毒父に育てられた子どもたち
前回までの記事で「毒父」と呼ばれるお父さんの特徴について紹介してきました。暴力、暴言、家族への支配、威圧(いあつ)など、子どもにとってはとても怖い存在ですよね
ところが、そうした毒父がいる家庭で育った子どもたちが、いったいどのような影響を受け、どんな特徴を持ちやすいかについては、あまり大きく語られないことがあります。でも、毒父の子どもたちは、見えない傷を抱えながら必死に生きていることが多いんです
「自分は大丈夫だよ」と思っていても
「いや、うちの父親はちょっと怖いけど、別に平気だし」と感じる子もいるかもしれません。でも実は無意識のうちに心や体にストレスがたまり、ふとした瞬間に「なんでこんなに苦しいんだろう」と思うこともあります。
この記事では毒父に育てられた子どもがどんなふうに感じ、どんな行動をとりがちなのかを掘り下げてみます。どれもが当てはまるわけではないけれど、「これ、自分にもあるかも」と少しでも思ったら、自分の心を守るための対策や相談先を見つけるきっかけにしてほしいです
毒父に育てられた子どもに多い特徴
ここでは、「毒父に育てられた子ども」によく見られる特徴をいくつか紹介します。もちろん、すべての子どもが同じようになるとは限りませんが、よく聞かれるケースをまとめました
自己肯定感がとても低い
- 「どうせ自分なんか…」が口ぐせになる
毎日のように父親から暴言を浴びせられたり「お前はダメだ」と否定され続けたりすると自分自身に自信が持てなくなるのは当然ですよね。やりたいことがあっても、「どうせ自分には無理だ」「自分なんてがんばっても意味ない」とあきらめやすくなります - 失敗が極端に怖くなる
毒父の子どもは、ちょっとしたミスや失敗でも大きく怒られてきたかもしれません。そのため何かにチャレンジするときも「失敗したらどうしよう」「怒られるのがこわい」という気持ちが強くなり、積極的に行動できなくなりがちです
父親の機嫌をうかがいすぎる
- “顔色を読む”のが上手すぎる
家の中がずっとピリピリしていて、お父さんの機嫌次第で怒鳴られたり暴力を振るわれたりしてきた子は、自然と「機嫌をうかがう」能力が身についてしまいます。いわば、生きるための術(すべ)として“空気を読む”ことにめちゃくちゃ敏感になるのです - 周囲の大人にもビクビクしやすい
そうした習慣から学校の先生やバイト先の上司など“権力”を持っている大人に対しても過剰(かじょう)に恐怖を感じる場合があります。「この人を怒らせたらどうしよう」と不安でいっぱいになり、本来の自分の意見を出せなくなってしまうんです
感情表現が苦手になる
- 泣くことや怒ることに罪悪感(ざいあくかん)を覚える
「うちの父親が怒るととんでもなく怖い」「父親の前では涙を見せると余計に怒られる」という状況だと自分の素直な感情を表に出すことが難しくなります。特に男の子の場合、「男は泣くな」と言われ続けると、気持ちが爆発する前にぐっと抑(おさ)え込むクセがついてしまうでしょう - 結果、爆発的に感情をぶつけてしまうことも
逆に我慢をため込みすぎた結果、学校で友だちにキレたり、些細(ささい)なことでイライラが爆発したりする子もいます。家では出せない感情が別の場所で一気にあふれ出してしまうんです
「大人なんて信用できない」と思いがち
- 父親による“裏切り”体験
お父さんだから、子どもを守ってくれるはずですよね。でも実際は暴言や暴力で子どもを追いつめる存在だった。そんな体験があると「大人なんて信用できない」という思いが根強く残ります。「大人に助けを求めてもどうせ無駄だ」という気持ちにもつながりやすいのです - 友だちや部活の先輩など、“身近な大人”にも疑いを抱く
自分が苦しいときに「どうせ言ってもわかってくれないだろう」と思ってしまうあまり人間関係を築くのが苦手になるケースもあります。周囲に頼れないままストレスを抱え込むと、どんどん孤立(こりつ)してしまうことがあるので注意が必要です
体の不調が出やすい
- 頭痛やお腹の痛み、めまいなどの症状
毒父の子どもは日常的に強いストレスにさらされているため、頭痛や腹痛、吐き気などの体調不良を抱えやすいといわれます。病院で検査しても「異常なし」と言われることが多いけれど、実は心のSOSが体に表れていることも少なくありません - 睡眠トラブル(夜眠れない、悪夢を見てしまう)
「父親の足音が聞こえると怖くて寝られない」「夜中に思い出してしまって苦しくなる」――こんなふうに不安で眠れなくなったり夢に父親が出てきてうなされる子どももいます。睡眠不足が続くと、次の日の学校生活にも影響が出てしまうでしょう
周りがうらやましくなる
- “普通”の家族が信じられない
友だちの家に遊びに行ったり、テレビやSNSで「仲の良い家族」を見ると、「こんな温かいお父さん、本当にいるの?」と不思議に思うことがあります。自分の家しか知らないからこそ、余計に“理想的な父子関係”が遠い世界の話に感じられるのです - 自分だけ置いていかれているような孤独感
まわりの友だちが「この前パパと出かけて楽しかった」とか「部活の試合をお父さんが見に来てくれた」と話しているのを聞くと「なんで自分はこんなに苦しいんだろう」と、強い孤独を感じることがあります。そうすると余計に「自分はおかしいのかな」と思い詰めてしまうんです
「父親のようにはなりたくない」と強く思うけれど…
- 将来への不安が大きい
毒父に育てられた子は自分が大人になったときに、「こんな父親になったらどうしよう」と怖くなることがあります。子どもを持つのが怖いという人もいますよね。でも、本当にそうなるとは限りません。むしろ、「嫌だ」と思う気持ちが強いほど、がんばって毒父とは違う接し方をしようとする人もいます - “反面教師”にできる子もいる
毒父の子どもの中には、「父親がこうだったから、逆に自分は子どもにはこんな思いをさせたくない」とポジティブにとらえてがんばる人もいます。いま苦しんでいるあなたも、いつか自分なりの方法で「負の連鎖(れんさ)」を断ち切ることができるかもしれません
親だけでなく自分自身を責めてしまう心理
毒父に育てられた子は、「お父さんを嫌いになるなんて、自分が悪いのかな?」と自分を責めてしまうことが多いです。
親を嫌うのは“悪いこと”だと思ってしまう
- 「親孝行しなければいけない」という社会的なイメージ
“親”というのは本来、子どもに優しく、守ってくれる存在だというイメージがありますよね。だからこそ「親がひどい」と思う自分に対して「自分がダメな子なんじゃないか」と感じる。これこそが、毒父の家で育つ子どもが陥(おちい)りがちな思考です - 父親の態度を正当化(せいとうか)しようとする
「きっとお父さんもつらいんだ」「仕事でストレスがあるからだよね」と、なんとか父親を悪く思わないようにする子どももいます。でも、そのせいで自分の感情は抑え込まれ、「自分がちょっと我慢すればうまくいくんだ」と思い込んでしまうのです
「自分がもっと頑張れば」と思い込みやすい
- 完璧主義に陥りがち
毒父のもとで育った子は「もっと勉強ができれば怒られないかも」「もっと家事を手伝えば父がイライラしないかも」と、自分を追い込む傾向があります。結果、完璧(かんぺき)主義になってしまい、少しでも失敗すると自分を責めるスパイラルにハマることがあります - 本当は父親の責任なのに、自分を悪者扱い
父親の態度が原因で家の雰囲気が最悪なのに、「自分がミスをしたから怒られたんだ」「自分がダメだから家族がギスギスしてるんだ」と思いがち。これは決して子どものせいではありません。それでもその思い込みから抜け出せず、どんどん自己肯定感が低くなるのです
大人になってからの影響
毒父の子どもは、中学生や高校生のときだけではなく、大人になってからも影響を受けることがあります。その主な例をいくつか紹介します。
対人関係が苦手になる
- 人の機嫌を恐れすぎる
職場の上司や同僚のちょっとした表情の変化を見て、「怒られてるのかも」「自分が何かまずいことをしたのかな」と過剰に心配しすぎるケースがあります。毒父の子は、「機嫌を損ねないためにはどうしたらいいか」を最優先に考える癖(くせ)が残ってしまうのです - 親しい間柄を作るのが怖い
父親との関係がうまくいかなかったせいで、身近な人に心を開くのが不安に感じることもあります。恋人や配偶者(はいぐうしゃ)との関係でも、素直に甘えたり頼ったりできずに「自分はどうせ理解されない」「愛されない」と思いこんでしまうことがあるのです
過剰なストレス耐性、またはストレス過敏
- ストレスに“慣れすぎる”タイプ
「これくらい当たり前」「自分はもっと大変なことを経験してきた」という思いで、体や心が悲鳴を上げているのに気づかないタイプです。無理をしすぎて突然メンタルが崩れてしまうこともあります - ちょっとしたことでパニックになるタイプ
逆に、少しのストレスでも「また怒られるかも…」「もうダメだ…」とパニックになってしまうタイプもいます。毒父の存在がトラウマ(心の傷)となり、緊張状態がいつまでたっても解けないのです
子育てへの不安
- 「自分も父親のようになるのでは?」という恐怖
先ほど触れましたが、毒父に育てられた子は、自分が親になることを怖がる場合が多いです。子どもを叱(しか)るときに、どうしても父親の口調を思い出してしまったり、「嫌だったはずなのに、同じような言葉が出てきた…」と自己嫌悪(じこけんお)に陥ることもあります。 - あえて結婚や出産を避ける
「自分の家族を作るなんて考えられない」「結婚しても大変そう」「子どもに苦しい思いはさせたくないから、子どもはいらない」と、最初から家族を持つことを避ける選択をする人もいます。それが悪いわけではありませんが、本当は欲しかった選択肢を自ら閉ざしてしまう場合もあるかもしれません
5. Q&A:毒父に育てられた子の悩み、よくある疑問
Q1. 「お父さんが嫌い」って口に出すの、やっぱりダメなのかな?
A. ダメではありません。親だからといって好きになる義務はないし、嫌いになるのはむしろ当然の感情です。あなたを苦しめる言動をしているなら、嫌だと思うのは当たり前。「親を嫌う自分を責める」必要はありませんよ。
Q2. 友だちや先生に「父親のことが怖い」と話すのが恥ずかしいです。
A. “家の恥(はじ)を外に出す”なんて言い方が昔はありましたが、家のことで苦しんでいるなら、むしろ周りの助けが必要です。言える相手が一人でもいれば心が軽くなるかもしれません。スクールカウンセラーなど、守秘義務(しゅひぎむ)のある専門家に相談するのも良い方法です。
Q3. 父親の性格を変えるにはどうしたらいい?
A. 正直にいうと、子どもだけの力で父親の性格を変えるのはとても難しいです。父親自身が「変わりたい」と思わない限り、なかなか変わらないからです。ただ、「お父さんの態度は普通じゃない」と自覚することは、あなたが自分を守るうえで重要な一歩です。家族以外の大人や相談機関に助けを求めるのも選択肢に入れてみてください。
Q4. 自分の中に怒りや悲しみがたくさんあってどうしようもないです。
A. その感情を出せる場所や手段を見つけるのが大切です。ノートやスマホのメモに書く、創作(そうさく)活動や運動で発散する、信頼できる人に話す…。毒父の子は、つい自分の感情を封印(ふういん)しがちですが、心の中にためこむともっと苦しくなるものです。少しずつでも外に向けて出せるように工夫してみましょう。
まとめ
毒父に育てられた子どもが抱える苦しみは、多岐(たき)にわたります。自己肯定感の低下、常に父親の機嫌を気にする緊張感、大人への不信感、体調不良……。しかも、それらは決して“甘え”ではなく、深刻なストレス反応と言えます。あなたが「つらい」と感じるのは、れっきとした理由があるからなんです
でも、そこで「もうどうしようもない」とあきらめる必要はありません。気づいたときこそが変われるチャンス。
- 自分を責めずに、まずは「苦しい」と認める
- できれば言葉にして、誰かに話してみる
- 安全を確保できる選択肢(相談機関、一時保護など)を知っておく
- 将来に向けて、毒父の行動を反面教師にできるよう学ぶ
あなたは一人ぼっちではありません。同じように苦しんでいる子や、かつて苦しんでいた大人たちもたくさんいます。みんなが自分の人生を取り戻すために、いろいろな選択や行動を起こしているんです
もし「もう限界…」というときは、どうか周りにSOSを出してみてください。学校の先生やカウンセラー、児童相談所、子どもホットラインなど、頼れる先は意外と多いんです。そこまでできないと感じるかもしれないけど、ほんの少しの勇気を出してみるだけでも、あなたの未来が変わる可能性があります
「毒父の子に育ったから、自分は一生ダメだ」なんて決めつけないでください。苦しんだ分、あなたはきっと優しくて強い心を持っているはず。大人になったとき、同じ苦しみを持つ人を助けたり、自分の子どもに絶対に同じ思いをさせないよう努力することだってできるかもしれません。あなたが自分自身を守り、笑顔で生きられるように一歩ずつ前に進んでほしいと心から願っています

