幼稚園児が2桁の足し算を理解するための考え方
幼稚園児が2桁の足し算でつまずくのは、能力が足りないからではありません。2桁になると「数字が2つ並んでいる」という見た目の変化に加えて、「10のまとまり」という新しい約束が入ってくるため、頭の中の整理が追いつかなくなるだけです。
このガイドは、家庭でそのまま再現できるように、順番、道具、声かけ、練習の出し方、つまずき別の戻り方まで、途切れずに一本の道として書いています。読んで終わりではなく、今日から回せる手順書として使ってください。
このガイドの使い方
最初に大事な結論だけ押さえます。
2桁の足し算を理解させる最短ルートは、筆算の形を覚えさせることではありません。先に「10こ集まったら1つの10に交換する」を、手で動かして体験させることです。これが腹落ちすると、筆算はただのメモの形になり、暗記ではなく理解として定着します。
進め方は、次の流れに固定します。
10を作る遊びで土台を作る、繰り上がりなしで位を分ける癖を作る、繰り上がりで交換を体験する、最後に紙の計算へ移す。
この順番を入れ替えると、途中で混乱が増えやすいです。
2桁の足し算が急に難しく見える理由
1桁の足し算は、子どもにとって「いくつといくつ」をそのまま足す作業です。ところが2桁の数は、同じ数字でも意味が変わります。
12は、1と2が並んでいるのではなく、10が1つと1が2つです。15は、10が1つと1が5つです。
この見方がまだ安定していないと、子どもは12を「1と2」として見てしまいます。すると足し算は、何をどう足していいか分からなくなります。
さらに、繰り上がりが入ると「1の位で10になったら10の位へ移す」という追加ルールが出ます。幼稚園児は、頭の中だけでこの移動をするのがまだ難しい時期です。だからこそ、手で動かせる道具が必要になります。
最初に覚える約束は1つだけ
ここで覚える約束は1つに絞ります。
1が10こ集まったら、10が1つになる。
これが繰り上がりの正体です。
この約束を「言葉として覚える」のではなく、「交換して移す動作」として体験させます。言葉はあとから追いつきます。先に手が覚えると早いです。
準備編
家にあるものでそろえる道具
道具は多いほど良いわけではありません。目的は同じ動きを見せることなので、最低限で十分です。
交換が見える道具
交換が見える道具とは、1が10こ集まると、10のまとまりに替えられるものです。
分かりやすいのは、お金のモデルです。10円玉と1円玉の代わりでも構いません。
10円玉の代わりは、輪ゴムで束ねたストロー10本、10個つながったブロック、10枚で束にした紙片などが使えます。
1円玉の代わりは、小さいブロック、豆、ボタン、消しゴムの小片など、同じ大きさのものなら何でも構いません。
10こが一目で分かる枠
10マスの枠があると、「10がいっぱいになったら交換」という動きが視覚で分かります。
卵パック10個入り、10個分の丸を描いた紙、10マスの線を引いた紙が便利です。
この枠があるだけで、数え間違いと混乱が大幅に減ります。
紙に書くときの補助
紙で計算をする段階では、位がずれてミスが起きやすいです。
方眼ノート、マスのあるプリント、または自作の「10の位の欄」「1の位の欄」を作った紙を用意すると安定します。
ここでも大事なのは、正解より「正しい場所に書ける」ことです。
親が最初に決めておく3つの約束
家庭学習は、親のやり方が日によって変わると子どもが混乱します。次の3つを固定すると伸びやすいです。
1つ目は、説明の言い方を毎回同じにすることです。
2つ目は、短時間で終えることです。集中が切れる前に終わると、算数が嫌いになりにくいです。
3つ目は、間違いを止めるのではなく、途中を見て直すことです。幼稚園児は途中の道筋を整えると急にできるようになります。
土台作り編
10を作る感覚が2桁の全てを決める
繰り上がりが苦手な子の多くは、10を作る感覚がまだ固まっていません。
2桁の足し算を頑張るより先に、「あといくつで10になるか」を遊びで強くするほうが近道です。
10を作る遊び1 あといくつで10
親が数字を言います。子どもは、10にするにはあといくつ必要か答えます。
例として、親が8と言ったら子は2、親が6と言ったら子は4です。
最初は指を使っても構いません。慣れてきたら、指を出す前に口で言えるようにします。
大事なのは速さではありません。10にする、という方向が頭に入ることです。
10を作る遊び2 10の箱に入れる
10マスの枠を置き、たとえば7個入れて見せます。
親が「いっぱいにするにはあといくつ」と聞きます。子どもは残りのマスを数えて答えます。
これは、数の補数を目で見て理解できるので、口だけのクイズより安定します。
同じことを、9個、8個、6個と変えて繰り返します。
10を作る遊び3 おやつで10
飴や小さいお菓子を10こ並べ、「今日は7こ食べた。あと何こ残ってる」と聞く形でも構いません。
生活の中で繰り返すと、勉強の場面だけで頑張らなくてよくなります。
2桁の数字を分解する練習
2桁の足し算の前に、2桁の数を分けられるようにします。
12は10が1つと1が2つ。
17は10が1つと1が7つ。
20は10が2つと1が0。
ここで0が出てきても怖がらないように、「1が0なら、1の場所は空っぽ」と言えば十分です。
分解は、紙で書くより先に、道具で置いて見せると速いです。10のまとまりを1つ置き、1を2つ置いて「これが12」と言うだけで、数の正体が目に入ります。
繰り上がりなし編
最初は繰り上がりのない問題だけで慣らす
繰り上がりがない足し算は、位を分けて足す練習に集中できます。
この段階の目的は、正解を出すことより、「10の位どうし」「1の位どうし」を別々に扱う癖をつけることです。
教え方の基本の言い方
毎回この言い方に固定します。
10の位のたし算、1の位のたし算。
この短い言い方を繰り返すだけで、子どもは位の存在を意識し始めます。
道具でやる例 12たす15
12を置きます。10のまとまりを1つ、1を2つ。
15を置きます。10のまとまりを1つ、1を5つ。
まず1の場所だけ集めます。2と5で7。
次に10の場所だけ集めます。10が2つ。
答えは27。
ここで親は、計算の手順を長々と言わないほうがうまくいきます。
1の場所は7、10の場所は2。だから27。
この短さが、子どもの頭の中を散らかしません。
道具でやる例 23たす14
23は10が2つ、1が3つ。
14は10が1つ、1が4つ。
1の場所は3と4で7。
10の場所は2と1で3。
答えは37。
このように、1の場所が10を超えない問題で、位を分ける癖を作ります。
最初に使いやすい問題の考え方
最初は、1の位の合計が9以下になるように選びます。
たとえば、11たす12、12たす15、13たす14、21たす3、22たす4のような問題です。
答えが大きくならないことより、繰り上がりが起きないことが重要です。
書く練習を始めるタイミング
道具で5問程度やって、子どもが「1の場所」「10の場所」と言いながら動かせるようになったら、紙に書く練習へ移します。
ただし、紙に移した瞬間に難度が上がります。書くこと自体が負荷だからです。
だから最初は、答えだけ書かせるのではなく、位をそろえて書けたことを成功として扱います。
位をそろえる書き方の工夫
横に書くより縦に並べたほうが、位がそろい、何を足すかが明確になります。
方眼なら、右端を1の位に固定します。
方眼がないなら、縦線を引いて右側を1の位、左側を10の位として区切ります。
この枠があるだけで、位のずれによるミスが減ります。
繰り上がり編
繰り上がりは新しい計算ではなく交換
繰り上がりを、難しい特別ルールに見せないことが大切です。
やることは同じです。1の場所を足して、10こになったら交換して10の場所へ移す。それだけです。
だから最初の数回は必ず道具でやります。頭の中でやらせない。ここが最短です。
道具でやる例 18たす7
18を置きます。10のまとまり1つ、1が8つ。
7を置きます。1が7つ。
1の場所を全部集めると、1が15こになります。
ここで交換します。1を10こ集めて、10のまとまり1つに替えます。
替えた10のまとまりを10の場所へ移します。
残った1は5こです。
10の場所は、もともと1つあった10に、交換で増えた10が1つで2つ。
答えは25。
この一連を、子どもの手でやらせます。親がやって見せるだけだと定着が弱いです。子どもが実際に10こを集め、束にし、移す。これで繰り上がりが体の経験になります。
道具でやる例 27たす8
27を置きます。10が2つ、1が7つ。
8を置きます。1が8つ。
1の場所は7と8で15こ。
10こを交換して10の場所へ移します。
残りは5こ。
10の場所は2つに1つ増えて3つ。
答えは35。
同じ15になる例を続けると、交換の動きが安定しやすいです。
道具でやる例 36たす9
36は10が3つ、1が6つ。
9は1が9つ。
1の場所は15こ。
交換して10の場所へ。残りは5こ。
10の場所は3つに1つ増えて4つ。
答えは45。
ここで子どもが混乱しやすいのは、交換したあとに残りの1を数え忘れることです。
親は「交換したら終わり」ではなく「交換して、残りを数える」と、毎回同じ言い方で締めます。
繰り上がりの「忘れ」を防ぐ声かけ
繰り上がりで一番多いミスは、10の場所へ足すべき1を忘れることです。
これは注意力の問題ではなく、手順がまだ体に入っていないだけです。
声かけは短く固定します。
10こできたら、10へお引っ越し。
この一言を、交換の瞬間に毎回言います。長い説明は逆効果です。
指を使う子への対応
1桁の足し算で指を使っている子が、2桁で指が足りずに止まることがあります。
この場合は、指を禁止しないほうがうまくいきます。
代わりに、指は1の場所だけで使い、10の場所は束で見る、という形に分けます。
そして最終的には、10を作る感覚が強くなると、指は自然に減ります。無理にやめさせる必要はありません。
紙の計算へ移す編
紙に移すときに難しくなる本当の理由
紙に書く段階で急にミスが増えるのは、計算が難しくなったからではありません。
数字を書く、位をそろえる、手順を覚える、という別の負荷が増えるからです。
だから紙の段階では、正解の数より「正しい手順で進められたか」を成功と扱います。
まずは縦にそろえて書く
2桁の足し算は、縦にそろえて書くほうが子どもには分かりやすいです。
右端を1の位としてそろえる。これができれば、ミスの半分は消えます。
方眼なら、右端のマスに1の位を書く。
方眼がないなら、縦線を引いて右側の欄に1の位、左側の欄に10の位を書く。
この仕切りは、最初のうちは必須だと考えたほうが楽です。
繰り上がりなしの筆記例 23たす14
紙に縦に書きます。
1の位の3と4を足して7を書く。
10の位の2と1を足して3を書く。
答えは37。
この段階では、式の見た目を整えることも練習の一部です。ぐちゃぐちゃでも正解なら良い、ではなく、整えることで頭が整理されます。
繰り上がりありの筆記例 18たす7
紙に縦に書きます。
1の位の8と7を足して15。
ここで大事なのは、15をそのまま下に書かせないことです。幼稚園児は、ここで混乱します。
動きと同じにします。
10が1つできた、1が5残った。
だから1の位の下には5を書く。
10が1つ増えるので、10の位に1を足す。
10の位は1に1を足して2。
答えは25。
紙の上では、10の位に小さく1を書くやり方もありますが、幼稚園児には「10が1つ増えた」ことを言葉で確認しながら進めるほうが安定します。小さく書く方法は、子どもが嫌がらないなら取り入れて構いません。
10の位の上に小さく書く方法を入れるタイミング
小さく1を書く方法は、便利ですが、早すぎると形だけになりやすいです。
道具で交換を十分に経験したあとに、紙でも同じことをするためのメモとして導入します。
導入するときの言い方は短くします。
さっき交換して増えた10を忘れないために、ここに印を置く。
これなら、意味が動きとつながります。
0が混ざる問題の扱い方
0が混ざると混乱する子は少なくありません。
たとえば20たす7や30たす4です。
このときは、0を特別扱いして説明するより、「1の場所が空っぽ」を体で見せるほうが速いです。
20は10が2つ、1が0。だから1の場所には何も置かない。
そこに7を足すと、1の場所は7になるだけ。
10の場所は2のまま。答えは27。
道具で、1の場所が空のまま進む経験をすると、0が怖くなくなります。
つまずき別の直し方
位がずれてしまう
位がずれる原因は、理解不足というより、書くときの補助が足りないことが多いです。
方眼を使う、縦線で欄を作る、右端を1の位に固定する。
これを徹底すると、正しくできていた子が急に安定します。
声かけは短くします。
右の部屋が1、左の部屋が10。
この言い方を、書く前に毎回言うと定着しやすいです。
1の位を足したところで止まる
1の位を足したところで満足してしまい、10の位へ進まない子がいます。
これは、手順の区切りが曖昧なだけです。
解決は、毎回同じ順番を体に入れることです。
1の部屋、10の部屋。
この2語を合図にして、必ず次へ移ります。
繰り上がりの増えた10を忘れる
交換で増えた10を忘れるのは、よくあることです。
このとき叱る必要はありません。
忘れない工夫を入れます。
紙の10の位の上に小さく印を書く、または10の位に足す前に指でそこを触れてから計算する。
幼稚園児には、指で触れる動作が強い合図になります。
言い方は、短く固定します。
増えた10、ここにある。
これで十分です。
そもそも1桁の足し算に時間がかかる
2桁が苦手に見えて、実は1桁の足し算がまだ反射になっていない場合があります。
とくに8たす7、9たす6のような組で止まると、2桁ではさらに負荷が増えます。
この場合は、2桁の練習量を増やすより、10を作る遊びに戻るほうが近道です。
8に2を足すと10、残りは5。だから15。
こうした考え方が体に入ると、繰り上がりが急に簡単になります。
数字の読み書きが不安定
12を21と書く、3と5が反転する、数字の向きが崩れる。
これは算数以前に、書字と左右の安定の問題です。
対処は、短時間で良いので、正しい形をなぞる、ゆっくり書く、読み上げながら指で追う、の繰り返しです。
計算練習を増やすより、数字の形を整えるほうが効果が出ることがあります。
親の声かけ編
ほめるポイントは正解ではなく手順
幼稚園児は、正解だけを評価されると、怖くて手が止まります。
ほめるべきは、手順が合っていたところです。
位を分けられた、1の場所から始められた、10こを交換できた、残りを数えられた。
このように途中を拾うと、子どもは安心して試行錯誤できます。
間違えたときの直し方
間違いを見つけたら、答えを言うより先に、途中の状態を一緒に見ます。
1の場所にいくつあるか、10の場所にいくつあるか。
交換は起きたか、残りは数えたか。
ここを確認すると、多くのミスは自分で直せます。
自分で直せた経験は、正解より大きな自信になります。
説明を求めすぎない
子どもによっては、分かっていても言葉にするのが難しいです。
その場合は、説明させるより、手でやって見せてもらうほうが確実です。
どうしたの、と聞く代わりに、もう一回やって見せて、と言う。
これで十分に理解の確認になります。
家庭で回す練習計画
1回10分で十分
幼稚園児は、短い成功を積むほうが伸びます。
毎回、同じ流れで終えると安心します。
最初の2分で10を作る遊び。
次の5分で2桁の足し算。
最後の3分で今日のまとめとして1問だけ繰り上がり。
このくらいで、十分に積み上がります。
1週間の進め方の例
最初の2日は、10を作る遊びを多めにして、繰り上がりなしを中心にします。
3日目から、繰り上がりを道具で少し入れます。
5日目あたりで、紙に縦にそろえて書く練習を始めます。
1週間で完成を目指さなくて構いません。
大事なのは、嫌にならずに続くことです。理解は、ある日まとめて起きることが多いです。
よく使う練習問題の作り方
繰り上がりなしを作るコツ
1の位どうしを足して9以下になる組を選びます。
例として、12たす15、23たす14、31たす17のように、1の位が2と5、3と4、1と7などです。
これで位分けが安定します。
繰り上がりありを作るコツ
1の位どうしが10以上になる組を選びます。
例として、18たす7、27たす8、36たす9、14たす8などです。
最初は1の位の合計が15になる組を繰り返すと、交換の動きが覚えやすいです。
動きが固まってきたら、16、17、18になる組へ広げます。
最後に
2桁の足し算は、幼稚園児にとって大きな壁に見えますが、実際は「10こで交換」という1つの約束が分かれば、道が一気に開けます。
焦らず、短く、同じ言い方で、手で動かして、少しずつ紙へ移す。
この順番が守れれば、親子のストレスは最小で済みます。
もし、いま実際に止まっている問題があるなら、その式をそのまま3つ書いてください。繰り上がりの有無、0の混ざり方、位のずれの癖に合わせて、最短で通る練習順と、家庭にある道具での置き方を、手順の台本として作り直します。