自己肯定感が低い私が、マッチングアプリで出会った彼に救われるまで【結婚したい・婚活馴れ初めエピソード】

自己肯定感が低い私が、マッチングアプリで出会った彼に救われるまで

この馴れ初め話は著作権フリーで改変も自由・YouTubeの素材やSNSでご使用いただいても問題はありません。ただ以下のリンクを張っていただけたら幸いです。
はっくなび

「出会い系なんて」と思っていたくせに

自己紹介と登場人物紹介(私と旦那くん)

「……はぁ、今日も喋らずに一日終わったな」
(それが私の日常だった。会社で誰かと目を合わせるのも、話すのも、できれば避けたい。経理課の端っこでひっそり仕事をして、定時に退勤して家で冷凍チャーハンをチンして、Netflixを流しながら何も考えずに眠る。そんな日々)

私、36歳。経理職、独身。
身長157センチ、黒髪のロングをひとつにまとめ、眼鏡。化粧は最低限。地味。地味すぎて、コンビニの自動ドアがたまに反応しないくらいには、存在感がない。
趣味は……一人カラオケ。あとは、家系図の作成。自分のルーツをたどるのが好き。
変だよね。自分のことは全然わからないのに、江戸時代の先祖の名前はスラスラ言える。

恋愛? ないよ。高校も大学も社会人になってからも、全部他人事だった。
好きってなんだろう。ときめきってなんだろう。
周りの友達が結婚して、ママになっていく中で、私はどうやら「置いてかれた側」になったらしい。
「選ばれない女」って、こんなに自然にできあがっていくもんなんだなって思った。

職場では話さない。飲み会は断る。連絡先も最小限。
気を遣って話しかけてくれる人には申し訳ないけど、「一人でいたいですオーラ」が滲み出てるんだろうと思う。
たまに心配してくれる上司の言葉も、胸に刺さるだけだった。

「誰かと生きたい」なんて、一度も本気で思ったことなかった。
だって、自分にそんな価値ないって、ずっと思ってたから。

そんな私が、ある夜、スマホ片手に「登録」ボタンを押した。

きっかけは、本当に些細だった。
同期の結婚式の帰り。
笑ってる同期。幸せそうな花嫁。手を取り合う両親。
帰り道の電車の窓に映った自分の顔が、あまりに虚しくて。
(なんで私、ここにいないんだろう)

酔ってたのか、疲れてたのか。
あのとき、マッチングアプリを入れたのは、八つ当たりみたいなものだった。


旦那くんとのプロフィールだけの出会い

「こんにちは。映画好きのサラリーマンです。よかったらお話しませんか?」

そんな、ひとつのメッセージが届いた。
「旦那くん(仮)」から。

写真は、マスク姿で笑ってる男性。
何の変哲もない、スーツ姿。
特別イケメンじゃないけど、なんとなく柔らかい雰囲気だった。

プロフィールには「営業職」「映画が好き」「食べるのが好き」「休日はドライブ」なんてことが書かれてた。

でも正直、私は思ってた。

(絶対、嘘だろ。こういうの、絶対裏がある。絶対いい人のふりしてるだけ)

なんなら「旦那くん」っていう名前すら、ふざけてるって思った。
(なんで“旦那”なの? まだ彼氏ですらないのに)
画面の前で、鼻で笑ってた。

けど、なぜかブロックできなかった。

文章が、変に真面目だったから。
文末に、ちゃんと句読点があって。
「敬語だけど、変に壁がある感じでもなくて。優しい人なのかも」って、ちょっとだけ思ってしまった自分に、戸惑った。


そんな私たちの始まり

こうして始まった、マッチングアプリでの出会い。
私は、自分の名前も本音も出せないまま、画面越しでだけ、会話を重ねていくことになる。
彼のメッセージは、嘘っぽさがなくて、不思議と安心した。

だけど、私が本当に返信するまでには——3日もかかった。


最初のメッセージに3日かけた夜

返事が書けなかった私の心の中

スマホの画面に、彼からの「こんにちは」が表示されたまま、私はただ見つめていた。
(返さなきゃな……)
そう思いながらも、何度も何度も画面を閉じて、また開いて、閉じて。

土曜日、日曜日、そして月曜日の夜。
たった一言の「こんにちは」に、私は3日もかかった。

「この人に返したところで、どうせ何にもならないでしょ」
(いや、そんなことより……)

(私みたいな人間が、誰かと話そうとするなんて、そもそも間違ってるんじゃ……)

画面の向こうにいる「旦那くん」が、どんな人かもわからないのに。
怖かった。
自分が傷つくのも怖かったし、相手をガッカリさせるのも怖かった。

返事を打っては消して、打っては消して。
「初めまして」すら、何度も書き直した。

やっと返せたときには、時刻は深夜2時を回っていた。


はじめての「送信ボタン」

「初めまして。プロフィール、読ませてもらいました。映画、お好きなんですね」
(うわ、何このテンプレ……私、営業か?)

深夜の部屋はしん……として、唯一の音は、パソコンのファンの回転音だけだった。
いつもなら寝てる時間。
でも、スマホの「送信」ボタンを押したあと、心臓がばくばくして、眠れなくなった。

(やってしまった……)

返事が来なかったらどうしよう。
「なんだ、この女」とか思われたら。
変な文章だったかな? もっと砕けたほうが良かった?

気になって、布団に入ってもスマホを握ったままだった。

でも、数分後。
「旦那くん」から通知が届いた。


彼の返事と、私の動揺

「わぁ、ありがとうございます。映画、好きです。最近は『君と100回目の恋』を観ました」
「メッセージもらえて嬉しいです。お返事、ありがとうございます」

(……普通に、いい人すぎない?)

この時点で私は、ちょっとだけ混乱していた。
あまりにも自然で、素直で、柔らかい返事に、拍子抜けしたのだ。

変にキザでもなく、馴れ馴れしくもなく、優しすぎもせず。
なんだろう、体温が伝わってくるような返事だった。

気づいたら、私はまたスマホに打ち込んでいた。

「その映画、観たことあります。泣けましたよね。音楽も好きです」

今度は、数分で返した。
(あれ? 会話って、こんな感じだったっけ)


ぎこちないけど、楽しかった

月曜の夜から、火曜の夜にかけて、私たちは10往復くらいメッセージをやり取りした。

たどたどしいながらも、会話が続いた。

映画の話。食べ物の話。仕事の話。
彼は営業職で、毎日外回りだという。

「今の時期は暑くて大変です。水筒、2本持ち歩いてます」
「冷やし中華、今日のお昼に食べました。からし多めです」

そんな何気ない日常の話に、私はどんどん引き込まれていった。

(あ、この人、たぶん、嘘つかないタイプの人だ)

会ったこともない相手なのに、なんでだろう。
彼の話には、妙なリアリティがあって。
自分が会話の中で自然に笑っていることに、ふと気づいたとき——

涙が出そうになった。

(誰かと、ちゃんと話してる……)
それだけで、胸がいっぱいになった。


「また、話してもいいですか?」

彼からのメッセージの最後に、そう書かれていた。
「また、話してもいいですか?」

「はい、もちろんです」
私はそう返しながら、深呼吸していた。
そして、(なんか、今……ちゃんと人間やれてるかも)と思った。

少しだけ、胸があったかくなっていた。


初対面、写真よりずっといい人だった

初めての約束と、服選びでテンパる私

出会いから約1週間、毎日やりとりは続いた。
話題に困ることもなく、会話はいつも穏やかだった。
映画、好きなアイス、昔読んだ小説、つまらなかった通勤電車の話——どれもとりとめのない内容なのに、なぜか私は彼とのチャットを開くたびにホッとした。

そんなある日、彼からのひとこと。

「もしよかったら、今度お茶でもどうですか?」

(きた……)

スマホを握る手が汗ばむ。
会うつもりで始めたわけじゃなかった。
むしろ、「どうせ続かないだろう」と思ってた。
でも、彼は——この人は——ちょっとだけ、会ってみたいと思わせてくる。

「お茶なら、大丈夫です」
(これは嘘じゃない。大丈夫“な気がした”だけ)

それからの私は、人生で一番丁寧に服を選んだ。

クローゼットを開けて、鏡の前で睨み合い、
「これだと地味すぎる」「これは浮く」「これは似合ってない」
結局、いつものグレーのカーディガンに白のワンピースという、“無難の極み”な格好になった。

髪もちゃんとブローして、眼鏡も曇り止めして、普段使わないリップを塗って、
「これでダメでも、もう仕方ない」と鏡に向かって呟いた。


待ち合わせの駅前で、私を見つけた彼

約束の日曜日、待ち合わせは午後2時。駅前のベンチ。
早めに着いた私は、ベンチに座って、スマホを握りしめていた。

「着きました」
と送ると、すぐに
「今、改札出ました!すぐ行きますね」
という返事が来た。

数分後、人混みの中から、見慣れた横顔が見えた。

あ——あの写真の人だ。
でも、実物の方がずっと、柔らかかった。

グレーのシャツに、カーキのパンツ。
ラフすぎず、キメすぎず、清潔感があって、
なにより、近づいてくるその表情が——すごく、優しかった。

「こんにちは」
「……こんにちは」
(あっ、声、思ったより低い。落ち着いた声)

彼は、私の姿を見て、ふわっと笑った。

「すぐ分かりました。写真の雰囲気、そっくりですね」
「えっ、ほんとに?」
(うそ……加工とかしてたのに……)

「うん。いい意味で、ですよ。会えてうれしいです」
(今の……たぶん、社交辞令じゃない)

私はうまく笑えなかったけど、それでも、どこか安心していた。


カフェでの会話と、変な沈黙がなかったこと

彼が予約してくれていたカフェは、駅から少し歩いた落ち着いた店だった。
午後の光が大きな窓から差し込んで、店内にはジャズが流れていた。

2人掛けのテーブル席。向かい合って座ると、私は急に手が落ち着かなくなって、ストローの袋をいじり倒した。

「緊張しますね、やっぱり」
「えっ……あ、うん、ちょっとだけ……」
「ですよね。僕もです」
(あ、この人……自分だけを上に立てない人だ)

コーヒーを飲みながら、自然と会話は進んでいった。
映画の話。最近観たYouTubeの話。職場であったちょっとしたこと。

「経理って、あまり人と話す機会ないんですか?」
「そうですね……黙々と、数字と戦ってます」
「でも、数字は嘘つかないから、信頼できますよね」
(……それ、なんか、沁みた)

その日、私はずっと目を合わせるのが怖かった。
けど、彼の言葉や声に、何度も何度も助けられた。


帰り道、背中に感じたぬくもり

2時間ほどのカフェタイム。
会話が尽きることもなく、私は途中から笑っていた。
「初対面は緊張する」なんて言ってたのが嘘みたいに。

「今日は、ありがとうございました。また、会えたらうれしいです」
そう言った彼の声に、私ははじめて——ちゃんと顔を上げた。

「……私も、楽しかったです」
(たぶん、こんなふうに“楽しかった”って思ったの、いつぶりだろう)

駅までの帰り道、彼が少しだけ前を歩いていた。
すれ違う人にぶつからないように、私が歩きやすいように。
その気づかいに、私は胸がぎゅっとした。

(この人……もしかしたら、特別な人になるかもしれない)

帰宅して玄関のドアを閉めた瞬間、私は小さく笑った。
ただ歩いて、ただ話しただけなのに、心があったかくて仕方なかった。


否定しない彼に、心がほどけていく

普通のやり取りが、こんなに嬉しいなんて

それからのやり取りは、以前よりもさらに軽やかになった。
一度会った安心感が、私の心をふわっと軽くしてくれたのかもしれない。

「今日は仕事早く終わったんです」
「おつかれさま。僕は今、コンビニでアイス選んでます」
「チョコミント派ですか?」
「断然、バニラ派。チョコミントは歯磨き味です」
「……それ、言う人、多いですよね」
(けど、なんか笑える)

そんな会話で、一日に何度も笑うようになった。
たぶん、会社では誰にも見せてない顔だったと思う。

夜になると、私は自分でも信じられないほど素直に、彼に言葉を送っていた。
「今日、部長に書類のミスで指摘されて、落ち込みました」
「そっか、それは大変だったね。間違いって誰にでもあるのにね」
「そう言ってもらえるだけで、なんか救われます」
(ほんとに、それだけで、涙が出そうだった)


自分の弱さを出しても、拒絶されない安心

私は、昔からずっと、誰にも本当のことを言えなかった。
不安も、悲しみも、怒りも、全部「なかったこと」にしてきた。
だって、それを出したら、「面倒な人」って思われるのが怖かったから。

でも彼には、少しずつ出せた。

「私、ちょっと人付き合い苦手なんです」
「それ、ちゃんと自分で分かってて、伝えられるの、すごいと思う」
「すごくは、ないと思います……」
「僕は、無理して明るく振る舞う人より、そうやって正直な人のほうが好きです」

(……え?)

私は、その返事を何度も読み返した。
「好きです」って言葉に、恋愛的な意味が込められているのかどうかなんて、わからなかった。
でも確かに、彼の言葉には、私の存在をちゃんと「認めてる」って感覚が込められていた。

(否定されなかった……)

それだけで、私は涙が出そうになった。


「誰かと話す」ことが、初めて楽しいと思えた日

ある金曜日の夜、2回目のデートをした。
今度は夜の公園の近くにあるイタリアンレストラン。
「ここ、前から気になってたんです」と彼が予約してくれた。

照明はやわらかく、静かな店内にワインの香りとチーズの匂いが漂っていた。

「グラタン、好きでしたよね?」
「覚えててくれたんですか?」
「もちろん。僕、そういうのメモってるタイプなんです」
(まさか……そんな人、ほんとにいるんだ)

その夜の私は、自分でも驚くくらいよく喋った。

仕事の話、家族のこと、昔の失敗談、家系図の話まで。
「先祖が庄屋だったとか、そんなの調べるんですか?」と笑われたときも、嫌な気持ちは全くなかった。

「君、話してるとき、すごくいい顔してる」
「え……? 私、そういうの、よく分からなくて……」
「ほんとだよ。話を聞けて嬉しい。もっと聞きたいな」
(なんでこの人、こんなに素直に人のこと褒められるの……)

私は、彼の前で、心の鍵を少しずつ外していく自分に気づいていた。


「普通にしてていい」って、こんなに楽なんだ

デートの帰り道、彼と並んで歩いた。

人混みの中じゃなく、住宅街の裏道を選んでくれて。
ちょっと肌寒い風が吹いて、私はカーディガンのボタンをひとつ留めた。

「寒い?」
「ちょっとだけ……」
「駅まで、少し遠回りして歩こう。あっち、風が弱いから」
(そんな気遣い、できる人が、本当にいたんだ)

途中で買った缶ココアを片手に、私は言った。

「なんか、今日……自分が自分でいられた気がします」
「それが一番です。無理して気を使ってると、疲れるからね」
「私、ずっと“ちゃんとしなきゃ”って思って生きてきました」
「そのままの君が、僕は好きだけどな」

(……好き、ってまた言った)

その言葉の重みを、私はまだちゃんと受け取れてなかった。
でも、胸の奥が、じわっとあたたかくなった。


些細な喧嘩で、私の「無価値感」が爆発した日

それは、ほんの些細なすれ違いだった

3度目のデートの後も、私たちは週に2~3回のペースで会うようになった。
映画を観たり、公園を散歩したり、カフェで長話したり。
一緒にいる時間が増えるほど、彼の“優しさ”が本物だとわかってきた。

けれど——

人と深く関わるってことは、やっぱり怖いことだった。

ある日、LINEの返事が少し遅かっただけで、私は心がざわついた。

「お疲れさま。今日も遅くまで?」
と送って、2時間以上既読がつかなかった。

(あれ? おかしいな。こんなに空くこと、最近なかったのに)

(何かあった? それとも、私が何か、まずいこと言った?)

たったそれだけのことなのに、不安がぐらぐらと膨れ上がっていった。


言わなくてもよかったことを、言ってしまった

やっと彼から返事が来たのは、その2時間後。

「ごめん、会議が押して、そのまま上司に捕まってました」

冷静に読めば、何も問題はない。
だけど、私はすでに気持ちをこじらせていた。

「……そういうの、ちゃんと言ってくれないと困る」
と、送ってしまった。

(ああ、またやっちゃった……)

彼はすぐに電話をかけてきてくれた。

「本当にごめん。君が不安になるの、ちゃんと分かってなかった。そこは俺の落ち度だと思う」
「……いや、違うの。私が勝手に被害妄想してるだけで……」
「いや、それでも、大事なことだよ」

彼は、一切怒らなかった。
でも私は、自分の感情が止まらなかった。

「私、重いよね……? ただLINE返ってこないだけで、勝手に悪い想像して、勝手に落ち込んで」
「……うん、それは少し心配性かもしれない。でも、それって悪いことじゃない」
「悪いよ!! 普通じゃないし、可愛くもないし、面倒なだけ……」

気づけば、泣いていた。
スマホを持つ手が震えていた。


自分の「価値のなさ」が爆発した夜

「どうせ私なんて、って、ずっと思ってる。誰といても、自分なんか……」

(言いたくなかった。言うつもりじゃなかった)

でも、今まで心に押し込めてきた感情が、彼の前で溢れ出した。
まるで、ダムが決壊したみたいに。

「誰かに必要とされたい。でも、どうせすぐ嫌われる。だったら最初から期待しないほうがマシ……」
「——君は、今までそうやって、自分を守ってきたんだね」

彼のその言葉に、はっとした。

「怖かったよね。期待して裏切られるのが。でもね、俺は、そんな君ごとちゃんと知りたいって思ってる」

(……ちゃんと、知りたい?)

こんなにも、ぐちゃぐちゃな感情をぶつけたのに。
自分の“ダメ”をすべてさらけ出したのに。
彼は、黙らなかった。逃げなかった。

それが——怖いくらいに、あたたかかった。


彼がくれた、たった一言の救い

「俺にとって、君は“面倒な人”じゃないよ」
「むしろ……ちゃんと気持ちを言える人って、すごいと思う」
「俺の前では、無理して明るくしなくていい。泣いてても、拗ねても、不安でも、そのままでいいから」

その言葉に、私は息が詰まった。

「……そんなふうに言ってくれる人、今までいなかった」
「じゃあ、俺が最初になる」
「……ずるいよ、そんなこと言われたら……」
(でも本当は、すごく嬉しかった)

私は、スマホ越しに何度も深呼吸して、
涙でぐしゃぐしゃになりながら、ようやく笑った。


本当の意味で、初めて“信じたい”と思った

「ありがとう」と送ったあと、布団の中でひとり、私は思った。

(この人になら……頼っても、いいかもしれない)

“誰かに期待する”って、怖い。
でも、何も期待しない人生は、こんなに寂しかったんだって、今やっと気づいた。


次章:「君は君のままでいい」と言われて
過去の自分も、弱さも、すべて受け止めてくれる彼の言葉。
その一言が、私の生き方すら変えていく。

「君は君のままでいい」と言われて

喧嘩の翌日、彼から届いたメッセージ

朝、スマホを開くと、一通の長文メッセージが届いていた。
昨日、私が泣きながら感情をぶつけた、その翌日。

「おはよう。昨日はありがとう。ちゃんと、話してくれてありがとう。
感情をぶつけてくれて、俺、嬉しかったよ。
君が弱いところを見せてくれるって、俺に心を開いてくれてるってことだから。
それって、すごく大切なことだと思ってます。
焦らなくていいし、無理に変わらなくていい。
俺は、君が“君”でいてくれることが一番うれしい。」

(……朝から泣かせるなんて、ずるい)

布団の中でスマホを握ったまま、私は声を殺して泣いた。
嬉しさでもなく、申し訳なさでもなく、ただただ——心が震えていた。

私は、誰かにここまで言ってもらったことなんて、一度もなかった。
「そのままでいい」なんて、どこかのおとぎ話の中の言葉みたいだったのに。

それが、現実として届いた。


もう一度、ちゃんと会いたいと思った

「会って、ちゃんと話さない?」と、私から送った。
返事は即答で「うん、会おう」。

2日後、駅の小さな喫茶店で再会した。

彼は変わらない優しさで笑ってくれていた。
私の顔を見るなり、「元気出た?」と小さな声で聞いてくれた。

「昨日、夜中に何度も読み返しました。あのメッセージ……」
「俺も、送ってからすごく緊張してた。重すぎたらどうしようって」
「重くない……重くなんか、なかったです」
「なら、よかった」

彼の笑顔を見て、私はようやく深く息ができた気がした。


過去を話すのが怖くなくなった

その日、私は初めて自分の過去を話した。
いじめられた学生時代のこと。
親との関係。
誰にも頼らず生きようとしてきた理由。
「“どうせ私なんて”って思う癖、今もずっと抜けないんです」

「うん、そう思っちゃうの、わかる」
「でもね、それって“ちゃんと感じてきた証拠”だと思うんです」
「痛いこと、辛いこと、見ないふりせずに受け止めた人だから、そういう言葉が出るんだと思う」

彼の目は真っすぐで、どこまでも静かだった。
あの目に映る自分は、たぶん——「価値のない存在」じゃなかった。

「俺はね、君のそういうところ、すごく好きです」

その言葉で、私はついに泣いてしまった。
人前で泣くのなんて、何年ぶりだろう。
でも、彼は笑ってくれた。

「泣いていいよ。ここにいる間は、なんでもしていいよ」


“受け止められる”って、こういうことなんだ

それからというもの、私は少しずつ「誰かに話すこと」が怖くなくなった。
LINEでも、電話でも、会った時でも——自分の言葉で、自分の気持ちを伝えるようになった。

すると不思議なことに、自分自身のことも、少しだけ優しく見られるようになってきた。

彼の存在が、「私の中にある“いいところ”」を、毎回拾い上げてくれたから。

「気遣いができて偉いね」
「その発想、君らしくて好き」
「そんなふうに思えるって、素敵な感性だと思うよ」

(そんなふうに見てくれる人が、ちゃんといるんだ)


君は、君のままでいい——

夜の帰り道、歩きながら彼がふと口にした。

「ねぇ、俺が“好きだな”って思うのはさ、
君が何かを頑張ってる姿とか、笑ってる顔とか、泣いてても逃げないところでさ」
「うん……」
「それって、つまり“君が君でいる”ってことなんだよね」
「……私、自分のこと、好きになれるかな」
「焦らなくていい。
でも、俺はもう、君のこと、大好きになってる」

その言葉を、私は一生忘れないと思う。


趣味の話を初めて笑顔でできた時間

「それ、めっちゃ面白いじゃん!」の衝撃

「……でね、私、実は“家系図”作るのが趣味なんです」

(言ってしまった……)

とある土曜の午後、彼と並んで歩く帰り道。
カフェでの会話が自然と趣味の話に流れたとき、私は思いきって打ち明けた。
ずっと隠してきた、誰にも話したことのない、自分の“変な趣味”。

家系図。
江戸時代から続く家の系譜を辿ること。
市役所に申請して戸籍謄本を集めたり、過去の記録を読み解いたり、墓地の配置を調べたり——

普通に聞けば「地味」「暗い」「オタクすぎる」と思われても仕方ないような趣味だ。
だから今まで、誰にも言えなかった。

でも彼は——

「それ、めっちゃ面白いじゃん!」と笑った。

「えっ……」
(今、引かれなかった?)

「いや、すごいよ!過去の人たちの人生、辿っていくんでしょ?めちゃくちゃロマンあるじゃん」
「……ロマン、ですか?」
「だって、“今ここにいる自分”って、何十人もの人生の連なりの果てにいるんだよ?なんかさ、めっちゃ深いよ、それ」

彼は、本気で感心していた。
冗談でも、お世辞でもなく、心の底から「すごい」と思ってくれていた。

(なんでこの人、こんなに……私のこと、ちゃんと見てくれるんだろう)


「私、ちゃんと笑ってる?」と聞いてみた

その日、私たちは大きな公園のベンチで缶コーヒーを飲んでいた。

彼は缶のふたをくるくる回しながら、「俺、正直言うと、最初“経理”って聞いてすっごい無口な人かと思ってた」って笑った。

「無口……まぁ、間違ってないかもですけど」
「でも、話すとめっちゃ面白いし、知識深いし、もっと色んなこと知りたいって思う」
「……私、今、笑えてますか?」
「うん、すっごくいい顔してる。あ、スマホで撮る?証拠残す?」
「や、やめてくださいよ!」
(でも、嬉しかった。こんなに自然に笑ってるって、自分じゃ気づかなかった)


「好きなことを、好きって言える場所」があるということ

彼といると、自分の“好き”がどんどん溢れていった。

それまでは、人と会うときは“正解っぽい自分”を演じていた。
無難な服装、当たり障りのない話、間違えない言葉選び。

だけど今は——

「小学生のときから“過去帳”って響きが好きで……」
「“過去帳”!?それ、たしかに言葉の響きヤバい!」
「でしょ!?ロマンあるって言ってもらえて嬉しい……」

私は、ただ“自分でいる”ことが、こんなにあたたかくて楽しいものだったんだと知った。

(この人の隣なら、変な自分でも、大丈夫なんだ)


帰り道、彼の一言が胸に刺さった

「ねぇ、俺さ——君の話を聞いてると、自分もなんか“好きなことを大事にしよう”って気持ちになる」
「え……どうしてですか?」
「君が話してるとき、目が本当にキラキラしてるから。
“好き”って、ああやって誰かに伝えていいものなんだなって思えるから」

(私の目が、キラキラしてる?)

そんなこと、一度も言われたことなかった。
ずっと下を向いて、自信なくて、自分の話を避けてきたのに。

「……私、あなたに出会って、はじめて“自分を話してもいい”って思えました」

その言葉に、彼は少しだけ目を細めて——

「それってさ、最高の告白じゃない?」

と笑った。

私は顔を真っ赤にして、缶コーヒーを握りしめた。

(うん……もしかしたら今、ちょっとだけ——幸せってやつかも)


一緒にいる未来が自然に思えた帰り道

ただ歩いていただけなのに、なぜか泣きそうだった

その日、私たちは映画を観た。
タイトルは『未来予想図』。恋人たちが時を越えて再会する、少し切ない物語だった。

上映が終わったあと、場内の照明がゆっくり灯っても、私はすぐに立ち上がれなかった。
(物語の中の彼女の気持ちが、胸に刺さりすぎて)

「大丈夫? 泣いてた?」
彼が隣で、小さな声で訊いた。

「泣いてません」
(でも、泣きそうだった)

外に出ると、夕暮れの風が頬を撫でた。
駅とは逆方向へ、自然とふたりで歩き出す。

会話は少なかったけれど、それがまったく苦にならなかった。
むしろ、沈黙が優しかった。

そして、ふと気づいた。
(この人と一緒に歩く時間が……このまま、ずっと続いてもいいなって、思ってる)


「手、つないでもいい?」という声に心が震えた

川沿いの遊歩道に差しかかったころ、彼が急に立ち止まった。

「ねぇ、手……つないでもいい?」
「えっ……」
(心臓が跳ねた。まさか、こんな……)

私は何も言えなかったけど、うなずいていた。
ほんの少しだけ、指先が震えていた。

彼の手は、あたたかかった。
そして、やさしくて、ちょうどいい強さだった。

「これ、変だったらごめんね」
「……変じゃないです」
(むしろ、ずっとこうしていたいと思った)

握られた手から、彼の鼓動が伝わってくる気がした。
ふたりの間に流れていた“なにか”が、初めて目に見えた気がした。


他愛もない話が、未来を描くきっかけになった

「俺、いつか犬飼いたいんだ」
「犬派なんですか?」
「うん。でっかいやつ。ゴールデンレトリバーとか。君は?」
「……文鳥とか、インコとか……小さいのが、好きかも」
「文鳥か……いいな。名前は“もち”とかにしよう」

(“もち”って……でも、かわいいかも)

そんなくだらない話なのに、
それをしている自分が、心から満たされていた。

未来の話。
将来の話。
「もし一緒に暮らしたら」みたいな仮定。

今までなら絶対、怖くて避けてたはずなのに、
彼と話してると、なぜか——
それが「現実の選択肢」として、当たり前のように浮かんでくる。


コンビニの前で、彼がくれた言葉

帰り道、コンビニの前で飲み物を買って、一緒に立っていたとき。

彼が、ぽつんとつぶやいた。

「……君といると、“安心”ってこういうことか、って思うんだ」

私は驚いた。
そんなこと、言われたのは初めてだった。

「安心、ですか……?」
「うん。無理しなくていいし、沈黙してても大丈夫だし。なんか、家みたいっていうか」
「……家」
「うん。帰ってきたくなる場所、っていう感じ」

(今の……告白、じゃないの?)

私は、胸がぎゅっとして、何も言えなくなって、ただ缶のお茶を見つめた。

でも、その沈黙を、彼は急かさなかった。
やっぱり、彼はいつも“そのままでいい”って顔をしてくれていた。


私の中で、未来の「誰か」ではなく「彼」が浮かんだ日

その夜、帰宅してからベッドに寝転がって、天井を見上げながら考えていた。

(なんでだろう。もう“この人と一緒にいる未来”が、
頭の中で普通に浮かぶようになってる)

結婚、とか、パートナー、とか、そんな具体的な言葉じゃなくても。
休みの日に一緒にごはんを食べて、テレビを見て、しょうもない話をして笑う——
そんな日常が、彼となら“現実”になるかもしれないと思えた。

(私、今……生まれて初めて、誰かの隣を欲しいって思ってる)


もう逃げない、と思った

もう、自分の感情からも、
過去の傷からも、
“どうせ私なんて”という呪いからも。

私は逃げたくなかった。
彼の手を握ったあの瞬間——
彼が言った「安心」という言葉が、
自分の中で新しい“生き方”を照らしてくれていた。


指輪を受け取る瞬間、自分を好きになれた気がした

予想なんてしてなかった、あの日の出来事

その日は、何の前触れもなく始まった。
ただの、いつも通りのデート。
駅前で待ち合わせして、映画を観て、遅めのお昼を食べて。
帰りにパン屋さんで翌朝のクロワッサンを買って、夕暮れの公園を歩いてた。

(特別なことなんて、何もない)
そう思ってたのに、彼は途中でふと足を止めた。

「……ちょっとだけ、こっち来て」

彼が私の手を引いたのは、公園の奥、人気のないベンチの前だった。
夕日が沈む手前の、静かな時間。
風の音と、木々のさざめきだけが響いていた。


「こんな俺だけど、君とこれからを歩きたい」

彼は少しだけ、深く息を吸い込んだ。
その表情を見た瞬間——私は、なんとなく分かってしまった。

(……え? もしかして、これって……)

彼の手が、ポケットの中から、小さな箱を取り出す。

「うまく言えるか分からないけど」
「……俺、君と一緒にいた時間、どれも本当に大事で」
「不器用なとこも、面倒なとこも、頑固なとこも、
全部ひっくるめて、君が好きだと思ってます」

(心臓、止まるかと思った)

「だから、もしよければ——これからの人生、隣にいてくれませんか?」

彼は、私の目をまっすぐ見ていた。
笑ってもいない。冗談っぽくもなかった。
ただただ真剣で、まっすぐな瞳だった。


「私なんかじゃ、だめなんじゃないか」って、本当に思ってた

私の脳内はぐちゃぐちゃだった。

(だって私は、恋愛経験ゼロで)
(人付き合いも下手で、いつも逃げ腰で)
(こんな私が、誰かの“人生”の隣に立っていいなんて……)

「……私、本当に、自分に自信なくて……」
「うん、知ってる」
「なんで……私なんかに……」
「“なんか”じゃないから、だよ」

彼の手が、そっと私の手を包んだ。

「君は、自分が思ってるよりずっと頑張ってて、
ずっと優しくて、ちゃんと向き合える人だから」

「……でも、怖いよ」
「大丈夫。怖いままでいいから。俺が一緒にいるから」

その言葉に、私は——涙が止まらなかった。

何年も、誰にも届かなかった想いが、ようやく誰かに届いた気がした。


震える手で、指輪を受け取った

彼が差し出した箱の中には、細い銀色の指輪。
シンプルで、小さな宝石が一粒だけついていた。

「これが似合うか分からないけど……」
「……似合わないわけ、ないです」
(だって今、私……こんなにも嬉しい)

指に通された瞬間、私は自分の手を、はじめて愛おしいと思った。
この手で、これから誰かと未来をつないでいくんだって、思えたから。

(私、自分のこと——ちょっとだけ、好きになれたかもしれない)


私たちは、まだまだ“途中”だけど

彼との未来は、きっと穏やかで、時々ぶつかって、笑って泣いて。
ドラマチックじゃないかもしれない。
けど——あたたかい。

「ありがとう」
私は彼にそう言った。
「私の人生に、入ってきてくれて」って。

「こちらこそ。……出会ってくれて、ありがとう」
そう言って、彼は私の肩を、ぎゅっと抱き寄せた。


おわりに

「私なんか」が、「私でよかった」に変わった日々

長いあいだ、私は「どうせ私なんて」と思いながら生きてきた。
誰かの隣に立つ資格なんてない。
選ばれるわけがない。
傷つきたくないから、心の扉に鍵をかけてきた。

だけど——彼はその鍵を、叩き壊すでもなく、
ただ静かに、ノックし続けてくれた。

そして今、私はあの頃の私にこう言ってあげたい。

「大丈夫。
あなたは、あなたのままで、ちゃんと誰かに愛されるよ」って。