スネイプはいつ分霊箱のことを知ったの?
ずっと近くにいたのに、なぜ知らなかったの?
スネイプは、ヴォルデモートの一番近くにいたスパイでした。ダンブルドアの信頼も、死喰い人としての信頼も、どちらも手にしていたから、私たち読者からすると「そんな人が、なぜ分霊箱のことを知らなかったの?」って、すごく不思議なんです。
けれど、実はスネイプは、物語のかなり後半になるまで、分霊箱のことを完全には知らなかったんです。これってすごく意味深だと思いませんか?とくに、第6巻『謎のプリンス』と第7巻『死の秘宝』の間に、この「知っていたかどうか」が物語を大きく左右する転機があったように感じます。
ダンブルドアは分霊箱のことを調べていて、すでに第6巻の時点ではいくつかの候補に目をつけていました。でも、彼はスネイプにはその調査の核心を話していなかった。代わりに、スネイプにはドラコ・マルフォイの監視や、自分の死の「計画」を任せていました。つまり、「分霊箱の正体」については、あえてスネイプには秘密にしていた可能性があるんです。
これは、ダンブルドアがスネイプを“最後の切り札”として扱っていたからかもしれません。必要なときにだけ、情報を小出しにしていた。でもこれは、裏を返せば、スネイプはずっと“蚊帳の外”だったということ。知っているように見えて、彼は何も知らなかったのです。
じゃあ、どの時点で「分霊箱」にたどり着いたのか?
結論から言うと、スネイプが「これは分霊箱だ」とはっきり気づいたのは、おそらく『死の秘宝』の中盤以降、あるいはダンブルドアの記憶をハリーに託す直前、つまり死ぬ直前です。
なぜなら、それまでのスネイプは、ヴォルデモートがなぜ“死なない”のか、なぜ“まだ生きてる”のかということすら、はっきりとは理解していなかったからです。
しかもスネイプは「ナギニを守れ」という命令をヴォルデモートから受けています。でも、ナギニが分霊箱だという説明は一切されていない。ただ“貴重な存在”として扱われていた。スネイプ自身もその違和感には気づいていたはず。でも、その理由までは知らされていなかったのです。
そしてようやく、ダンブルドアの記憶をハリーに託すときに、スネイプは自分の中で多くの点と点がつながったような印象があります。そのとき初めて、「リリーの息子であるハリーの中にも、“何か”がある」と悟るんです。だから、あのときあんなに苦しそうだった。愛していたリリーの息子が、結局「生かされていた道具」だったと知った瞬間だから。
ダンブルドアは、なぜスネイプに言わなかったのか?
これもまた、切ないところです。スネイプはダンブルドアに絶対の忠誠を誓っていたし、心の底からリリーのために動いていました。それなのにダンブルドアは、分霊箱の全てをスネイプには話さなかった。
一つの理由として考えられるのは、ダンブルドアが「スネイプに無駄な罪悪感を背負わせたくなかった」という気持ち。もし彼が最初から分霊箱の真相を知っていたら、ハリーを助けるどころか、最初から殺すために守っていたことになる。スネイプがそんなことに耐えられないことを、ダンブルドアは分かっていたのかもしれません。
もう一つは、単純に「情報の流出を防ぎたかった」から。スネイプがヴォルデモートにバレたら全て終わりです。だからこそ、スネイプには「ナギニを守れ」という言葉だけを渡し、あとは彼の洞察力に託した。皮肉なことに、その“少なすぎる情報”が、スネイプにとってあまりに残酷でした。
作者はこの「無知の切なさ」で、何を伝えたかったのか
J.K.ローリングは、この「スネイプは全部を知らされていなかった」という設定に、とても深いメッセージを込めていたように思います。
それは、「たとえ真実を知らなくても、人は正しいことのために命をかけることができる」ということ。
スネイプは、リリーのために、ずっと正しいと思う道を歩きました。でも、彼は最後の最後まで、ハリーに「お前の中にもヴォルデモートの一部がある」と告げる苦しみを味わいます。これは、“正しさ”だけではどうにもならない運命の中で、どこまで誠実に生きるかという問いかけのように思えます。
スネイプは「全部を知らなかった」からこそ、純粋だった。その純粋さが、彼を美しく見せた。彼が分霊箱の存在にようやく気づいたときには、もう命が残っていなかった。だからこそ、その涙の一滴に、読者はあれだけ胸を打たれるのかもしれません。

