ファイアボルト(試合の時のホウキ)って誰からの贈り物だったの?

ファイアボルト(試合の時のホウキ)って誰からの贈り物だったの?

ファイアボルト(試合の時のホウキ)って誰からの贈り物だったの?

「ファイアボルト」と聞いて、魔法界の誰もがすぐに反応するほど、それは特別な箒でした。最高速度、最高性能、そしてその見た目の美しさ。木目は滑らかで、しなやかで、手にした者は誰でも空に舞い上がってみたくなるほど魅力的。でも、これを贈り物としてもらえるなんて、普通ではありえません。しかもそれを、ホグワーツ3年目のハリー・ポッターが手にしたというのは、ほんとうに信じられない展開でした。

そのきっかけは、悲しい出来事。『アズカバンの囚人』で、ハリーの愛機「ニンバス2000」が、暴走した暴れ柳にぶつかって壊れてしまったのです。試合中だったとはいえ、あんなに大切にしていた箒が粉々になるシーンは、読むだけで胸が痛みます。しかも、その暴走はディメンターのせい。ハリーの心の中には、「自分が狙われている」「守ってくれる人がいない」という不安が渦巻いていた頃のことでした。

その少しあとに、「誰か」から突然届いたファイアボルト。差出人の名はなし。ただ、完璧すぎる箒が静かに箱に納められて、グリフィンドール塔に運ばれてきた。それを見たハリー、ロン、ハーマイオニーの反応はバラバラ。ハリーはもちろん飛びつくほど嬉しそうで、ロンも大興奮。でも、ハーマイオニーだけは違いました。「誰がこんな高価な物を?なぜ差出人が書かれていないの?」と、ちゃんと疑ってしまったんです。

この“疑い”が、のちのちの展開を大きく左右します。

誰がファイアボルトを送ったのか?――真相にたどり着くまで

このファイアボルト、結果的に「シリウス・ブラック」が贈ったものでした。ハリーの実の父ジェームズの親友であり、ハリーにとっての“もう一人の家族”のような存在。アズカバンから脱走して、最初は「殺人犯」として追われていたシリウスですが、物語が進むにつれて、彼が無実であり、むしろハリーのために命を懸けて動いていたという事実が明かされていきます。

それを知ったとき、ファイアボルトの贈り主がシリウスだったことに、すべてがつながったような気がしました。

・ジェームズと同じように、クィディッチを愛するハリーに一番良い箒をあげたいと思った
・親としては何もしてあげられなかった分、せめて守ってあげたいと思った
・名前を伏せたのは、まだ自分が世間から追われる立場だったから

それらを思うと、ファイアボルトはただの「高級品」ではなく、シリウスの「父親のような想い」がこもった、形のある愛だったんです。

映画と小説で少しだけ違う描かれ方

小説と映画では、ファイアボルトにまつわる演出が微妙に異なります。特に映画版『アズカバンの囚人』では、物語のラストシーンにハリーがファイアボルトで空へ飛び立つ様子が描かれています。この演出は、物語の暗さを少しやわらげる効果がありました。ハリーにとっての「新しい希望」や「シリウスとのつながり」が、空を駆け抜けるスピードに込められていたのだと思います。

一方で、小説ではもう少し現実的で、疑い・検査・真相解明という段階がきちんと描かれます。ハーマイオニーがマクゴナガル先生に告げ口して、ファイアボルトは一時没収され、細部までチェックされることになります。この描写には、「誰も信じられない中で生きている」ハリーたちの不安と、「子どもであっても自分で判断する責任」を描こうという作者の意図が見えてくるのです。

『呪いの子』におけるファイアボルトの影

『ハリー・ポッターと呪いの子』では、ファイアボルトそのものの登場はありません。しかし、ファイアボルトを象徴とする“飛ぶこと”や“自由になること”のモチーフは、スコーピウスやアルバスの物語にもちゃんと引き継がれています。

とくにアルバスが、自分の父・ハリーとは違う道を歩もうと悩む中で、「自分には飛ぶ力がない」「自分には箒なんて似合わない」と感じるシーンは、ファイアボルトの象徴性を間接的に浮かび上がらせます。父の時代の“象徴”だったものが、自分には「まぶしすぎる存在」として映ってしまう。ファイアボルトはそこで“過去の記憶”として残されていくのです。

だからこそ、ファイアボルトという贈り物には、時間と想いの重みがある。ただの箒では終わらない。ハリーにとっては“家族を感じられる一つの形”だったから。

作者J.K.ローリングの意図を探る

ローリングがファイアボルトに込めた想いは、「魔法界の中での親子のつながり」「血より深い絆」「信頼とプレゼント」というキーワードから見えてくるように思います。

ハリーには実の両親がいません。育ての親たち(ダーズリー一家)は、彼にとっての「本当の家族」ではなかった。そんな中で、「誰かが自分を思って何かをくれる」という行為は、それだけで心を支えるものになります。とくに、身寄りのない子どもにとって、それは自分の存在を肯定してくれる証のようなもの。

ローリングは、ただの豪華な箒を描いたのではなく、「何もできないけど、あなたを想っている」という“見えない手紙”を、あのファイアボルトの箱に込めたんだと思います。

そう考えると、ハーマイオニーの“疑い”すらも、愛情の形だったんですよね。危険からハリーを守りたいという気持ちが、たとえ友情にヒビを入れても、ああいう行動につながったのです。

どうしてシリウスはファイアボルトを選んだの?

「世界最高の箒」を選んだのは、ただ贅沢さを見せたかったからじゃない

シリウス・ブラックがハリーに贈ったファイアボルト。これは、魔法界で当時最新で最高級、プロのクィディッチ選手たちも指名するような超一流の箒です。値段も高く、普通の家庭ではまず買えないもの。

では、なぜシリウスはそれを選んだのでしょうか?

よくある誤解は、「金持ちのシリウスが、見栄を張って高価な物を贈った」かのように思ってしまうこと。でも、それは違います。実はこの贈り物の背景には、シリウスの「罪悪感」と「父親になれなかった苦しみ」、そして「時間を巻き戻したい想い」が、静かに、でも確かに込められているのです。

「ファイアボルト」に込めた“おわび”と“はじめての父の役割”

シリウスは、ハリーの名付け親です。本来なら、両親を失ったハリーを引き取り、育てる立場だった。でも、それができなかった。なぜなら、彼は無実の罪でアズカバンに投獄されていたからです。

13年もの間、シリウスは「親友の息子に何もしてやれない」日々を過ごしてきました。ハリーがダーズリー家で虐げられ、愛のない環境で生きていたことを知ったとき、自分がどれほど無力だったかを突きつけられたに違いありません。

そんな中で、ようやく再会できたハリーに「父のようなこと」をしてあげたかった。おもちゃでもなく、服でもなく、今のハリーにとって一番価値のあるものを。そこで選ばれたのが、クィディッチ好きのハリーにぴったりな「箒」だったというわけです。

ニンバス2000が壊れたことを聞いたとき、シリウスの中で「自分にできる精一杯のことをしたい」という気持ちが一気に高まったのかもしれません。だから、世界で一番速い、世界で一番優れた箒を贈った。それが、彼にとっての“遅れてきた誕生日プレゼント”であり、“もう一つの家族”としての証だったんです。

じゃあ、他の贈り物ではダメだったの?

ここで考えてみたいのが、「他の贈り物ではどうだったのか?」という視点です。シリウスが他にできた選択肢もあったはずです。たとえば――

● 本や魔法の道具
→ 知識は大切だけど、ハリーの性格上「実用性」よりも「行動の自由」を大切にしている子。知識よりも“空を飛べる喜び”の方が、彼の心に残る。

● ペットや魔法生物
→ すでにヘドウィグがいて、ハグリッドからもノーバートなどとの出会いがあった。いまさらペットを贈っても、シリウスとの絆にはなりづらい。

● 写真や思い出の品
→ 感傷的すぎてしまう可能性がある。父ジェームズを思い出させるアイテムは、時には心を温めるけど、逆に寂しさを強くさせるリスクもある。

● 魔法の防具やアイテム(例:透明マントみたいな)
→ すでにダンブルドアから大切なアイテムをもらっているし、戦いの準備よりも「心が解放されるもの」が今は必要だった。

結局のところ、ファイアボルトは「贈り物としての意味」と「ハリーの願い」の両方を、奇跡的に満たしていたんです。

「シリウスが好きだったもの」を、ハリーにも託したのかもしれない

もう一つ考えたいのが、シリウス自身がクィディッチや箒を愛していたかもしれない、ということです。ジェームズ・ポッターと共にホグワーツ時代を過ごした彼は、おそらくスポーツ好きで、仲間と空を飛ぶ時間が大好きだった。そんな日々を思い出しながら、「あのときの楽しさを、今のハリーにも」と思ったとしても不思議じゃありません。

つまり、ファイアボルトは“過去の自分たちの思い出”と、“ハリーの未来”をつなぐ、橋のような存在だったのです。

最後に「差出人名を伏せた」ことの意味

シリウスが自分の名前を贈り物に書かなかったのも、ただの配慮ではありません。まだ無実を証明できておらず、世間的には「アズカバンから脱走した危険人物」として扱われていたからです。

もし「シリウスから」と書かれていたら、すぐに学校にも魔法省にも情報が伝わり、ハリーが危険な人物とつながっていると疑われる可能性があった。そんな未来を避けるためにも、“そっと、でも確かに”贈る方法を選んだ。

それは、言葉にできない愛情のかたちでした。