保育園で子持ち同士の恋愛はある?|2ちゃん馴れ初め風エピソードまとめ

この馴れ初め話は著作権フリーで改変も自由・YouTubeの素材やSNSでご使用いただいても問題はありません。ただ以下のリンクを張っていただけたら幸いです。
はっくなび

どこにでもいる俺、3歳児の父です

朝は戦争。夜も戦争。これが育児の日常

仕事も子育ても、どっちも中途半端。それが最近の俺の自己評価だ。

都内で働く普通のサラリーマン。営業職。35歳。会社では「真面目だけど地味」なタイプで、出世もそこそこ、期待もされてないけど怒られるほどではない。そんなポジションで、俺は毎日こなしている。

家には、3歳になる息子がいる。名前は、ここでは伏せる。かわいくて、素直で、でも自己主張もだんだん出てきて……とにかく、俺の人生を180度変えた存在だ。

妻とは、もう1年前に別れた。お互いが悪かったとか、どちらかが浮気をしたとか、そういうのではない。価値観のズレ、というやつだった。気づけば、息子とふたり暮らしになっていた。

朝の準備が、地獄のはじまり

平日の朝は、本当に戦争だ。5時半起き。俺の弁当と、息子の朝食と、保育園用の荷物の準備。息子がパンの耳を嫌がったり、靴下を履くのを嫌がったり、牛乳をこぼしたり。

そのたびに、(あぁもう、時間がないのに)と心の中で舌打ちしながら、なんとか笑顔を作る。

駅前の保育園に着くと、俺と同じような疲れ顔の親たちが、子どもを預けては職場へダッシュしていく。俺もそのひとりだ。

だけど、夕方はもっとつらい。

残業を切り上げて、電車を乗り継ぎ、猛ダッシュで園に向かう。息子は夕方になるとグズるので、早く迎えに行かないと先生にも迷惑がかかる。

そんな日々が、延々と続いていた。


あの日の夕方、車がぶつかりそうになった

たまたま同じタイミングだった、あの人の姿

ある夕方、いつものように保育園へと急いだ。

園の前は、古い住宅街で道が狭い。駐車スペースは園の向かい側に2台分だけ。先に1台、白い軽が入ろうとしていた。俺は自転車だったけど、どう見ても入りにくそうな状況だった。

その軽自動車を運転していたのは、小柄な女性だった。助手席に小さな女の子の影が見えた。

そのとき、道の向こうから、別の車が無理に曲がってこようとした。

「危ない!」

思わず叫びそうになって、自転車ごと前に出て、割り込む形で軽自動車の前に立った。

(あのままじゃ絶対ぶつかってた……)

俺が手を広げて止めたことで、反対車線の車は慌てて停まり、女性はなんとか駐車できた。俺の自転車も無事だった。

女性はハンドルを握ったまましばらく呆然としていた。目を見開いて、ハッとしたようにこちらを見て、車から降りてきた。

「す、すみません……ありがとうございました……!」

彼女は小さな声で、でも本気で驚いた顔をして、何度も頭を下げた。

俺は苦笑しながら「いや、大丈夫です。あの車、急に曲がってきたから……」と応えたが、心臓はまだバクバクしていた。


はじめて言葉を交わした「ごめんなさい」

息子と娘が、勝手に仲良くなってた

保育園の玄関に入ると、うちの息子と、あの車の中にいた女の子が同じクラスだったことがわかった。

「パパー、この子、かくれんぼ上手だよ!」

息子が嬉しそうに報告してくる。どうやら、いつも遊んでるらしい。

(え……? あの子のお母さんだったのか)

そう思って彼女の方を見ると、彼女も小さく笑って、ペコリと頭を下げてきた。

「さっきは……本当に、すみません。私、ちょっと焦ってて……」

「いえ、誰でもありますから。無事でよかったです」

それだけの会話だったけど、なぜか、その時の彼女の表情が印象に残った。

気丈に見えて、実はものすごく疲れているような目。眉の動きで、ずっと緊張していたのが伝わった。

子どもに笑顔を向ける時は明るいのに、大人の顔に戻ると、どこか影がある。

(あの人も、ひとりで頑張ってるのかもしれない)

そんなふうに思った。


次第に「LINE交換しませんか?」へ

子どもが繋いでくれた、最初の一歩

その日、子どもたちは保育園の外でなかなか帰りたがらず、かくれんぼを始めてしまった。俺の息子が「もう一回!」と叫び、彼女の娘もそれに応じて、園庭の隅で笑い合っていた。

「ごめんなさい、うちの子が……帰るの遅くなっちゃって」

「いえいえ、うちもです。毎日こうで……」

笑いながら立ち話になった。

その中で、俺がポロッと言った。

「……あの、LINEとか交換しませんか? 帰りのタイミングとか合わせられると、子ども同士も嬉しそうなので」

少しの沈黙のあと、彼女は驚いた顔をして、それから小さく笑った。

「……はい。そうですね、助かります」

俺のスマホに表示されたLINEの名前は、ひらがなのフルネームだった。

(あ、この感じ……あんまり慣れてない人だ)

それなのに、ちゃんと登録して、笑顔で「ありがとうございます」と言ってくれた。

その時、夕暮れが少し赤く染まり始めていた。

(なんだか、今日だけで世界が少し変わった気がした)


なぜか俺が、泣いた娘を抱っこしてた

夕暮れの園庭、かくれんぼの声と泣き声

あの日以来、俺たちは自然と顔を合わせるようになった。

毎日の送り迎えで、子どもたちが遊びたがる。特に夕方は、ちょっとしたかくれんぼが定番になっていた。保育園の門の外にある、植木の裏や駐輪場の陰に隠れては「みーつけた!」と大声で笑う。

その日も、俺は自転車を立ててから、息子の靴を履かせていた。

ふと見ると、例の女性――娘さんのお母さん――が少し遠くから周囲を見渡していた。顔が少しこわばっている。何かを探しているようだった。

「……あれ? うちの子、どこ行った……?」

彼女がつぶやいた。

「さっき、あっちのフェンスのとこで息子と一緒に……」

俺が指差したと同時に、茂みの向こうから、小さな泣き声がした。

「うわああああん……」

俺と彼女は、ほぼ同時に駆け寄った。

そこには、しゃがみ込んで泣いている女の子がいた。どうやら、フェンスの金具にスカートが引っかかって、動けなくなってしまったらしい。

「○○ちゃん! 大丈夫!? ケガしてない!?」

彼女が声をかけるも、娘は泣きながら首を振るだけ。顔を隠し、しゃくりあげている。

俺は無意識にしゃがみ込んで、優しくスカートを外しながら声をかけた。

「大丈夫、大丈夫だよ。もう引っかかってない。……びっくりしたね」

娘は顔を上げて、俺を見た。涙目のまま、肩を上下にさせながら小さくうなずいた。

「よし、抱っこしてあげよう。高い高いするか?」

そう言って、俺は彼女の許可を待たずに、そっと娘を抱き上げた。

軽くて、あたたかくて、しがみついてくる小さな腕に、なぜか胸がギュッとなった。


「……すごいですね」って、ぽつり

嫁子の目に浮かんでいた、ちょっと違う光

彼女――嫁子と呼ばせてもらう――は、俺が娘を抱いて立ち上がるのを、しばらく見つめていた。

その顔に、驚きと安堵と、何か言いたげな沈黙が入り混じっていた。

「……すごいですね、慣れてますね」

ぽつりと、そう言った。

俺は少し照れながら答えた。

「いや……男手ひとつなんで、慣れざるを得ないっていうか。まあ、うちのは泣くと手がつけられないから、こういう時は反射的に動いちゃうんです」

「うちもです……最近、怒るのも面倒で。でも、本当はずっと不安で……」

そこまで言って、嫁子は一度黙った。

顔を背けた瞬間、少しだけ目尻が赤くなっているのが見えた。

(この人、ずっとひとりで戦ってきたんだ)

その時、俺はふと息を飲んだ。泣いた娘を落ち着かせようと、そっと背中を撫でながら、目の前の女性の孤独を感じていた。


晩ご飯の話になった

俺の「いつもの写真」が、なぜか効いた

娘が落ち着いて、笑顔に戻ったあと。再び、立ち話になった。

子どもたちは小石を集めたり、よその子と砂を掘ったりして遊び始めている。

「そろそろ晩ご飯、考えなきゃですね……」

嫁子がポツリとつぶやいた。

「うちは、冷蔵庫に納豆と卵しかないです。帰ってから、娘が騒ぐ中でご飯の支度って、地味にしんどくて……」

「あー、それわかります」

俺は思わず笑ってしまった。

「最近、俺、料理にハマってるんです。趣味っていうか、生きるための手段っていうか……」

「え? 料理するんですか?」

「一応。今日も朝、こんなの作ったんですよ」

俺はスマホを出して、今朝作った「ピーマンの肉詰め」と「人参とツナのサラダ」の写真を見せた。撮ったはいいけど誰にも見せることなく溜まってるやつだ。

「……うそ。これ、あなたが?」

嫁子は目を丸くして、画面をじっと見つめた。

「美味しそうすぎる……え、これ、お店とかじゃなくて……?」

「ちゃんと自宅の台所です。証拠に、うちの炊飯器映ってるでしょ」

「ほんとだ……えー……すごい……」

嫁子はしばらく写真を眺めたあと、ふと小さく笑って言った。

「……ご馳走になってみたいな、なんて」


その場では冗談だった、はずだったのに

ふたりとふたりで食べるご飯の約束へ

俺はその言葉を冗談半分に受け取った。けど、あとでLINEが来た。

さっきの、ご飯の話……もしほんとに作る機会があるなら、
娘も一緒に食べさせてあげたいなって。

なんだか胸が熱くなった。俺はすぐに返信した。

じゃあ、今度、土曜日の夜にどうですか?
子どもたちも遊ばせながら、軽くご飯会しましょう。

そしてその週末、俺の小さなキッチンで、「ふたりとふたりの夕ご飯」が実現することになる――。


家に来てもらうって、なんか緊張した

ふたりとふたりの夕ご飯、はじまりはじまり

土曜日の午後。朝からせっせと掃除をして、息子と買い物に出かけた。冷蔵庫の中には、今日のために仕込んだ鶏もも肉と、下ごしらえ済みの野菜たちが並んでいる。

(俺、何してんだろうな……)

息子が走り回るリビングを見ながら、ふと我に返った。女性を家に招くなんて、離婚してから一度もなかった。しかも、相手はまだよく知らない人。でも、どこかで「この人ならいい」と思っていた。

夕方5時。インターホンが鳴る。

「こんばんは……!」

玄関には、少し緊張した顔の嫁子と、髪をツインテールにした娘が立っていた。

「おじゃまします……!」

娘はおそるおそる靴を脱ぎ、息子の手をとって部屋へ駆けていった。

嫁子はキョロキョロと部屋を見回して、小さく笑った。

「すごい……男の人の部屋ってもっと散らかってると思ってました」

「片づけました、今日だけ特別に(笑)」

キッチンから漂うガーリックバターの香りに、娘が「おいしそうー!」と声を上げた。


ごはんを食べながら、なんでもない話ができた

子どもたちは笑い、大人たちは気を抜いた

メニューはチキンソテーと野菜スープ、フライパンで焼いたバターライス。簡単だけど、子どもが食べやすいものにした。

「いただきまーす!」

「いっただきまーす!」

声をそろえて子どもたちが箸を持つ。嫁子も「うわ、ほんとにレストランみたい」と感嘆の声を漏らした。

「これ、野菜嫌いの娘が食べてる……すごい……」

「うちも、ブロッコリーだけは絶対残すのに、今日は食べてますね」

(嬉しいな……)

俺は心の中でガッツポーズした。こうして誰かと食卓を囲むことのあたたかさ。久しぶりに感じた。

嫁子は、少しだけお酒を飲んだ。俺も缶ビールを1本だけ開けた。子どもたちはお菓子とジュースでテンションが上がりっぱなし。

「保育園って、ほんと大変ですよね……」

「うん、でも先生たちはすごく頑張ってくれてる」

「わかります。田邊園長、よく声かけてくれて」

「あの人、俺が離婚したとき、毎朝『お父さん、寝てる?』って声かけてくれたんです」

「……そんなこと、してくれるんですね」

嫁子の表情がふっと柔らかくなった。


子どもたちが寝たあとに、話したこと

嫁子の「シングルは楽じゃない」の一言

子どもたちはごはんのあと、YouTubeを観てソファで寝落ちした。

布団代わりにタオルケットをかけ、二人並べて寝かせたあと、リビングに戻った。

「……ありがとう、ほんとに」

嫁子が言った。

「うち、いつも夕ご飯がバタバタで、娘も『おいしくない』って言ったりして。でも、今日はずっと笑ってた」

「うちも、息子がこんなに喋るの久しぶりです」

二人とも、なんとなく手元のコップを眺めていた。沈黙が少しあったあと、嫁子がぽつりとこぼした。

「……離婚してから、誰かに頼ったり、甘えたりすることをやめてたんです」

「……」

「だって、どこかで思われるじゃないですか、『自分で選んだくせに』って」

「わかります……俺も似たようなもんです」

「でも……今日みたいな夜があると、少しだけ、楽になりますね」

嫁子は、涙を見せるわけでもなく、笑顔でもなく、真顔でそう言った。

その横顔を見て、俺は思った。

(この人に、もっと楽な日々を過ごしてほしい)


たったひとつの「また来てください」が言えた

俺の部屋に、やっと誰かが笑ってくれた

「……また、来てください。ほんとに、いつでも」

俺がそう言うと、嫁子は少し驚いた顔をして、それから笑った。

「……いいんですか? 本気にしますよ?」

「本気で言ってます。息子も喜んでるし、俺も……助かるし」

「……じゃあ、また来ます」

嫁子は小さくうなずいた。

玄関で見送るとき、娘はぐっすり眠っていた。嫁子は娘を抱えながら、俺に向かって頭を下げた。

「……今日は、ありがとうございました。なんか……救われました」

(こちらこそ、ありがとう)

口には出せなかったけど、俺もそんな気持ちだった。

その夜、ひとり残ったリビングに、まだ嫁子の香水の香りが少しだけ残っていた。


「最近、なんか変わった?」って聞かれた

ママ友・中村さんの鋭いツッコミ

月曜の朝。保育園に娘を連れてきた嫁子が、門の前で捕まった。

「おはよー。……って、なに? なんかあった?」

声をかけてきたのは、中村さん。ご近所で、同じ保育園のママ友。明るくて、気さくで、誰にでも話しかけるタイプの人だ。

嫁子はびくっと肩を揺らして、少し笑った。

「え? な、なにが?」

「顔、違うじゃん。疲れてるって言ってたくせに、肌ツヤいいし。なんか最近、いいことあったでしょ?」

「……な、なんもないよ、ほんとに」

中村さんは目を細めて、ニヤッと笑った。

「ふーん? じゃあ、また夜にでも聞こうかな。LINEで」

嫁子は逃げるように園の中へ入った。

(……ばれたかも)

ふと、土曜日の晩ご飯のことが脳裏によぎった。子どもたちの笑い声、俺の「また来てください」の一言。

中村さんには隠し事ができない。嫁子はうっすらとため息をついた。


夕方、またあの人と目が合った

子どもたちは相変わらず、鬼ごっこ

夕方、仕事帰りに園へ迎えに行くと、やっぱりあの人――俺がいた。

自転車を押しながら、フェンスの前で息子を呼んでいる。その顔は、土曜日と同じ、優しい笑顔だった。

「こんばんは」

嫁子が声をかけると、彼は少し驚いたように、でもすぐに笑って会釈した。

「こんばんは。今日も逃げ回ってますね、うちのやつ」

「うちもです。ほんと、毎日鬼ごっこ……」

子どもたちは二人で手をつないで、園庭の端から端まで走り回っている。泣かずに笑って遊ぶ。それだけで、嫁子の心はふわっと軽くなる。

「……ほんと、うれしそうに笑うようになったね、あの子」

「うちもです。……やっぱり、友達って大事なんですね」

「友達……ですね。親も、ですけど」

会話の終わりに、ふとそんな言葉がこぼれた。彼はその「親も、ですね」の一言を受け止めて、ゆっくりと笑った。

「……ですね」

(この人とは、変な気を使わずに話せる)

そう思った。


子どもがいるから無理……をやめたくて

嫁子が話した、離婚の理由と「後悔」

次の土曜、嫁子は中村さんと近所の公園で話す機会をもった。子どもたちを遊ばせながら、ベンチに腰かけていた。

「で? 進展あったの?」

中村さんはにやにやしながら尋ねてくる。

「ないよ。……でも、少し気が楽になったの」

「ふーん……そろそろ、誰かに頼ってもいいんじゃない?」

「……わかってる。でも、うちは離婚してるし、子どももいるし」

「子どもがいるから無理って思ってる限り、いつまでもひとりよ」

中村さんの言葉は、あたたかくて、でもちょっと痛かった。

「……離婚したときさ、覚悟したの。全部、自分でやるって。泣く子も、荒れる夜も、ごはん作れない日も」

「でも?」

「でも、あの人と話すと、なんか……ホッとする」

「……でしょ」

「ごめん、こんな話、迷惑だよね」

「全然。嫁子が笑ってる方が、娘ちゃんも幸せそうだよ。気づいてない?」

「……そっか」

嫁子はベンチで、空を見上げた。雲がゆっくりと流れていた。

(あの人と話すだけで、肩の荷が少しだけ下りる。そんな存在に、なってたんだ)


ふたりで買い物、が自然になってきた

子どものために、だったはずが…

次の週末。スーパーで偶然に出会った。

「おお、奇遇ですね」

「ほんと、よく会いますね」

「……今日、カレーにしようと思ってたんです」

「うちも……あ、じゃあ材料半分こしません?」

気づけば、一緒に買い物をしていた。

子どもたちはカートのまわりで遊び、俺と嫁子は、じゃがいもや人参を分け合っていた。

「こんなふうに買い物、久しぶりです」

「……俺も。誰かと一緒に夕飯のこと話すのって、なんかいいですね」

レジを出るとき、嫁子は思わず言った。

「次も、一緒に……って、ありですか?」

俺は一瞬だけ驚いて、それから頷いた。

「もちろん。なんなら、来週末も予定空けときますよ」


恋とは違うけど、大事にしたい気持ち

近くにいるって、ありがたい

その日の夜、ふたりの家族でまた夕ご飯を食べた。今度はカレー。子どもたちは口の周りをルーでベタベタにしながら、おかわりまでしていた。

嫁子は笑いながら、ふと俺に言った。

「……仕事より、こういう時間の方が、大事かもって思う日があるんです」

その言葉が、胸に残った。

(この人となら、ゆっくりでも歩いていけるかもしれない)

まだ「恋」じゃない。でも、「信頼」とか「安心」とか、そんな言葉がしっくりくる関係になりつつあった。


「最近よく一緒ですね」って言われた

園長先生のまなざしが、やさしかった

ある日の朝。いつものように息子の手を引いて保育園に向かうと、門のところで嫁子とばったり鉢合わせた。

「おはようございます」

「おはようございます……あ、今日も一緒ですねえ」

ふたりのあいだに笑いが生まれる。子どもたちは相変わらず、先に手をつないで園の中へ走っていく。

そのとき、園の門を掃除していた保育園長・田邊さんが声をかけてきた。

「○○くんのお父さん、○○ちゃんのお母さん。最近、よく一緒にいらっしゃいますねえ」

にこやかで、目じりにしわの深い人。決して詮索するような口調ではなかったけど、俺たちはふたり同時に、ちょっとだけ照れてしまった。

「あ、いや……たまたまというか……」

「時間帯が近いんです、はい」

「あらあら、いいことですね。お互いに助け合えるのは大事ですよ」

田邊さんは笑いながら、ホウキを止めて、しみじみとこう言った。

「子育てって、ひとりじゃできないですからね。手を借り合うのは、素敵なことです」

その言葉が、胸の奥にじんわりと染みた。

(子育てって、ひとりじゃできない)

それは、俺が離婚したときにずっと否定していたことだった。

でも今、それを肯定してもらったような気がした。


子どもたちが言った「4人で遊びたい!」

家族ごっこのような、やさしい時間

数日後の夕方、園の裏庭で子どもたちが遊んでいた。

俺と嫁子はベンチに腰かけ、話していた。内容は他愛もないことだった。

「お米の減り、早くないですか?」

「めっちゃ早いです……うち、3キロが2週間で消える」

「うち5キロ……」

そんなやりとりをしていたとき、ふいに息子と娘が駆け寄ってきた。

「ねえねえ、4人で遊びたい!」

「えっ、4人?」

「うん! パパとママと、ぼくと○○ちゃん! いっしょに!」

その言葉に、俺も嫁子も思わず顔を見合わせた。

「じゃあ……鬼ごっこでもしますか?」

「やったー!! パパが鬼ね!」

そのあと、ほんとうに鬼ごっこをした。園庭の隅を、大人二人と子ども二人が、笑いながら駆け回った。

笑って、笑って、汗をかいて、ついでにズボンも泥だらけ。

嫁子が「久しぶりに走った……」と息を切らしながら笑っていたのが、やけに可愛くて。

俺は、ふと自分の顔にも自然な笑みが浮かんでいることに気づいた。


嫁子が言った「大人の時間って必要ですね」

近くにいてくれる、それだけで安心

その夜、LINEが来た。

今日はありがとう。
久しぶりに笑った気がします。

こちらこそ。全力で鬼ごっこしたの、十年ぶりかもしれません。

あと……大人って、大人同士で話す時間も必要なんですね。

すごくわかります。
子どもがかわいいのは間違いないけど、
自分だけの言葉で喋れる時間がないと、しんどいですよね。

しばらく画面を見つめたあと、俺はもう一言だけ、返した。

嫁子さんと話す時間が、最近いちばん落ち着ける時間になってます。

送ってから、ちょっとだけ後悔した。重いかもしれない。

でも、すぐに既読がついて、返ってきたメッセージを見て、肩の力が抜けた。

わたしもです。

その短い言葉が、俺にとっては十分だった。


近所の人に見られてた「二組の親子」

噂が、じんわりと広がっていた

その週末。近所の公園で、また4人で過ごした。子どもたちはピクニック気分で、おにぎりをほおばっていた。

俺たちはレジャーシートに腰かけ、ジュース片手に話していた。

そのとき、通りかかった顔見知りのご近所さんが、ニコニコと近づいてきた。

「あらあら、仲良し家族ねえ。見ててほっこりするわ」

「あっ……いえ、その……」

嫁子が言いかけたが、相手は笑って手を振りながら去っていった。

俺たちは顔を見合わせ、苦笑いした。

「……見られてたんですね」

「ですね。……なんか、変な感じ」

「いや、でも……」

俺はふと、そう言って言葉を止めた。

(……悪くない、と思ってしまった)


「BBQって家族っぽいですね」って言われた

はじめての4人だけの休日

その日曜、俺は思い切って提案してみた。

「天気いいし……どっか行きません? 公園とかでBBQとか」

「BBQ? すごい……そんなの、うち一度もやったことないかも」

「じゃあ、うちのポータブルコンロ持ってきます。子どもたちも絶対楽しいですよ」

「……え、ほんとにやるの?」

「やりましょうよ。俺、アウトドア得意なんです」

そして日曜の朝、俺の車に食材と道具を詰め込んで、4人で近所の大きな公園に向かった。子どもたちは後部座席で、はしゃぎながら歌っていた。

「……なんか、ほんとに旅行みたいですね」

助手席の嫁子が、小さな声でそう言った。

「うん。ちょっとだけ、家族旅行っぽいかもですね」

ふたりの間に流れる空気は、いつもの「保育園帰りの立ち話」とは違った。休日のゆったりした時間が、まるで子どもたちと一緒に流れていくみたいだった。


焼きそばで子どもたちが笑った

「おいしい!」の声に、俺が泣きそうだった

BBQ場に着くと、嫁子は率先して野菜を洗い始めた。俺はコンロの火を起こし、子どもたちは芝生を転がり回っていた。

「すごい……ちゃんと火ついた!」

「得意なんですよ、こういうの」

鉄板の上に肉を並べ、野菜を炒めて、最後に焼きそばを豪快に投入した。ソースの香ばしい匂いがあたりに広がった瞬間、娘が「おなかすいたー!」と叫んだ。

「さあ、焼きそば完成!」

皿に盛って子どもたちに渡すと、ふたりは夢中で口に運びはじめた。

「うまっ!」

「おいしー!」

その声を聞いた瞬間、俺の胸がきゅうっと締めつけられた。

(……ああ、家族だ。今だけは、本当に)

嫁子も、ひと口食べて目を丸くした。

「……え、ほんとにおいしい。なんか、お店で食べるやつみたい」

「でしょ? これ、隠し味にちょっとだけウスターソース足してるんです」

「プロ……!」

笑いながら箸を進める彼女の横顔を見て、俺はまた思ってしまった。

(こういう時間、もっと作っていきたい)


子どもたちが手をつないで走ってた

娘が「○○くんのとこにお嫁にいく!」って叫んでた

食事のあとは、芝生の上で自由時間。

息子と娘が、お菓子を持って、キャッキャと遊び回っていた。

その中で、ふいに娘が叫んだ。

「わたし、○○くんのとこにお嫁にいくー!」

嫁子が吹き出した。

「ちょ、ちょっと! まだ早いでしょ!」

「うん、20年は早いな」

俺も笑ったけど、内心ちょっとだけ、胸の奥が温かくなった。

そのあともふたりはずっと手をつないでいて、砂場でもすべり台でも、ずっと一緒だった。

「……うちの娘、男の子と手をつなぐなんて、初めてかも」

嫁子がぽつりと言った。

「うちの息子も、人見知りだから……嬉しいです、ほんとに」

(このふたり、俺たちより先に“家族”になってるかもしれないな)

夕暮れが近づくと、芝生の色が金色に変わった。


嫁子が言った「仕事より大事かも」

焼け落ちる夕陽の下、ぽつんとこぼした本音

片づけが終わり、子どもたちが後部座席で眠りにつくと、帰りの車の中は静かだった。

嫁子は助手席で、窓の外の夕陽を見つめていた。

「……仕事、もう少しセーブしようかなって思ってるんです」

「……え?」

「毎日、必死に働いて、家事も育児もやって、でも今日みたいな時間のほうが、ずっと大事な気がして」

「……わかります。俺も同じこと考えてました」

「忙しい日々で見えなくなってたけど、娘の笑顔って、こんなにも力になるんだなって」

「……嫁子さんの笑顔も、力ありますよ」

そう言った瞬間、車の中が少し静かになった。

でも、彼女は微笑んで言った。

「ありがとう。なんか、言われたの久しぶりです、そういうの」

赤く染まった空に照らされながら、ふたりの間に、言葉じゃない“何か”が流れていた。


帰り道、自然に口をついて出た言葉

「結婚しませんか?」の一言に、風が吹いた

家の近くまで戻り、車を停めた。眠っている子どもたちをそれぞれ抱えて、ゆっくり歩いた。

そして、嫁子のマンションの前。娘を抱いたまま、彼女が鍵を取り出そうとしていた時、ふと俺の口が勝手に動いた。

「……嫁子さん」

「ん?」

「……結婚しませんか?」

彼女は動きを止めた。

一瞬、時間が止まったように見えた。

「……え?」

「いや、急に、なんですけど……俺、最近ずっと思ってて。今日も思ってしまって……」

俺は息を吐いた。

「……子どもたちも、俺たちも、笑ってる時間が多かったから、たぶん、これが正しいんだと思って」

しばらく沈黙があった。

彼女は、眠っている娘を見つめて、それから俺の方に顔を向けた。

「……考えてもいい?」

「もちろん。……焦ってないです」

「ありがとう」

その夜、俺は自分の部屋で、しばらく何も考えられなかった。怖かった。でも、不思議と後悔はなかった。


「考えてもいい?」の答えがまだ来ない

いつも通り。でも、何かが変わっていた

あの夜の「結婚しませんか?」から、三日が経った。

変わらず朝は忙しいし、保育園の送り迎えも、子どもたちの笑い声も変わっていない。だけど、心のどこかにずっと、小さな波が立っていた。

嫁子は、いつも通りだった。いつもと変わらぬ笑顔、変わらぬ話し方。だけど、目が少しだけ揺れているように見えた。

「今週末、またうち来ます? なんか作りますよ」

「……うん、行きたい。娘も、あそこ行くと嬉しそうだし」

ふたりのLINEも、相変わらず優しい。けれど、どこかで言葉を選び合っているような、そんな感覚があった。


中村さんの「それ、本気なの?」という言葉

ママ友の鋭さに、動揺してしまった

その週の水曜日。嫁子は近所のカフェで、中村さんと久々にランチをしていた。

「で、どうなのよ」

「……何が?」

「その顔。明らかに何か抱えてるでしょ。あの男の人と、なんかあった?」

嫁子は、スプーンを動かしながら、少し間を置いて答えた。

「……この前、プロポーズされた」

「……は?」

中村さんの目が、まん丸になった。

「いやいや、あの人って、ほとんど最近知り合ったばっかでしょ?」

「でも、もう何回もごはん食べてて、子どもたちも一緒にいて……」

「それ、本気なの?」

「……たぶん、本気。でも、私、返事してない」

中村さんは腕を組み、真剣な顔になった。

「で、どう思ってるの?」

「……一緒にいると、安心する。笑える。でも……」

「でも?」

「怖い。もう一度、誰かと家族になるのが」

嫁子の声は、小さく震えていた。

「わかるよ。でも、今までの“無理してた生活”と、“自然に笑える日常”と、どっちが好き?」

「……後者」

「じゃあさ。怖くても、一歩踏み出す価値はあると思うよ」

中村さんは笑った。

「だってさ、あの人の顔、こないだ公園で見たけど、“全部背負ってもいい”って顔してたよ」

嫁子は、その言葉を胸の奥で、何度も繰り返した。


子どもたちの何気ない言葉が、決め手になった

「パパとママが一緒だと嬉しい」

土曜日。嫁子と娘が、いつものように俺の部屋を訪れた。

料理をしながら、会話はいつも通りだった。

「今夜はハンバーグですよ。チーズ入り」

「えー! 最高!」

子どもたちは絵本を読みながら、大笑いしていた。

その中で、ふいに娘がつぶやいた。

「○○くんのパパとママが、いつも一緒だったらいいのになー」

その瞬間、俺も嫁子も、手が止まった。

息子も、ぽつりと一言。

「うん、4人でごはん、楽しいもん」

沈黙が、5秒だけあった。

だけど、子どもたちには深い意味などなく、ただ思ったことを言っただけだった。

それでもその一言が、ふたりの胸に何かを落とした。

(この子たちは、もう“家族”として見てるんだ)


「待たせてごめん」から始まった夜

嫁子が、静かに言ったその言葉

食事が終わって、子どもたちが眠ったあと。

俺たちは、食器を洗い終えて、リビングに並んで座った。

「……この前の話」

嫁子が切り出した。

「うん」

「待たせてごめん」

「ううん。急がないって言ったから」

「でも、答えを出しました」

息を呑む音が、たしかに聞こえた。

「私……もう一度、家族になるのが怖かった。でも、もっと怖かったのは、このまま全部を断って、あなたと会わなくなること」

「……」

「だから、お願いします」

その言葉のあと、ふたりは長い沈黙の中で、ただ目を見つめ合った。

俺は、息を吐いて、小さくうなずいた。

「ありがとう。……ほんとに、ありがとう」


静かな「婚約」だったけど、しっかり心に刻まれた

誰にも見せない涙が、確かにあった

夜遅く。子どもたちの寝息が響く部屋で、ふたりだけの小さな乾杯をした。

100円の缶チューハイ。だけど、それがこの上なく贅沢に思えた。

「こんな形で、プロポーズ通るとは思わなかったな」

「私も……こんな形で“はい”って言うなんて思わなかった」

「指輪も何もないけど……」

「いらないです。ちゃんと気持ちは、届いてますから」

そのあと、嫁子は少しだけ涙ぐんでいた。

「大丈夫です、私。前よりずっと強くなれた気がする」

「……俺も。君がいるなら、大丈夫だと思える」

こうして、誰も知らない場所で、誰もいない夜に、ひとつの“家族”が生まれようとしていた。


「え、ほんとに?」って、みんなが言った

園長先生にも、ちゃんと報告しました

結婚の意思をふたりで固めた翌週、俺と嫁子は並んで保育園に向かった。

朝の空気は澄んでいて、春の風が吹いていた。子どもたちは変わらず、玄関でじゃれ合いながら靴を脱いでいる。

田邊園長が、玄関先で子どもたちを迎えていた。俺と嫁子が揃って現れると、少し目を見張って、そしていつものようににこやかに言った。

「おはようございます、今日も一緒なんですねえ」

「……実は、先生にちょっとご報告が」

「はい?」

俺と嫁子は顔を見合わせて、小さくうなずき合ってから、ゆっくり言葉を紡いだ。

「……再婚することになりました。ふたりで、子どもたちと一緒に暮らすことにしました」

田邊先生の口元が、一瞬だけきゅっと締まって、すぐにそれが大きな笑顔に変わった。

「……それは、それは! 本当に、おめでとうございます!」

その声が、思ったより大きかったせいで、近くにいた先生たちも「えっ、ほんとに!?」と驚きの声を上げた。

嫁子は照れながらも、しっかりと深く頭を下げた。

「いろいろ、ありがとうございました」

「こちらこそ、おふたりの努力をずっと見てきましたから……胸がいっぱいです」

先生たちの拍手が、早朝の保育園に、ささやかに響いた。


中村さんの「やっとかよ」ってツッコミ

嬉しそうな顔に、じんわりきた

その日の夕方。嫁子はLINEで中村さんを呼び出した。

近所の公園のベンチで、子どもたちを遊ばせながら、少し照れくさそうに言った。

「……言ったら、笑うかもだけど」

「なに、また焼きそばでも作った?」

「……再婚することになった」

「……」

中村さんは1秒、完全に無言になって、それから声を上げた。

「やっとかよ!!!!」

嫁子は慌てて「しーっ!」と指を立てたが、時すでに遅し。周囲のママたちが「え?なになに?」と振り向いていた。

「……なんか、私より中村さんの方が喜んでない?」

「そりゃそうでしょ。ずーっと見てたし。あなたが笑えるようになるまで、どれだけ我慢してたか知ってるから」

中村さんは本気で、目を潤ませていた。

「ほんと、おめでとう。これからは、助け合いなね。どっちかがしんどいときは、絶対に言い合うこと」

「……うん」

「一人で抱え込まないって、約束しな」

「……うん。ありがと」

ベンチの上に沈んでいく夕陽が、ふたりの目元を赤く染めていた。


子どもたちは、もう“新しい家族”だった

「もうずっとここで寝たい」って娘が言った

その夜、また4人で晩ご飯を囲んだ。

メニューは、子どもたちの希望でハンバーグ。前回よりふっくら仕上がって、子どもたちは「おいしいー!」を連呼していた。

食べ終えたあと、息子と娘はリビングで転がりながら、眠そうな目をこすっていた。

「今日はここで寝るー」

「うちも!」

「明日は保育園だよ」

「えー、でも、4人がいいの」

娘がつぶやいた。

「ここで、ずっと一緒がいい……」

嫁子がその声を聞いて、ぽつりと漏らした。

「……もう、家族なんだね、私たち」

俺はうなずいた。

「うん。とっくに、そうなってたんだと思う」

(あとは、ちゃんと形にするだけだ)


式はどうする? って話になった

シンプルでもいいから、ちゃんとしたい

「結婚式って、どうします?」

俺がそう切り出すと、嫁子は少し目を丸くしてから、照れたように笑った。

「えっ、やるの? なんか今さらじゃない?」

「俺は、ちゃんとやりたい。子どもたちにとって、“始まりの日”を見せてあげたいなって思って」

「……そうだね。ちゃんと、記憶に残してあげたいね」

「とはいえ、盛大なのは無理だから……家族だけで、こぢんまりと」

「うん、それがいい」

その夜、ふたりで小さな式場を探した。

自然光が差し込むチャペル。小さな庭。子どもたちが走っても怒られない場所。

「……この場所、いいね」

「うん。ここなら、最初の“事故”も笑って話せるかも」

「事故で始まった再出発、か」

「……いいタイトル」

ふたりは並んで、スマホの画面を見つめながら、静かに笑い合った。


小さな式場に、家族だけが集まった

「事故で始まった再出発」

春の終わり。日差しはあたたかく、風はまだほんの少し冷たい。

都内から少し離れた静かなチャペル。木造の小さな建物には、白いカーテンがふんわりと揺れていた。

この日は、俺と嫁子の“再出発”の日。

招待客は、ごくわずかだった。子どもたち二人と、保育園の田邊園長、中村さん。それだけ。

でも、それだけで十分だった。いや、それがよかった。

白いワンピース姿の嫁子が、娘の手を引いてゆっくり入場してきた瞬間、思わず喉が詰まった。

(……きれいだな)

息子が小声で言った。

「ママ、かわいい……」

娘も、まるでお姫さまにでもなったみたいに緊張した表情をして、ゆっくりと歩いていた。

(この光景を、一生忘れない)

そう思った。


「誓いますか?」の問いに、ちゃんと答えた

あの時の「抱っこ」から、ここまで来た

式の最中、司祭役を務めたのはチャペルのスタッフの女性だった。

「あなたは、この人を支え合う伴侶として迎えますか?」

俺は深く息を吸い、正面を見て、はっきりと答えた。

「はい、誓います」

「あなたは?」

嫁子も、同じように目をまっすぐ見て、頷いた。

「はい、誓います」

拍手は小さく、でも、温かく響いた。

そのあと、子どもたちがそれぞれ手作りの花冠を持ってきて、俺と嫁子の頭にそっと乗せた。

「これ、保育園で作ったの」

「え? これって……!」

田邊園長が、にこにこと頷いていた。

「ふたりが結婚するって聞いて、子どもたちが作りたいって言い出したんです。内緒で進めてたんですよ」

嫁子の目に、涙が浮かんでいた。

「……ありがとう、ほんとに」

(“再出発”って、こういうことなんだな)

心の中で、何度も呟いていた。


写真は、笑顔ばかりだった

中村さんの「やっと、ここまできたね」に救われた

式のあと、チャペルの庭で簡単な食事会が開かれた。

手作りのサンドイッチ、フルーツポンチ、子ども用のジュースに、シャンパン。

「これで豪華って言われても困るなあ」

「でも、十分です。むしろ、このほうが記憶に残りますよ」

中村さんが、カメラを構えて「はい、チーズ!」と声をかけると、子どもたちが両側から俺と嫁子に抱きついてきた。

シャッターの音が鳴るたびに、笑顔が増えていった。

中村さんが、ふいに耳元でささやいた。

「やっと、ここまできたね」

「……はい。長かったけど、でも、きてよかったです」

「幸せになんなよ。ふたりとも、子どもも。絶対に」

嫁子は涙を拭って、小さくうなずいた。

「うん。もう、逃げない」


子どもたちの「今日がいちばん楽しかった」

それだけで、すべて報われた気がした

夕方、チャペルの前で全員が並んで写真を撮ったあと、息子が俺に言った。

「今日が、いちばん楽しかった!」

娘も笑いながら「わたしもー!」と叫んだ。

「……ありがとな」

「え? なんで?」

「ただ、ありがとうって言いたかっただけ」

嫁子が俺の袖をくいっと引っ張って、小さな声で言った。

「……私も、ありがとう。ほんとに、ありがとう」

子どもたちが駆け回るなか、ふたりで見つめ合いながら、指先をそっとつなげた。

(たぶん、これからも色々ある)

(でも――)

「この人となら、大丈夫」

そう、心から思えた。


あれから1年。今も、あの時のように

あの“事故”が、きっかけだった

1年後。

俺たちは、同じアパートの一室で暮らしている。狭いけれど、毎日にぎやかで、どこか落ち着く空間だ。

朝はバタバタ。夜はヘトヘト。でも、どんなに疲れても、「家に誰かがいる」ことが、何よりの安心だった。

あの時――保育園の前で車がぶつかりそうになった、あの一瞬。

あれが、すべての始まりだった。

最悪になっていたかもしれない「事故」が、こうして「家族」を連れてきてくれた。

「事故で始まった再出発」

今でも時々、ふたりで笑いながらそう言う。

でもそれはもう、過去の話じゃない。

これから先も、何度でも「再出発」していける。

そう思える今が、いちばん幸せだ。