アメリカの関税を上げる事によって困るのはアメリカじゃないの?インフレになる理由・アメリカに利益が出る理由

アメリカの関税引き上げはなぜ利益に繋がる?困るのはアメリカで生活する人ではないの?なぜインフレになる?本当に利益が出る?

 

近年、ニュースや経済記事で「アメリカが関税を引き上げた」という見出しを目にする機会が増えました。この政策に対し、多くの方が「結局、アメリカの物価が上がるだけじゃないの?」「自分たちの首を絞めることにならない?」といった疑問を抱くのではないでしょうか。

しかし、なぜアメリカはそれでも関税引き上げという道を選ぶのか?そして、この政策がアメリカ経済、ひいては私たちの生活にどのような影響を与えるのかを、インフレのメカニズム、アメリカが得られるとされる具体的な利益、そしてその裏にある複雑な思惑まで、多角的な視点から解説します。

「関税引き上げで困るのはアメリカ」説の核心:インフレが家計を直撃する理由

まず、なぜ関税引き上げがアメリカ国内の物価上昇、すなわちインフレを引き起こし、結果として「アメリカが困る」という見方に繋がるのかを、具体的な例を交えながら詳しく見ていきましょう。関税とは、外国から輸入される商品に対して課される税金のことです。この税金が引き上げられると、様々な経路で私たちの家計に影響を及ぼします。

輸入品の価格がダイレクトに跳ね上がる

関税が引き上げられると、最も直接的に影響を受けるのが輸入品の価格です。輸入業者は、関税によって仕入れコストが増加した分を、そのまま最終的な販売価格に上乗せすることがほとんどです。

  • 具体例:中国製スマートフォンへの関税もしアメリカが、これまでの関税に加えて、中国製スマートフォンに25%の追加関税を課したとしましょう。これまで100ドルで輸入できていたスマートフォンは、関税を含めると125ドルになります。輸入業者はこの125ドルに自社の利益を乗せて販売するため、最終的に消費者が家電量販店で手にするスマートフォンの価格は、以前よりも高くなります。消費者は同じスマートフォンを手に入れるためにより多くのお金を払うか、あるいは性能の低いモデルで我慢せざるを得なくなります。これはスマートフォンのケースだけでなく、衣料品、家電、家具、玩具など、海外からの輸入に大きく依存しているあらゆる商品に当てはまります。

国内製品も「便乗値上げ」する可能性

輸入品の価格が上がると、消費者は相対的に安価な国内製品に目を向けるようになります。これにより、国内製品への需要が増加します。この需要の増加は、国内企業にとって価格を引き上げる「チャンス」となることがあります。

  • 具体例:アメリカ製Tシャツとベトナム製Tシャツこれまで、ベトナム製のTシャツが10ドル、アメリカ製のTシャツが12ドルで販売されていたとします。もしベトナム製Tシャツに関税が課され、価格が13ドルに上がった場合、消費者は「それならアメリカ製のTシャツの方が安いし、品質も良さそう」と考えて、アメリカ製Tシャツを選ぶようになります。すると、アメリカの衣料品メーカーは、これまでよりも多くの注文を受けるようになり、「この機会に、少し価格を上げても売れるだろう」と判断し、アメリカ製Tシャツの価格を12ドルから13ドル、あるいは14ドルに引き上げる可能性があります。輸入品に引っ張られる形で、競合する国内製品も価格を引き上げる傾向は、様々な業界で見られます。

原材料・部品のコスト上昇が波及する

現代の製造業は、グローバルなサプライチェーンによって成り立っています。アメリカ国内で製造される最終製品であっても、その原材料や部品を海外からの輸入に頼っているケースは少なくありません。これらの輸入原材料・部品に関税が課されれば、製造コストが増加し、最終製品の価格に転嫁されることになります。

  • 具体例:アメリカ製自動車とドイツ製エンジン部品アメリカの大手自動車メーカーが、高性能なエンジン部品をドイツから輸入して自社工場で自動車を生産しているとしましょう。もし、ドイツ製のエンジン部品に関税が課された場合、自動車メーカーの部品調達コストは増加します。このコスト増加は、最終的に自動車の販売価格に反映され、新車を購入するアメリカの消費者は、より高い価格を支払うことになります。これは自動車に限らず、家電製品、建設資材、医療機器など、多くの産業で同様の連鎖反応が起こり得ます。

国際的な信頼低下と通貨安のリスク

関税引き上げは、国際的な貿易摩擦を引き起こす可能性があります。報復関税などによって貿易量が減少したり、特定の国からの輸入品が減少したりすれば、経済全体の成長鈍化懸念が高まります。このような懸念は、その国の通貨が売られ、通貨安につながることもあります。

  • 具体例:貿易戦争とドル安アメリカが特定の国に高関税を課したことで、その国もアメリカ製品に報復関税を課し、貿易戦争に発展したとしましょう。これにより、両国の貿易量が激減し、世界経済全体に不確実性が増大したとします。投資家たちはリスクを回避しようと、アメリカドルを売却し始めるかもしれません。ドルが安くなると、アメリカが輸入するすべての商品の価格が相対的に高くなります。なぜなら、同じ量の海外製品を購入するために、より多くのドルが必要になるからです。これは、前述の関税による輸入品価格の上昇に加えて、さらにインフレ圧力を強める要因となります。

このように、関税引き上げは様々な経路でアメリカ国内の物価上昇(インフレ)を招く可能性があり、結果としてアメリカの消費者にとっては購買力の低下生活費の増加という形で負担が増えることになります。この点だけを見れば、「困るのはアメリカ」という見方は確かに一理あります。


 

なぜそれでも関税を上げるのか?アメリカに「利益が出る」とされる?

では、インフレのリスクを冒してまで、なぜアメリカは関税を引き上げようとするのでしょうか?そこには、経済的な目的だけでなく、政治的・戦略的な深い意図が含まれています。アメリカが関税引き上げによって得られると期待する主な「利益」は以下の通りです。

国内産業の「聖域」保護と雇用創出

関税は、海外の安価な製品が大量に流入し、国内産業が打撃を受けるのを防ぐ「保護」の役割が最も重要視されます。関税によって輸入品の価格が上がれば、国内製品の価格競争力が高まり、国内企業の生産活動や雇用が守られやすくなります。これは、単に経済的な話に留まらず、政治的な支持を得る上でも非常に重要な要素です。

  • 具体例:鉄鋼業の再生と雇用確保アメリカの鉄鋼業界は、海外からの安価な鉄鋼の流入により、長年苦境に立たされてきました。多くの製鉄所が閉鎖され、労働者が職を失いました。もしアメリカ政府が輸入鉄鋼に追加関税を課せば、輸入品の価格が上昇し、アメリカ国内で生産される鉄鋼の競争力が高まります。これにより、閉鎖されていた製鉄所の再稼働や、新たな鉄鋼生産ラインの設置が促され、国内に新たな雇用が生まれることが期待されます。これは、特に衰退しつつある伝統的な産業の労働者やその家族にとって、政府への支持に直結する重要な政策となります。

貿易赤字削減という長年の課題

アメリカは長年、巨額の貿易赤字(輸入額が輸出額を上回っている状態)を抱えています。関税を引き上げることで、輸入量を減らし、貿易収支の改善を目指す狙いがあります。輸入が減れば、国内生産が増えるというシナリオを描いています。

  • 具体例:対中貿易赤字の是正アメリカは特に中国に対して巨額の貿易赤字を抱えています。中国からの輸入品に関税を課すことで、アメリカ国内企業がこれまで中国から輸入していた製品を自国で生産するように促すことができます。これにより、中国からの輸入が減少し、同時にアメリカ国内での生産量が増えれば、理論的には貿易赤字の削減に貢献すると考えられます。これは、単に数字上の改善だけでなく、国内の生産基盤を強化し、海外への依存度を下げるという、より広範な目標に繋がっています。

外交・交渉における「最強のカード」

関税は、他国に対する交渉の「切り札」として使われることがあります。特に、不公正な貿易慣行(知的財産権の侵害、政府による補助金、強制的な技術移転など)があると見なす国に対し、関税を課すことで、その国に是正を促す強力な圧力をかけることができます。

  • 具体例:中国の知的財産権侵害に対する圧力アメリカは長年、中国がアメリカ企業の知的財産権を侵害し、技術を不当に取得していると主張してきました。これに対し、アメリカが中国製品に高関税を課すことで、「知的財産権の保護に関する具体的な改善策を示さない限り、関税は撤廃しない」というメッセージを明確に送ることができます。これは、単なる経済的な制裁ではなく、経済的な手段を用いた高度な外交戦略の一環であり、アメリカの国益を最大化するための交渉材料として機能します。

国家安全保障とサプライチェーンの強靭化

特定の製品や技術について、特定の国への依存度が高いことは、有事の際に国家安全保障上のリスクとなり得ます。例えば、パンデミックや地政学的な対立が発生した場合、海外からの供給が途絶えることで、国内経済や社会機能が麻痺する可能性があります。これを避けるため、国内生産を促進する目的で関税が課されることがあります。

  • 具体例:半導体サプライチェーンの国内回帰現在、世界の半導体生産は台湾や韓国など特定の地域に集中しており、アメリカは多くの半導体を海外からの輸入に頼っています。もしこれらの供給が何らかの理由で途絶えれば、自動車、スマートフォン、軍事機器など、半導体を使うあらゆる産業が機能停止に陥る可能性があります。このようなリスクを回避するため、アメリカは海外で生産された半導体に関税を課すことで、アメリカ国内での半導体工場建設や研究開発を奨励し、半導体サプライチェーンを国内に回帰させようとしています。これは、経済的な効率性よりも、国家の安全保障を優先する戦略的な判断と言えます。

政府の財政収入増加(限定的だが一応のメリット)

関税は、政府の歳入(税金)の一つです。関税を引き上げることで、その分の税収が増加し、政府の財政に貢献するという側面もあります。

  • 具体例:特定の輸入品からの歳入増加もしアメリカが年間100億ドル相当の特定の輸入品に関税を25%課した場合、理論上は年間25億ドルの税収が見込めます。この税収は、公共サービスやインフラ整備、あるいは他の減税政策などに充てられる可能性があります。ただし、この財政収入は、上記で述べたインフレによる国民負担や、報復関税による輸出減、経済活動の停滞といった「コスト」と比較すると、限定的なものとなることが多いです。関税の主目的は財政収入の増加よりも、むしろ産業保護や貿易是正にあるのが一般的です。

関税政策は「劇薬」か「特効薬」か?

アメリカの関税引き上げは、確かに国内のインフレを誘発し、消費者の負担を増やす可能性があります。この点だけを見れば、「困るのはアメリカ」という見方は完全に間違っているわけではありません。

しかし、その一方で、国内産業の保護・育成、貿易赤字の削減、他国への交渉材料、国家安全保障の確保といった、アメリカが目指す明確で多岐にわたる目的が存在します。これらの目的は、単に経済的な効率性だけでなく、政治的な安定や長期的な国家戦略に基づくものです。

結局のところ、関税政策は「諸刃の剣」であり、ある意味で「劇薬」のようなものです。短期的なインフレや貿易相手国との関係悪化、報復関税による輸出産業への打撃といったリスクを抱えながらも、長期的な視点で自国の産業競争力強化や国家安全保障の確立を目指すという、非常に複雑で綱渡りのような判断の末に実行される政策と言えます。

この政策がアメリカ経済、ひいては世界経済にどのような影響を及ぼすかは、関税の対象品目、税率、期間、そして他国の反応、さらには国内企業の適応力や消費者の購買行動など、本当に多様な要因によって変動するため、一概に「良い」「悪い」と決めつけることはできません。今後もその動向を注意深く見守っていく必要があるでしょう。


 

日本はアメリカの関税が上がる事によりインフレに進む?デフレ?

アメリカの関税引き上げが日本経済に与える影響は、非常に複雑であり、短期的にはデフレ圧力、中長期的にはインフレ圧力に転じる可能性があります。また、為替レートの変動も大きく影響するため、一概に「インフレ」または「デフレ」と断言することはできません。

短期的な「デフレ圧力」となる可能性

アメリカが関税を引き上げた場合、特に日本からの輸出に高関税が課されると、短期的には日本経済にデフレ圧力がかかる可能性があります。

  • 輸出の減少と国内生産の縮小:アメリカが日本の主要輸出品(特に自動車やその部品など)に関税を課すと、日本からの輸出製品はアメリカ市場で価格競争力を失い、販売量が減少します。輸出が減少すれば、日本の企業は生産量を減らさざるを得なくなり、工場稼働率の低下、設備投資の抑制、さらには雇用の削減につながる可能性があります。
    • 具体例: 日本の自動車メーカーがアメリカに輸出する自動車に関税が25%上乗せされたとします。アメリカでの販売価格が高騰するため、消費者は他国の自動車やアメリカ製自動車に流れるでしょう。これにより、日本の自動車メーカーはアメリカ向けの生産を縮小せざるを得なくなり、日本の国内工場では生産ラインが減ったり、残業が減ったりする可能性があります。関連する部品メーカーなども影響を受け、全体として経済活動が鈍化し、物価が下落する「デフレ」の方向に向かう力が働きます。
  • 国内の供給過剰:輸出できなかった製品が国内市場に回されることで、国内市場で製品がだぶつき、価格競争が激化する可能性があります。
    • 具体例: アメリカに輸出する予定だった家電製品が、関税のために売れ残り、日本国内で在庫を抱えることになったとします。企業は在庫を捌くために、国内で値下げ販売を行う可能性があります。これにより、同種の製品全体で価格が下落し、デフレ圧力が強まります。
  • 為替レートの変動(円高圧力):貿易摩擦やアメリカ経済の悪化懸念などから、リスク回避の動きとして円が買われる(円高になる)可能性があります。円高は、日本の輸出企業の収益を悪化させる(海外での売上を円換算すると減る)ため、企業の価格引き下げ圧力につながります。
    • 具体例: アメリカの景気後退や米中貿易戦争の激化などを受け、投資家がより安全な通貨として円を選び、円高ドル安が進んだとします。1ドル150円だった為替レートが1ドル140円になった場合、日本の輸出企業がアメリカで150ドルの製品を売っても、円に換算すると15,000円だったものが14,000円になり、収益が減少します。収益悪化を補うために、コスト削減や製品価格の引き下げ圧力が強まり、国内の物価に下落要因が働く可能性があります。

中長期的な「インフレ圧力」に転じる可能性

短期的にはデフレ圧力がかかると考えられますが、中長期的にはアメリカからのインフレ圧力が日本にも波及する可能性があります。

  • アメリカ国内のインフレの波及:前述のブログ記事で解説した通り、アメリカの関税引き上げは、アメリカ国内の輸入品価格上昇、国内製品の便乗値上げ、原材料コスト上昇などを通じてインフレを引き起こす可能性が高いです。もしアメリカで持続的なインフレが発生した場合、その影響が様々な経路で日本にも波及する可能性があります。
    • 具体例(グローバル企業の影響): グローバルに展開する日本企業が、アメリカ市場でも事業を展開している場合、アメリカ国内のインフレは、その日本企業のアメリカにおける事業コスト(人件費、原材料費など)を押し上げます。これにより、その企業が日本国内で販売する製品の価格設定にも影響を与える可能性があります。また、アメリカで製造された製品や、アメリカ経由で輸入される製品の価格上昇は、回り回って日本の物価にも影響を与える可能性があります。
  • サプライチェーンの再編とコスト増加:アメリカの関税政策により、日本企業や他国企業が、これまでのグローバルなサプライチェーンを見直し、アメリカ国内での生産や、関税のかからない第三国での生産に切り替える動きが進む可能性があります。このサプライチェーンの再編には、新たな設備投資や物流コストの増加が伴い、最終的に製品価格に転嫁されることで、世界的にコストプッシュ型のインフレ要因となる可能性があります。
    • 具体例: 日本の電子部品メーカーが、中国で生産した部品をアメリカに輸出していたが、高関税のためアメリカ国内に工場を新設するとします。この新工場建設には多大な投資と時間が必要となり、当面の間は中国からの輸入に比べて生産コストが高くなる可能性があります。このコスト増は、最終的に製品の販売価格に反映され、日本を含め世界中の電子機器の価格を押し上げる要因となるかもしれません。
  • 為替レートの変動(円安圧力):前述の短期的な円高圧力とは異なり、長期的には円安圧力がかかる可能性も指摘されています。もしアメリカが関税を交渉材料として日本の政策変更を促すような場合、日本がデフレ脱却のために大規模な金融緩和を続けることになれば、日米の金利差が拡大し、円安がさらに進行する可能性があります。円安は輸入物価を押し上げるため、日本国内のインフレ要因となります。
    • 具体例: アメリカが日本に対して、貿易不均衡是正のため、さらなる円安誘導を暗に求めるような圧力をかけた場合、日本銀行が低金利政策を維持しやすくなる可能性があります。これにより、アメリカの金利との差が広がり、投資家がより高い金利を求めて円を売ってドルを買う動きが加速し、円安が進行します。円安が進めば、原油や食料品など、日本が輸入に頼る資源や物資の価格が上昇し、電気料金や食料品価格などに跳ね返り、家計を圧迫するインフレにつながります。

短期と長期、複数の要因が絡み合う

アメリカの関税引き上げが日本経済に与える影響は、単純にインフレかデフレかだけで語れるものではありません。

  • 短期的な直接的影響: 主に輸出の減少によるデフレ圧力が働きやすい。為替が円高に振れる可能性も、これを後押しする。
  • 中長期的な間接的影響: アメリカ国内のインフレが波及したり、グローバルサプライチェーンの再編に伴うコスト増、あるいは為替(円安)の動きによってはインフレ圧力に転じる可能性がある。

日本の経済状況(現在のインフレ/デフレ状況、景気の強さなど)や、アメリカが具体的にどの品目・国に関税を課すのか、そしてそれに対する日本の企業の対応や為替の動向など、様々な要因が複雑に絡み合って最終的な影響が決まります。

したがって、アメリカの関税政策が日本の物価に与える影響は、常に変動し、多角的に分析する必要があると言えるでしょう。

アメリカの関税が上がる事により恩恵を受けやすい日本の企業・業種は?

アメリカの関税引き上げは、日本経済全体にとっては複雑な影響を及ぼしますが、特定の日本の企業や業種にとっては「恩恵」を受ける、あるいは「悪影響を相対的に受けにくい」状況が生まれる可能性があります。

ここでは、その可能性のある企業・業種について、具体的な理由と例を挙げて解説します。

アメリカ国内に生産拠点を持つ企業

アメリカの関税は輸入品に課されるため、すでにアメリカ国内に生産拠点を持つ日本企業は、関税の影響を直接受けにくく、むしろ競合する輸入品の価格が上がることで、相対的な優位に立つ可能性があります。

  • 理由: 関税の対象外となるため、他国からの輸入品に比べてコスト競争力が高まる。また、アメリカ国内での雇用創出や投資は、米政府からも歓迎されやすい。
  • 具体的な企業・業種例:
    • 自動車メーカー: トヨタ、ホンダ、日産など、長年にわたりアメリカ国内に大規模な生産工場(組立工場、エンジン工場など)を多数持つ企業。アメリカで生産された車両は関税の対象外となるため、日本やメキシコなどから輸入される競合他社の車両よりも価格競争力を持つことができる。
    • 自動車部品メーカー: 自動車メーカーの現地生産に伴い、アメリカ国内に部品工場を持つ企業(例: デンソー、アイシン、ジェイテクトなど)。現地生産部品は関税がかからず、完成車メーカーのサプライチェーンに安定供給できる。
    • タイヤメーカー: ブリヂストンのように、アメリカ国内に大規模なタイヤ生産工場を持つ企業。輸入タイヤに比べてコスト優位性を確立できる。
    • 一部の食品・飲料メーカー: アメリカ市場向けに現地生産を行っている企業。
    • その他、現地で最終製品を組み立てる製造業: 特定の家電製品や産業機械など、米国市場向けに現地生産を行っている企業。

アメリカ国外で、かつ中国以外の第三国に生産拠点を移す・強化する企業

アメリカが中国製品に高関税を課す場合、中国からアメリカへの輸出が困難になったり、コストが高くなったりします。この動きを背景に、日本企業が中国以外の第三国(ベトナム、タイ、インドネシア、メキシコなど)に生産拠点を移す、あるいは既存の拠点を強化することで、関税を回避し、アメリカ市場へのアクセスを維持する戦略をとる場合があります。

  • 理由: 「チャイナプラスワン」の動きが加速し、米中貿易摩擦の回避策として、中国以外の国での生産が有利になる。
  • 具体的な企業・業種例:
    • 電子部品メーカー: 村田製作所、京セラ、TDKなど、中国に多くの生産拠点を持つが、ベトナムやタイなどに代替生産拠点を拡大している企業。
    • アパレル・繊維製品メーカー: ユニクロ(ファーストリテイリング)など、中国からの調達比率が高かった企業が、ベトナムやバングラデシュなどへの生産移管を加速させる動き。
    • 一般機械・電機メーカー: 中国での生産比率を下げ、東南アジアやメキシコなどへの分散を進める企業。
    • ロジスティクス(物流)関連企業: サプライチェーンの再編に伴い、新たな物流ルートや倉庫需要が増加する可能性がある。

 関税の対象外、あるいは影響が限定的なサービス業・技術提供業

関税はモノ(物品)に課される税金であるため、サービスやソフトウェア、知的財産など、物理的な物品の輸出を伴わない事業は、直接的な関税の影響を受けません。

  • 理由: 関税の適用範囲外であるため。
  • 具体的な企業・業種例:
    • IT・ソフトウェア開発企業: アメリカ向けにソフトウェア開発、システム構築、クラウドサービスなどを提供する企業。
    • コンサルティングファーム: 経営戦略、IT戦略、M&Aアドバイスなどをアメリカ企業に提供する企業。
    • コンテンツ産業: ゲーム、アニメ、音楽、映画などのデジタルコンテンツをアメリカに輸出・配信する企業(物理メディアの輸出を除く)。
    • 金融サービス: 銀行、証券、保険など、アメリカ市場で金融サービスを提供する企業。
    • 特許・ライセンス供与企業: 知的財産権をアメリカ企業にライセンス供与し、ロイヤリティ収入を得る企業。

アメリカ国内市場向けに特化したニッチな製品・サービスを提供する企業

アメリカの関税引き上げによって、特定の輸入品の価格が上昇することで、アメリカ国内市場でその代替となる製品やサービスを提供する日本企業が恩恵を受ける可能性があります。

  • 理由: 競合となる輸入品の価格が上がり、相対的に自社製品の競争力が高まるため。
  • 具体的な企業・業種例:
    • 特定の高性能素材メーカー: アメリカ国内で代替生産が難しい、あるいはコストが高い特殊な素材を開発・生産しており、かつアメリカ国内での供給体制を構築できる企業。
    • 独自技術を持つ産業機械メーカー: アメリカ国内で特定の機械の需要が高まり、日本のメーカーがそのニッチな需要に応えられる場合。

円安を背景に輸出競争力を維持できる企業(為替変動による恩恵)

アメリカの関税政策が、もし結果的に円安ドル高を誘発するような経済状況を生み出した場合、輸出型企業にとっては関税の影響を相殺し、輸出競争力を維持しやすい状況になる可能性があります。

  • 理由: 円安は、日本製品のドル建て価格を相対的に安くするため、関税による価格上昇を吸収し、アメリカ市場での価格競争力を保ちやすくなる。
  • 具体的な企業・業種例:
    • 自動車メーカー、電機メーカーなど、幅広い輸出企業: ただし、これは関税の影響が円安の恩恵を上回らない場合に限られる。また、関税によって輸出量が大幅に減少しないことが前提となる。

状況適応能力と戦略が鍵

アメリカの関税引き上げは、日本企業にとって「逆風」となる側面が大きいですが、上記のように、すでにアメリカ国内に生産基盤を持つ企業サプライチェーンを柔軟に再編できる企業、そしてサービス業など関税の直接的影響を受けない業種は、相対的に恩恵を受けやすい、あるいは悪影響を限定的に抑えられる可能性があります。

重要なのは、企業がグローバルな貿易環境の変化にどれだけ迅速かつ柔軟に対応できるか、そして、強靭なサプライチェーンと多様な市場戦略を持っているか、ということになります。