氷河期世代の就職が厳しかったのはなぜ? 転職に不利と言われる理由を徹底解説
「氷河期世代」という言葉を耳にしたことはありますか? 主に1970年代前半から1980年代半ばまでに生まれた世代を指し、彼らが社会に出た1990年代半ばから2000年代前半にかけては、日本の経済が大きく落ち込んだ時期と重なります。この時期は「失われた10年」「失われた20年」などと呼ばれ、多くの企業が採用を抑制したため、氷河期世代の就職活動は極めて厳しいものとなりました。
氷河期世代とは? 定義と時代の背景
まず、「氷河期世代」がどのような世代を指すのか、そして彼らが社会に出た当時の経済状況はどうだったのかを確認しておきましょう。
氷河期世代の定義
氷河期世代とは、一般的に1970年代前半から1980年代半ば頃に生まれた世代を指します。明確な定義があるわけではありませんが、彼らが大学や短大、専門学校を卒業し、就職活動を行った時期が、ちょうどバブル崩壊後の日本経済が低迷期にあった1990年代半ばから2000年代前半と重なります。
具体的には、およそ1993年頃から2005年頃までに新卒として就職活動を行った人々が該当するとされています。
バブル崩壊と「失われた10年・20年」
氷河期世代が社会に出る直前の日本は、1980年代後半に「バブル景気」を謳歌していました。しかし、1990年代に入るとバブルは崩壊。過剰な設備投資や不動産投資が破綻し、金融機関の不良債権問題が深刻化しました。
これにより、日本経済は長期にわたる低迷期に突入します。これが一般に「失われた10年」、さらにその後の低迷も加わって「失われた20年」と呼ばれる時代です。企業は軒並み業績が悪化し、倒産やリストラが相次ぎました。
このような経済状況の中、企業は新卒採用を大幅に抑制しました。これが、氷河期世代の就職活動を極めて困難なものにした最大の要因です。
氷河期世代の就職が厳しかった具体的な理由
氷河期世代の就職難は、単に景気が悪かったからというだけでなく、複数の要因が複雑に絡み合って生じました。ここでは、その具体的な理由を詳しく見ていきましょう。
企業の採用抑制と求人数の激減
バブル崩壊後、多くの企業は経営立て直しのために、まず人件費の削減に着手しました。その最も分かりやすい表れが、新卒採用の大幅な抑制です。
- 求人倍率の歴史的低水準: 景気が良かった時代には「売り手市場」と呼ばれ、学生一人あたりの求人数が複数あったのに対し、氷河期には「買い手市場」へと一変。求人倍率は1倍を大きく下回り、一部の時期には0.5倍前後まで落ち込みました。これは、学生2人に対して求人が1つしかないという状況を意味します。
- 大企業の採用絞り込み: 安定志向の学生が殺到する大手企業ほど、採用枠が極端に縮小されました。例年数百人を採用していた企業が数十人にまで減らすケースも珍しくありませんでした。
- 中小企業の連鎖倒産: 大手だけでなく、景気の悪化は多くの中小企業をも直撃し、倒産件数が増加しました。これにより、もともと新卒採用の受け皿となっていた中小企業からの求人も激減しました。
このように、新卒の受け皿となる企業の数が減り、さらに個々の企業も採用数を絞り込んだため、求職者である氷河期世代の学生たちは極めて厳しい状況に置かれたのです。
ポテンシャル採用から即戦力採用への変化
それまでの日本企業の新卒採用は、学生の将来性や潜在能力を見込んで採用する「ポテンシャル採用」が主流でした。入社後に時間をかけて教育し、会社の文化になじませ、長期的に育成していくという考え方です。
しかし、景気悪化の中で企業に余裕がなくなり、即戦力を求める傾向が強まりました。
- 入社後の研修期間の短縮: 従来のような手厚い研修を行う余裕がなくなり、OJT(On-the-Job Training)で早期に現場での活躍を求めるようになりました。
- 専門性やスキルへの要求: 文系学生に対しても、語学力やPCスキルなど、入社後にすぐに役立つスキルを求める企業が増え始めました。
- 新卒の一括採用システムの変化: 従来の画一的な新卒一括採用を見直し、通年採用や職種別採用を導入する企業も現れ始めました。これは多様な人材を確保する狙いもありましたが、結果的に「すぐに使える人材」を選別する傾向を強めました。
ポテンシャルを評価される機会が減り、学生のうちから高いスキルや経験が求められるようになったことも、当時の学生たちを苦しめました。
非正規雇用の増加と正社員ポストの減少
企業の経営悪化は、正規雇用の抑制だけでなく、非正規雇用の拡大という形で現れました。
- 人員構成の歪み: 正社員の採用を抑える一方で、人件費の安いパートタイマーやアルバイト、派遣社員などを増やす企業が増えました。これにより、企業の人員構成が歪み、若年層の正社員が少なくなっていきました。
- 「就職浪人」の増加: 新卒で正社員になれなかった学生の中には、翌年以降も就職活動を続ける「就職浪人」となる人が増加しました。しかし、一度新卒のチャンスを逃すと、既卒として正社員の道を探すのはさらに困難な状況でした。
- 「非正規から抜け出せない」問題: 仕方なく非正規雇用で働き始めた人の中には、その後も正社員の職を得られず、非正規のままでキャリアを積むことになったケースが多数存在します。これは、現在の「非正規雇用の固定化」問題の根源ともなっています。
正社員として社会に出るという選択肢が狭められ、結果的に非正規雇用としてキャリアをスタートせざるを得なかった人々が多数生まれたことも、氷河期世代の大きな特徴です。
大学・短大の増加による「大卒」の希少性低下
バブル期からその後の時期にかけて、日本では大学や短期大学の数が増加しました。
- 進学率の上昇: 大学進学率が上昇し、大卒者の数は増加しました。これにより、かつては比較的希少だった「大卒」という学歴が、社会全体の労働力供給量の中で一般的なものとなり、企業側から見た際の希少性が低下しました。
- 学歴フィルターの変化: かつては「大卒」であることが一定のフィルターになっていましたが、大卒者が増えたことで、企業はさらに上位大学や特定の学部出身者、あるいは特別なスキルを持つ学生を求める傾向を強めました。
- 「大学に行けば安心」の幻想: 親世代が経験した「大学に行けば良い会社に入れる」という図式が、氷河期世代には通用しなくなりました。高額な学費を払って大学を卒業しても、望むような職に就けないという現実に直面しました。
大卒者の増加は、個々の学生の「学歴」というアドバンテージを相対的に低下させ、就職の競争をさらに激化させる要因の一つとなりました
氷河期世代が転職に不利と言われる理由
新卒時の就職難を乗り越えても、氷河期世代は転職においても不利な状況に置かれることがあると言われています。その理由は何でしょうか。
キャリア形成の「空白期間」や「遠回り」
新卒で希望する職種や企業に就職できなかった結果、氷河期世代の中には以下のようなキャリアパスをたどった人が少なくありません。
- 希望職種とは異なる業種・職種への就職: 正社員としての職を得るために、本意ではない業種や職種に就職せざるを得なかったケース。
- 非正規雇用でのキャリアスタート: アルバイト、契約社員、派遣社員として社会人経験を積んだケース。正社員としての職務経験が不足していると見なされがちです。
- 「就職浪人」や「フリーター」期間: 新卒のチャンスを逃し、再就職まで時間を要したり、非正規で働きながら正社員を目指したりした期間。この空白期間や非正規での職務経験が、転職時に不利に働くことがあります。
- 早期離職: 厳しい状況で入社したものの、ミスマッチや職場の人間関係、待遇などで早期に離職せざるを得なかったケース。転職回数が多くなると、企業から「定着しない人材」と見なされるリスクがあります。
これらの「遠回り」や「空白期間」は、現職でのキャリアが浅い、または一貫性がないと評価され、転職市場において不利な要因となることがあります
スキル・経験のミスマッチと機会損失
新卒時に厳しい状況だったため、十分なキャリア形成ができなかった結果、転職において求められるスキルや経験が不足していると見なされる場合があります。
- 専門性の不足: 希望しない職種に就いた結果、特定の専門スキルを十分に深める機会がなかったり、市場価値の高いスキルを習得できなかったりするケース。
- 管理職経験の不足: 企業によっては、正社員の若年層が少なかったり、早期退職者が多かったりした影響で、年齢が上がってもなかなか管理職のポストに就けず、マネジメント経験を積む機会が少なかったりします。
- 最新スキルのキャッチアップの遅れ: 不安定な雇用形態であったり、企業に教育投資の余裕がなかったりしたため、ITスキルやデジタルマーケティングなど、時代の変化とともに求められる最新スキルを学ぶ機会が限られていた可能性があります。
転職市場では、即戦力として期待されることが多いため、これらのスキルや経験のミスマッチは大きなハンディキャップとなります
企業の採用側の意識と年齢の壁
転職市場においては、年齢が上がるほど即戦力としての経験やスキルが強く求められるようになります。
- 「伸びしろ」への期待の低下: 若手であれば「伸びしろ」や「ポテンシャル」が評価されることがありますが、年齢が上がると、現時点での実績やスキルがより重視されます。
- 企業文化との適応性: 年齢が上がると、これまでの経験や働き方が固定化されていると見なされ、新しい企業文化への適応性が低いと判断されるケースもあります。
- 昇進・昇給ラインの考慮: 企業が中途採用を行う際、将来的な昇進・昇給のラインや、既存社員とのバランスを考慮することがあります。年齢が高い中途採用者に対して、将来のキャリアパスをイメージしにくいという理由で採用を見送るケースも存在します。
- 「氷河期世代」へのステレオタイプ: 採用担当者の中に、「氷河期世代は就職に苦労したから、多少スキルが足りなくても仕方ない」という温情的な見方がある一方で、「就職に苦労したからこそ、ハングリー精神が強いはずだ」という期待や、「これまでのキャリアに一貫性がない人が多い」といった固定観念を持っている人もいるかもしれません。
これらの採用側の意識や年齢の壁が、氷河期世代の転職活動をより難しくしている要因となり得ます。
氷河期世代が抱える心理的・社会的な影響
新卒時の就職難、そしてその後のキャリア形成の困難さは、氷河期世代に多大な心理的・社会的な影響を与えています。
自尊心の低下と将来への不安
- 自己肯定感の揺らぎ: 努力しても報われない経験が多かったため、「自分は社会に必要とされていないのではないか」「自分には能力がないのではないか」といった自己肯定感の低下を経験した人が少なくありません。
- 将来への漠然とした不安: 安定したキャリアを築けなかったことや、年金、老後の生活に対する不安を抱えている人が多くいます。非正規雇用の場合、経済的な基盤が不安定なため、より一層不安が募ります。
- 「普通」への憧れと葛藤: 周囲の友人が安定した職に就き、結婚し、家庭を築いていく中で、「自分だけが取り残されている」という焦りや劣等感を抱える人もいます。「普通の人生」を歩むことが困難だったことへの葛藤を抱えています。
これらの心理的な負担は、精神的な健康にも影響を及ぼし、社会参加への意欲を低下させる可能性もあります。
経済的な困難と格差の固定化
- 低所得の固定化: 新卒時に低賃金でキャリアをスタートしたり、非正規雇用が続いたりしたことで、収入が上がりにくい状況に陥る人が多くいます。
- 貯蓄の困難: 収入が少ないため、貯蓄が十分にできず、老後の資金形成や万が一の病気・事故への備えが難しい状況にあります。
- 住宅・結婚の困難: 安定した収入が得られないため、住宅ローンが組みにくい、結婚に踏み切れない、子育てに経済的な不安を感じるなど、ライフイベントにも影響が出ています。
- 世代間格差の拡大: 安定したバブル期を経験した親世代や、景気回復期に就職した若い世代との間で、経済的な格差が拡大し、それが固定化する傾向にあります。
経済的な困難は、生活の質を低下させるだけでなく、社会的な孤立を招くリスクも抱えています。
社会保障制度への影響
氷河期世代の経済的な困難は、社会保障制度にも大きな影響を与えています
- 年金問題: 低所得のため年金保険料を十分に納められていない、あるいは未納期間がある人がいるため、将来の年金受給額が少なくなる可能性があります。これは、現在の年金制度全体の持続可能性にも影響します。
- 医療・介護問題: 経済的に厳しい状況にある人が多いため、医療費や介護費用を十分に賄えない可能性もあります。
氷河期世代が抱える問題は、個人の問題に留まらず、社会全体の課題として認識されるべきものです。
氷河期世代支援の取り組みと今後の展望
このような深刻な状況を受け、近年、政府や自治体は氷河期世代の支援策を打ち出しています
政府による就職・転職支援策
2019年には、政府が「就職氷河期世代支援プログラム」を策定し、集中的な支援を行う方針を打ち出しました。
- 正社員化支援: ハローワークでの専門相談窓口の設置、企業への採用奨励金、非正規雇用から正社員への転換支援などが行われています。
- 再教育・スキルアップ支援: キャリアアップのための職業訓練、デジタルスキルやITスキルの習得支援など、再教育の機会を提供しています。
- 公務員の中途採用: 一部の自治体では、氷河期世代を対象とした公務員の中途採用枠を設けるなど、安定した職への就職を後押しする動きもあります。
- 企業への啓発: 企業に対して、氷河期世代の採用を促すための啓発活動や、多様な人材の受け入れを推進する働きかけも行われています。
これらの支援策は、長年にわたる氷河期世代の困難を解消するための重要な一歩と言えます。
個人でできるキャリア形成
もちろん、個人の努力も重要です。厳しい状況を乗り越えるために、以下のような行動が考えられます。
- スキルの棚卸しと可視化: これまでの職務経験で培ったスキルや強みを明確にし、それを客観的にアピールできるように整理しましょう。一見、関連性が薄いと思える経験でも、汎用性の高いスキル(コミュニケーション能力、問題解決能力など)を見出すことが重要です。
- キャリアの再設計と目標設定: 今後どのようなキャリアを築きたいのか、具体的な目標を設定しましょう。そのために必要なスキルや経験を洗い出し、計画的に習得していくことが大切です。
- リスキリング(学び直し)と資格取得: デジタルスキル、語学、簿記など、転職市場で需要の高いスキルを学ぶためのリスキリングや、専門性を証明する資格取得に積極的にチャレンジしましょう。オンライン学習プラットフォームや公的な職業訓練制度なども活用できます。
- 転職エージェントの活用: 氷河期世代の支援に力を入れている転職エージェントや、特定の業界・職種に特化したエージェントを活用することで、自分に合った求人を見つけやすくなります。キャリアアドバイザーに相談し、客観的なアドバイスをもらうのも有効です。
- 柔軟な働き方の検討: 正社員にこだわらず、契約社員や派遣社員として専門スキルを磨き、そこから正社員を目指すといった柔軟な働き方も選択肢に入れることで、チャンスが広がることもあります。
- ネットワークの構築: 異業種交流会やオンラインコミュニティなどを活用し、多様な人とのつながりを持つことで、情報収集や新たな機会につながることもあります。
困難な状況だからこそ、主体的に行動し、自身の市場価値を高める努力が求められます
社会全体で考えるべきこと
氷河期世代の問題は、個人の努力だけで解決できるものではありません。社会全体で以下のような点を考える必要があります。
- 企業側の意識改革: 年齢や過去の経歴だけで判断せず、個人の潜在能力や学習意欲を評価する「ポテンシャル採用」の再評価、多様な働き方の推進など、企業側も採用に対する意識を改革する必要があります。
- 再教育機会の充実: 社会人の学び直しを支援するための制度や、企業が従業員のスキルアップに投資しやすい環境を整備することが重要です。
- セーフティネットの強化: 非正規雇用者の待遇改善、社会保障制度のセーフティネットの強化など、経済的に困難な状況にある人々が安心して生活できるような制度設計が求められます。
- 世代間の相互理解: 世代間で抱える課題や価値観の違いを理解し、尊重し合うことで、社会全体の連帯感を高めることが重要です。
氷河期世代が抱える課題は、日本社会全体の構造的な問題でもあります。この世代が持つ経験や能力を社会で活かすことは、少子高齢化が進む日本にとって不可欠なことです
氷河期世代がもたらした教訓
氷河期世代の就職が厳しかったのは、バブル崩壊後の深刻な経済低迷期に、企業が新卒採用を大幅に抑制し、正規雇用が減少したことが最大の理由です。これにより、多くの氷河期世代は希望通りのキャリアを築けず、非正規雇用を余儀なくされたり、就職浪人となったりしました。
そして、その影響は転職市場にも及びます。キャリアの空白期間や経験のミスマッチ、さらには年齢による「伸びしろ」への期待の低下などが、転職活動を不利にする要因となっています。これらの経験は、氷河期世代の心理面にも大きな影響を与え、将来への不安や自己肯定感の低下といった課題を生み出しています。
しかし、近年では政府による支援プログラムや、個人のリスキリングへの意欲など、状況を改善しようとする動きも見られます。氷河期世代が持つ「困難を乗り越える粘り強さ」や「多様な働き方への適応力」といった強みは、これからの社会でこそ求められる資質です。

