配置調整
・組織全体のAIリテラシーを向上させる育成設計者に
今後の人事では、「誰がどれだけAIを有効活用できるか」が評価基準の1つになります。
また、組織にとって「**AIを使えるが、報告が伝わらない人材」「人間的だが、AI非対応な人材」**が混在することにより、配置とチーム設計の難易度が急上昇します。
人事部門自体がAIを活用し、「どの人材がどの環境でパフォーマンスを発揮するか」を予測する構造設計者になることが求められます。
階層別の変化:若手〜管理職まで何が変わるか
若手社員:作業→“使いこなし力”がすべて
若手は「Excelを早く打てる」「資料を整える」といった作業能力で評価されていましたが、それはAIに奪われます。代わりに、
● AIへの適切な指示ができるか?
● 出力内容の意味を読み取れるか?
● 質問されたときに「なぜこうしたか」を説明できるか?
といった**“使いこなし力”と“判断の初歩”**が求められるようになります。
中堅社員:管理よりも“意味づけ・翻訳者”としての立場強化
中堅層には、AIが生成した情報や資料を「どう部下に伝えるか」「どう役員に伝えるか」を咀嚼する責任が強くなります。
● “データ”を“判断材料”として文脈づける力
● 他部門との調整や読み替えを自分で設計できる力
● 新しい業務のワークフローを提案・実装できる能力
従来の「業務経験者」というだけでは通用せず、構造的に情報と人間をつなぐ“翻訳者”の役割を担うことになります。
管理職:戦略・方向性をAIに“言語で伝える”力が問われる
管理職層は、AIの出力を使って意思決定する側でありながら、その出力が正しくなるかどうかは「どんな問いを与えるか=プロンプト」に依存します。
● 経営課題をどう分解し、AIに質問すべきか?
● 出力結果が正しそうでも“違和感”を見抜けるか?
● 組織の判断軸と照らし合わせて“決める力”があるか?
AIを“判断補助”ではなく、“判断材料の前提設計者”として使える管理職だけが、未来の商社組織で価値を発揮するようになります。
AI導入が進む組織と進まない組織の構造的な差
AI導入が進む企業には、次のような特徴があります。
● 「問いを立てる力」が組織内で共有されている
● 現場がAIの出力に対して“異議”や“補足”を言える文化がある
● 人事制度・評価指標がAI活用とリンクしている
● AIの失敗を「使い方の問題」として分析できる
一方、導入が進まない組織は、
● 「失敗=AIが使えない」と早合点する
● 中間管理職が“AIを使うこと”に心理的抵抗を示す
● 若手がAIに“聞いてはいけない”と教えられている
● 成果物より“やり方”を評価する空気がある
という構造的な硬直性を持っており、今後の人材採用・流出にも直結します。
AI導入で求められる人材像(第6章)
この章で明らかになった、全体的に必要とされる人材像は以下の通りです。
● 情報を“伝わる構造”に翻訳できる人
● AIができること・できないことを線引きできる人
● 出力結果に“意味”を付与して他者に共有できる人
● 組織の仕事を“再設計”することに前向きな人
第7回:AI導入の核心は「プロンプト設計」だった
AIが商社業務で力を発揮するかどうかは、「どんなAIを使うか」ではなく、「何をどう聞くか=プロンプト設計」に左右されます。
同じAIを使っても、プロンプトひとつで以下のように結果は大きく異なります。
例:
- 「業界分析して」→一般論と古い情報の羅列
- 「2023年以降、アジア市場においてEVバッテリー供給網を展開した企業のうち、前年比売上成長率10%以上かつ日系資本との業務提携を発表した例を3社挙げて」→即座に実用レベルのレポート
この「聞き方次第で結果が変わる」性質は、検索エンジンではなくAIだからこそ重要です。商社におけるAI活用では、このプロンプト設計こそが差別化要因になります。
プロンプト設計とは何か?
プロンプト設計とは、AIに対して以下を明確に伝えることを指します:
- 目的(なぜそれを出力させたいのか)
- 対象(どの市場・業界・企業についてなのか)
- 条件(出力の形式・粒度・優先項目など)
- 文脈(商社特有の制約・考慮点など)
この4つが揃っていないプロンプトは、たとえAIが賢くても、意味のない情報を返します。
商社での典型的な悪いプロンプト例と改善案
悪い例①:「最近注目されてる業界は?」
→ 回答:「EV、自動運転、再生可能エネルギー」などの定番回答
→ 問題:主語がない、商社との関係が不明、深掘りできない
改善案:
「2024年以降、商社が食品・生活用品領域で投資対象としうる国内企業の業界トレンドを、成長性・寡占度・人口動態との関係性から分析し、レポート形式でまとめて」
悪い例②:「この資料まとめて」
→ 回答:一文要約や箇条書きの羅列
→ 問題:誰向けか、何を目的とするかが不明
改善案:
「このExcel資料(A列:売上、B列:粗利)を、部長向け週報に掲載するため、前年比と計画比の差異を色分けし、棒グラフ1枚+要点3行でまとめて」
職種別:AIに“どう聞くか”の設計ポイント
営業職の場合
営業資料・提案内容の自動生成を依頼するとき、重要なのは:
- 顧客の業種・課題
- 提案する商材の特徴
- 成約時の自社利益構造
- 過去の事例や競合情報の有無
例:
「顧客A社(化学メーカー)が抱える調達課題(輸入原料の価格高騰)に対して、当社が提案可能な代替原料案を、原価・調達安定性・過去取引事例を踏まえて3案提示して」
開発職・IT職の場合
要件定義、設計案、ツール化方針の検討では、
- 出力内容の構造(CSV/JSON/画面レイアウト)
- 入力情報の整備状態(手入力/API取得)
- エラー時の挙動ルール
を明確にする必要があります。
例:
「営業部門が使う原価見積もり支援ツールを開発するにあたり、仕入価格・為替・物流費・税率・保険料を日次更新できる構成で、入力ミス時に候補を再提示するプロンプト構造を考えて」
事務職の場合
資料整形や稟議書作成などでは、以下が重要:
- 提出先の立場と期待値
- 使用目的(報告か稟議かなど)
- 必要な添付資料・形式
- 表現トーン(強め/穏やか/感情を抑えるなど)
例:
「この月次報告書を経理部長に提出するため、売上未達の理由を“物流遅延”にフォーカスして整理。指摘が来ないよう先回り説明を入れた400字の説明文に変えて」
人事職の場合
評価・育成方針・研修設計を支援するプロンプトでは、
- 対象職種と職位
- 評価指標の目的(昇進選抜/業績改善)
- 過去の実績データ
- 求める行動変容
例:
「営業係長クラスのAI活用力評価基準を作りたい。5段階評価で、指示文生成力/出力物の正確性評価/提案への反映力を軸に、評価コメント文例付きで一覧にして」
AI出力が使えない原因の9割は「プロンプトの問題」
AIの出力結果が、
- 表面的で使えない
- どこかズレている
- 意味が通らない
というとき、AIの性能ではなくプロンプトが原因であるケースがほとんどです。
たとえば:
- 「詳しく書いて」→ どの部分を詳しく?
- 「見やすくまとめて」→ 誰にとって見やすい?
- 「簡単な言葉で説明して」→ 誰に説明する体か?
これらは、プロンプトに主語・目的・対象が欠けているため、AIは“平均的な無難な答え”しか返せなくなります。
AI導入フェーズ別:プロンプト設計のレベル感
導入段階 | プロンプト設計の質 |
---|---|
導入初期 | 「◯◯について教えて」→情報を引き出す指示文中心 |
活用期 | 「◯◯向けに××形式で要点を3点まとめて」→出力形態まで指定 |
組織活用 | 「◯◯部署が××のために△△を使う前提で、比較表と提案案を2案」→業務・意図まで反映したプロンプト |
商社における“プロンプト教育”の必要性
プロンプトは、もはや情報処理スキルではなく、思考力そのものの訓練領域です。
商社においては、以下のような教育施策が必要になります:
● 新卒向け:「AIへの問い方入門」研修
● 中堅向け:「部下のAI出力に対するフィードバック法」
● 管理職向け:「戦略課題をAIで分解するプロンプト設計」演習
● 事例共有:「このプロンプトで契約率が上がった」ナレッジ集
AI導入で求められる人材像(第7章)
プロンプト設計という視点で、求められる人材像は以下の通りです:
● 抽象的な目的を具体的な指示に言語化できる人
● 相手(AIや人間)の立場に立って“伝え方”を選べる人
● 失敗したプロンプトを“分析して改善できる”人
● 情報を“正確かつ伝わる形”で切り出せる人
第8回:AIで成果を出す商社、出せない商社 ― 組織の違いはどこにあるか?
AIを導入したものの、成果が出る企業と出ない企業の差は歴然としています。
同じツール、同じナレッジ、同じタイミングでスタートしても――
● ある商社では、「既存業務の工数が50%削減」
● 別の商社では、「使われないまま“無駄な投資”と認定」
となる。これは、ツールの良し悪しではなく、組織の使い方・文化・設計思想の違いが明確に現れた結果です。
成果を出せる商社の特徴①:「AIは人間の道具」と位置付けている
成果が出せている商社では、AIを“業務効率化ツール”ではなく、**「人間の仕事の質を引き上げる道具」**として明確に位置づけています。
このような企業では、以下のような共通点があります:
● AIの出力に対して、**「なぜこう出たのか」**を議論できる文化
● AIを通じて“仕事の意味”を問い直す仕組み
● 部署ごとにプロンプトの共有文化がある(SlackやWikiなどで可視化)
成果を出せない商社の特徴①:「AIは作業代行者」と誤解している
一方、成果が出せていない商社では、AIを“自動でやってくれる便利屋”として導入し、次のような問題に直面しています:
● 思ったほど楽にならない
● 結果が微妙なので結局やり直す羽目になる
● 上司が「使うな、責任が取れない」と指示する
これは、AIの出力を人間が補正する“新しい作業”の設計が不在だからです。
「全部やってくれると思ってた」と考える時点で、運用レベルで破綻しています。
成果を出せる商社の特徴②:評価制度に「AI活用」が含まれている
AI導入が成功している企業では、人事評価・成果指標に“AI活用力”が含まれています。
たとえば:
● 提案資料におけるAI活用率と人間修正率の報告
● 若手社員の“プロンプト力”を可視化したOJTログ
● AI活用による営業成績向上や業務改善の報告を半期評価に加味
こうした制度によって、「使わないと損になる空気」が現場に自然と根付いています。
成果を出せない商社の特徴②:評価が旧来の“努力量”のまま
逆に、AIを導入しても成果が出ない商社では、次のような文化が温存されています:
● AIを使って成果が出ても「手を抜いた」と評価が下がる
● 一日かけて作った報告書>AIで3分で作った報告書、という評価傾向
● “自分の力でやらないと身につかない”という若手指導方針
結果的に、AIを使うほど評価が下がる逆インセンティブが生まれてしまっています。
成果を出せる商社の特徴③:AI教育が階層別に設計されている
成功している商社では、新卒〜管理職まで、階層ごとのAIリテラシー教育を制度的に整備しています。
● 新卒:プロンプト演習・出力判断トレーニング
● 中堅:部下指導・AI活用のチーム設計
● 管理職:AIで判断材料を引き出し、意思決定するワークショップ
● 役員:経営戦略とAI導入計画の整合性レビュー支援
といった教育設計により、「AIを誰がどの深さでどう使うか」が明文化されています。
成果を出せない商社の特徴③:研修が1回で終わっている
● 「ChatGPTの使い方セミナー」を1度実施して終了
● ハウツーだけを説明し、現場での使い方は丸投げ
● 部署によって活用度がバラバラ(放任主義)
このような企業では、現場社員は「結局どう使えばいいかわからない」と混乱し、AIは数名の有志だけが使って終わる状態になります。
成果を出せる商社の特徴④:「人間が考える領域」を守っている
AI活用がうまくいっている企業ほど、次のように“人間の役割”を明確に定義しています:
● AIは「案を出す」
● 人間は「案を選ぶ・整える・伝える」
● 判断と責任は人が持つ
この役割分担が徹底されているため、“AI任せで判断が鈍る”という事態が発生しません。
成果を出せない商社の特徴④:「AIが間違えたら誰のせいか」で揉める
AI出力に対して、
● 「この内容でいいのか?」と管理職が不安を示す
● 「お前がAIに聞いたんだろ」と部下を責める
● 誰も“最終判断”を引き受けず、全体がフリーズする
といった、責任の曖昧さがAI導入を鈍化させる典型例です。責任の所在を“判断者”と定義せず、“作業者”に押しつけてしまう文化では、AIは機能しません。
成果を出す組織の共通ポイントまとめ
項目 | 成果が出る商社 | 出ない商社 |
---|---|---|
AIの位置づけ | 人間を補助する“道具” | 自動化する“便利屋” |
評価制度への組み込み | AI活用が評価指標に含まれる | 手間をかけた方が高評価 |
教育体制 | 階層別・継続的に実施 | 一回研修・全社共通 |
人間とAIの役割分担 | 判断・構成・調整は人が担う | 曖昧で責任が不明 |
現場での文化 | 使って議論する文化 | 使うこと自体に“抵抗感”がある |
成果を出すために必要な設計・習慣とは
成功している商社では、AIの“導入”ではなく、“運用設計と習慣化”に投資しています。具体的には:
● 社内で使われているプロンプトを収集し、使えるよう整理(ナレッジ化)
● 各部署の代表者がAI活用をリード(AIアンバサダー制度)
● AIの誤出力・失敗事例を定期的にレビューし、改善策を共有
● 「AIに任せすぎたとき、どう補うか」のフローチャートを全社で共有
このような組織設計と文化醸成がなければ、いかなる高機能AIも形骸化します。
AI導入で成果を出す人材像(第8章)
この章を通じて明らかになった「成果が出る商社の人材像」は以下の通りです。
● AIと“分担する”意識を持ち、自ら責任領域を定義できる
● 出力結果を咀嚼し、“どう使うか”を提案できる
● 現場での改善点・工夫点をチームで共有できる
● 評価軸を“作業量”から“設計力”に切り替えられる
第9回:AI導入でつまずく商社の“失敗パターン”とその回避策
「AIを入れたら全部うまくいく」――これは幻想です。
事実、ChatGPTや自社用AIツールを導入しても、
● 思ったより使われない
● 効果がよく分からない
● トラブルや混乱だけが残る
という声が、商社を含む多くの企業で見られます。
ではなぜ、そうなるのか?
今回は、商社のAI導入に特有の「つまずき方」と、それに対する具体的な解決策を整理していきます。
失敗例①:「とりあえず全社導入してみた」パターン
ある総合商社では、「ChatGPT for Enterprise」を全社員に配布しました。
ところが――
● 現場の半分以上が使っていない
● 機能を把握しているのは一部の“情報強者”だけ
● セキュリティ懸念から一部部署では使用禁止状態
結果、高額な導入費用に対して「使われていない」ことが明るみに出て炎上。
これは「使う前提で導入した」ことによる戦略ミスです。
回避策:
AI導入は「小さく始めて、大きく育てる」が鉄則です。
まずは以下を実施すべきです:
● 限定部門でPoC(概念実証)を実施
● 使われたプロンプト・用途を可視化
● 定量評価をレポートとして提出し、拡大判断
失敗例②:「研修を一回やって終わり」パターン
とある専門商社では、ChatGPT導入に際し、全社員向けに1回のセミナーを実施。
資料は配布されたが、それっきり。
その後、現場では次のような声が上がりました:
● 「業務でどう使えばいいかわからない」
● 「そもそもプロンプトって何?」
● 「上司が知らないので相談しにくい」
結果、“使い方が分からないから使わない”という負の連鎖に。
これは、教育・トレーニング設計の欠如による失敗です。
回避策:
● プロンプト演習・活用事例を交えた部署別トレーニングを設計
● 半年に一度、社内ハッカソン/プロンプトレビュー会を開催
● 使った人の声や事例をSlack・社内Wiki等に可視化・共有
● 「使い方がわからない人向けの相談窓口」をAI担当部署に設置
失敗例③:「AIを使ったら怒られた」パターン
特に伝統的な組織文化が強い商社では、こうした声もよく見られます:
● 「AI使って手を抜いたのか?」
● 「それ誰が責任取るの?」
● 「間違ってたらどうする?」
結果的に、AIを使うほど評価が下がる文化が形成されてしまいます。
この「文化的逆インセンティブ」が最大のボトルネックとなります。
回避策:
● 評価制度に「AI活用実績」や「業務改善貢献」を含める
● 管理職に対する「AI意思決定支援セミナー」を実施
● 「どこまでAI、どこから人」の責任境界をマニュアル化
● 社内の“失敗事例”も積極的に共有し、AI活用に安心感を
失敗例④:「情報システム部が全権を握っている」パターン
AI導入を情報システム部門主導で進めた結果、以下のような事態が発生します:
● 現場のニーズと乖離した仕様
● 管理画面や操作権限が煩雑で現場に浸透しない
● セキュリティやポリシーで“現場での試行錯誤”が封じられる
結果的に、「使えるようで使えない」状態になります。
回避策:
● AI導入プロジェクトは現場部門との共同運用体制にすべき
● 情報システム部は“守り”(安全性・統制)を担い、
“攻め”(使いこなし・運用)は現場主導に任せる
● AIガイドライン策定時は現場意見を取り入れ、
運用の中で逐次改善できる「更新可能設計」にする
失敗例⑤:「導入目的が“時流に乗るため”だった」パターン
「DXを掲げているからAIも入れよう」
「上場企業として最先端の取り組みをしてるアピール」
といった“外向けの見栄え”を目的にAI導入した場合、以下のような空虚な状態になります:
● 中身が伴わないので実運用されない
● 経営層が“満足して終わる”だけで現場に波及しない
● 投資効果が不明瞭で、翌年度に打ち切り
回避策:
● AI導入の目的は「何の業務を、どの指標で、どこまで改善するか」まで定量定義
● 経営層には、PoCレポート・成功失敗事例を数字で提示
● 実運用に耐えられる“泥臭い設計”を、導入初期から覚悟しておく
「AI導入に失敗したとき」の企業に共通すること
- 「どの業務に、なぜ使うか」が決まっていない
- 「誰が使って、誰が管理するか」が不明確
- 「失敗しても試せる環境」が整っていない
- 「AIは勝手に仕事を代わってくれる」と勘違いしている
この4つが揃うと、どんなに高機能なAIも無力化されます。
導入に成功するための最低条件
- 対象業務を具体的に定める
→たとえば「営業資料のたたき台作成」など、小さなユースケースから。 - 現場の“責任者”を決める
→使い方を決め、評価も行う立場の「AI担当リーダー」を任命。 - 小さく試して、データを取る
→プロンプト、出力、修正時間、満足度などを蓄積・分析。 - 成果と失敗を両方共有する文化をつくる
→SlackやWikiでの事例共有が鍵。
まとめ:AI導入は“技術”ではなく“設計力”で決まる
AI導入の成否は、技術選定やツールの性能ではなく、使う前の“設計”で8割が決まります。
● どの業務にどう使うのか
● 誰が管理し、どう改善するのか
● 使う人が安心して試せる環境があるか
この“設計思想と運用体制”が整っていれば、導入規模が小さくても、現場での効果は確実に出ます。
第10回:プロンプト次第で商社は変わる ― 現場で使えるプロンプト事例集
商社の現場でAIを導入しても、「よく分からない答えしか返ってこない」と感じた人は少なくありません。
その原因のほとんどが、「プロンプト=AIへの指示文」の設計ミスです。
AIは命令の出し方ひとつで、役立つ存在にも、役立たない存在にもなる。
つまり「プロンプト力」が、そのまま仕事力になる時代が来ています。
商社で多用される4業務カテゴリとプロンプト例
今回は以下の4カテゴリに分けて、現場で“そのまま使える”プロンプトを提示します:
- 営業支援
- 開発・新規事業
- 事務・社内資料作成
- 人事・組織づくり
1.営業支援:提案資料/メール/ヒアリング設計
● 商材紹介のたたき台
「法人向け○○サービスを、わかりやすく1ページで紹介する資料構成を作ってください。導入企業の事例と効果も添えてください。」
→PowerPointの構成案+見出しレベルで出力可能。
● 提案書に差し込む“他社事例”
「総合商社が食品領域で行っているAI活用事例を5つ、簡潔に紹介してください。」
→競合動向リサーチを自動化できる。
● クライアント向け初回ヒアリング項目の設計
「食品輸出事業に関心のある企業に対して、初回のヒアリングで聞くべき10項目を作成してください。課題・予算・導入の障壁など含めてください。」
→営業経験の浅い担当でも、網羅的な項目設計が可能。
● アポ獲得メールの草案
「〇〇商材について、アポ獲得を目的とした営業メール文を作成してください。受け手は製造業の購買部門で、導入実績・効果・簡潔な構成を希望します。」
→ABテスト用に複数案生成も可能。
2.開発・新規事業:アイデア発想/壁打ち/収益モデル構築
● 新規事業のアイデア出し
「東南アジア市場で、商社が展開できそうな食品加工事業を5つ考えてください。現地ニーズ・インフラ状況を踏まえて、収益モデルも添えてください。」
→情報を与えるほど、具体度も上がる。
● 競合との差別化案の検討
「既存の○○業界で、AIを活用して差別化できる新規サービスを考えてください。既存プレイヤーの動向と課題を踏まえてください。」
→競合分析や“発想の壁打ち”に有効。
● 投資判断の仮説整理
「再エネ分野の中で、商社として投資を検討すべきテーマを3つに絞り、その理由・リスク・収益見通しを200字ずつで説明してください。」
→事業企画の“粗い一次整理”が即座に可能。
3.事務・社内資料:報告書/議事録/調査まとめ
● 報告書のたたき台作成
「本日行った部内会議の内容を元に、部長向けの報告書のたたき台を作ってください。議題は○○で、出た意見は××でした。」
→構成・要約力を活かせる典型タスク。
● 議事録の要約
「以下の会議メモを、参加者ごとに要約してください。(内容)」
→要点が散乱しているメモでも、自動で整理。
● 調査資料の構成案
「○○業界の2024年の動向調査レポートを作成したいです。章立てと主要論点を整理してください。」
→「骨子構成」だけAIに任せて、肉付けは人が行うのが理想。
4.人事・組織:制度設計/人材要件/社員教育
● 中堅社員向け研修プログラム案
「30代社員のリーダーシップ育成を目的とした、半年間の社内研修プログラム案を作成してください。月1回、2時間の座学+ワークを想定してください。」
→研修会社に出す前のたたき台として有効。
● ジョブディスクリプションの作成
「海外事業開発部門のポジションに対して、ジョブディスクリプションを作成してください。役割・成果指標・必要スキルを明確に記載してください。」
→採用活動のスピードが上がる。
● 新卒向け説明会のトークスクリプト
「商社の新卒向け会社説明会における、10分間のスピーチ草案を作成してください。特徴・仕事の内容・成長環境などを学生目線でわかりやすく。」
→対外発信文にも応用可。
プロンプト設計の“型”を覚えておけば強い
以下の構造でプロンプトを設計すると、汎用性が高く、再利用も簡単になります:
「〜〜の目的で、××な人に向けて、〇〇の形式で、△△の内容を、□□字程度で作成してください。」
具体例:
「営業支援の目的で、BtoB企業向けに、PowerPointの構成形式で、導入事例と効果をまとめた資料を、200字程度で作成してください。」
このように目的・相手・形式・内容・分量を押さえると、質の高いアウトプットが得られます。
まとめ:プロンプトは“現場の言葉”に近づけるほど強い
● プロンプトが抽象的すぎると、AIも抽象的な回答になる
● 業務文脈を盛り込むことで、現実に即した出力が得られる
● 「たたき台作成 →人が仕上げる」分業構造を設計すると成果が出る
第11回:“AIを使いこなす人材”とは誰か? 商社における新しい役割と評価制度
AI導入の成否は、「ツールの良し悪し」ではなく、使う人間側のスキルと姿勢に大きく左右されます。
同じAIでも、ある人が使えば業務効率が爆発的に上がり、別の人が使えば逆に混乱を招く。
この差を生むのが、「AIを使いこなす人材かどうか」という視点です。
では、商社においてそれは誰か? どんなスキルが必要で、どう評価すべきか? 本稿で明確にします。
商社における“AI活用人材”の3分類
商社でAIを業務に落とし込むには、3種類の人材が必要です。
● ① AIフロント実務者(現場でプロンプトを書く人)
- 実際にChatGPT等を用いて資料・提案・分析を行う人
- プロンプト設計と業務理解が両立できる人材
- 通常の営業職・企画職・経理などが該当
→ いわば「現場でAIを動かす兵士」
● ② AI中間翻訳者(業務とAIをつなぐ人)
- 各部門の業務を理解し、AI化の手順を構築できる人
- 業務フロー・手順設計・マニュアル整備・検証を担当
- IT部門や企画職に配置されやすい
→「AIに何をやらせればいいか」を見つける職種
● ③ AI設計・戦略層(経営とAIの導線を設計)
- 各事業におけるAI導入ロードマップを描く人
- データ整備、投資判断、ツール選定、組織設計を担う
- 役員層/CDO(Chief Digital Officer)クラス
→「AIで儲ける仕組みをつくる人」
各層で必要なスキルセット
● AIフロント実務者
- 業務知識(提案書、調査、議事録…など)
- 基本的な文章力/構成力
- プロンプト設計力(明確・具体・業務文脈を盛り込む力)
- 実験的な姿勢と検証習慣
● AI中間翻訳者
- 業務フロー設計スキル
- 業務課題を抽出する力
- 社内用語・手順・ルールをAI言語に落とすスキル
- “現場に受け入れられる実装”を考える視点
● AI戦略層
- 中長期の業務構造/人材戦略の設計力
- AI導入によるコスト・リスク・効果の定量評価スキル
- 社内説得・意思決定プロセスへの理解
- ツール選定とデータ整備に関する知識
評価制度:AI活用力をどう評価するか
AI時代においては、従来の“業績評価”だけでなく、次の観点が重要になります:
● プロンプト設計スキルの評価
→ 通常業務を効率化・自動化できる力。再現性の高いプロンプト事例を持っているか。
● 再現性と応用性のある活用事例数
→「一度だけ成功した」ではなく、仕組み化・マニュアル化し他者にも展開できたか。
● チームに広げる姿勢と教育力
→ 自分だけが使えるのではなく、他者に教えて全体に波及させられる人材か。
● ツール選定・導入に対する提案と実行
→ ITリテラシーを武器に、他部門にも影響力を持つか。
育成:どう育てるか? 社内での教育ステップ
社内教育では、以下の3ステップで進めると有効です。
① 使わせる(習慣化)
- ChatGPTやNotion AIなど、ツールをまず“触らせる”
- 無理に使いこなさせず、習慣として手元に置かせる
② 試させる(事例化)
- 各部門で「AIにやらせてみたこと」を週1で発表
- 成功・失敗を問わず、試行数で評価
③ 広げさせる(展開)
- 使えるプロンプトの事例集を共通ファイル化
- 誰が使っても再現できる形式に整理し、展開力も評価
配置:AI活用人材をどこに置くべきか?
以下の配置が有効です:
● 営業部門の「AIリーダー」ポジション
→ 提案書や商談準備でAIを最大活用
● 総務/人事部門の「AI業務改善チーム」
→ 社内規程・福利厚生・問い合わせ対応の自動化
● 開発/事業企画部門の「AIインテリジェンス係」
→ 新規事業のネタ出し・調査・戦略立案を支援
“AIで出世する人”の特徴
最後に、AI活用によって評価されやすい人材の特徴をまとめます:
● 目的と出力を逆算して考えられる
● 文書構成力・ロジカルライティングに長けている
● 周囲に共有できる仕組みを作れる
● 手を動かして実験を惜しまない
● AIの“間違い”に気づけるリテラシーを持つ
第12回:商社の未来は“使いこなす人”次第 ― AI活用とともに生きる働き方
2023年以降、ChatGPTや画像生成AI、音声合成、RPAなど、ありとあらゆる技術が現場に流れ込むようになりました。
この変化は、かつての「インターネット普及」や「スマホの登場」以上に仕事の中身そのものを変える波です。
とりわけ「情報を扱う」割合が高い商社業務は、その影響をもろに受ける業界の一つ。
ですが、私たちは今、AIに“奪われる”のではなく、“使いこなす”時代に立っていることを改めて確認しましょう。
“人間がやる意味”は、どこにあるのか?
商社の仕事をAIがどこまで担えるのかを検討してきた中で、見えてきたのは次の真理です:
● AIは「最適化」は得意だが、「意味づけ」や「共感」はできない。
商社の業務の中でも、「情報の整理」や「定型文書の作成」はAIに任せられるようになりました。
しかし、「この提案で相手は本当に納得するか?」「この取引先との関係は、どこまで踏み込むべきか?」といった文脈や感情を含む判断は、依然として人にしかできません。
「使いこなす人」の条件とは、“人間らしさ”を武器にできること
AI時代において、最も価値のある人間像はこうです:
● AIの出力を“意味のある提案”に変えられる
● 相手の反応や雰囲気から“次の一手”を調整できる
● 単なる効率化でなく、“共感”を引き出す対話ができる
●「使われる」のでなく、「目的を持って使う」立場にいる
つまり、AIが出した“素材”を、人間が“完成品”に仕上げる構図こそが、これからの商社の在り方です。
商社で“残る人・消える人”の分かれ目
AI時代の商社では、以下のような違いで役割の明暗が分かれます。
残る人 | 消える人 |
---|---|
AIの出力に疑問を持ち、確認・修正できる | 出された答えを鵜呑みにして使う |
相手の気持ちや行間を読む | 指示された情報だけで動く |
問題の背景を探り、解決策を自ら作る | 言われたことだけを片付ける |
部門を超えてAI事例を展開できる | 自分の業務だけで手一杯になる |
この差は、スキルの有無よりも、姿勢と習慣の違いに起因します。
日々「考える」「つなぐ」「意味づける」行動があるかどうか。それが、残る鍵です。
「人にしかできない仕事」とは何か?
商社でAIでは代替できない仕事は、次の3つに収斂します。
① 解釈:複雑な事象を、“相手のため”にわかりやすく翻訳する力
原材料高騰・為替変動・政情不安など、単なるデータでは伝わらない影響を、相手目線で言い換える力。
② 企画:意味や価値を乗せて、ゼロから新しい提案を作る力
AIは“既存のものの組み合わせ”は得意でも、「意味を作る」のは不得意。
企画とは「この商品をこう見せれば、相手は動く」と考える“人間の感性”の仕事です。
③ 関係構築:信頼・配慮・空気を読む力
AIにはできない、「あのとき助けてくれたから、今度はこちらが譲ろう」といった感情の応酬や信頼の積み重ね。
これは、商社における“取引の本質”にほかなりません。
未来への処方箋:AI活用 × 人間力の融合
AI活用の行き着く先は、「人間の判断力・感性を、さらに研ぎ澄ませること」です。
AIが自動でやってくれるからこそ、人間はもっと“本質的な問い”に向き合う時間を持てる。
● この取引先は、本当に自社にとって必要なのか?
● 社内で改善すべき文化はどこにあるのか?
● 新しい価値は、どこから生まれるのか?
こうした問いに向き合い、考え、対話し、動ける人材こそが、**AI時代の商社で“必要とされ続ける人”**です。
おわりに:AI時代を恐れるな、“操縦席”に座ろう
AIに仕事を奪われるかどうかは、“AIに乗る側”に回れるか次第です。
「便利な道具」として使いこなせば、商社の仕事はより創造的になり、より面白くなります。
むしろ今後は、“AIと何を生み出せるか”で差がつく。
そのスタートラインに、あなた自身がいつ立つかが、未来のキャリアを左右します。