厨二病のマルフォイ視点でハリーポッター前編を語る、最後は?その後は?

厨二病のマルフォイがハリーポッター前編を語り、最後はどうなる?その後は?

──純血の誇りを抱いてホグワーツに降り立った僕の前に、”あいつ”が現れた。そしてすべてが狂いはじめた。

僕の名前はドラコ・マルフォイ。誇り高きマルフォイ家の後継者であり、魔法界の秩序と血筋を守る使命を生まれながらに背負っている。父上はルシウス・マルフォイ、魔法省に強い影響力を持ち、純血主義の正統を貫く男。僕はその背を見て育った。当然、ホグワーツでも僕は王のように振る舞うつもりだった──そう、「彼」と出会うまでは。

僕があいつに初めて出会ったのは、ホグワーツ行きの列車に乗る直前。マダム・マルキンの店で、ローブの試着中だった。あいつはただ黙っていた。喋らなかった。でもその黙り方が、気にくわなかった。まるで何も知らず、ただ流れに乗ってるだけのくせに、どこか「選ばれし者」みたいな雰囲気を出していた。僕は直感した──こいつは敵になる。

ホグワーツ特急の中で、僕は再びあいつに接近した。今度こそ自分の名を告げ、忠告してやったのだ。「間違ったやつとつるむな」と。そう、あれは善意だった。ワイズな忠言だった。僕と友になる機会を与えてやったのに、あいつは拒んだ。ハリー・ポッター──あの忌まわしき名前が、その瞬間、僕の中で「憎しみ」に変わった。

あいつが選ばれし者だって? 額に稲妻の傷があるから何だ? 闇の帝王に生き残ったからって何だ? そんな過去より、僕の「今」の方がよほど強いはずだ。僕には金があり、地位があり、忠実な取り巻きもいた。クラッブとゴイル。あいつには、赤毛の貧乏人と、本ばかり読んでる女の子。まるで僕に対する皮肉で構成されたような取り巻きじゃないか。

組分けでスリザリンに入ったとき、僕は確信した。ここが僕の王国だと。そこにあいつが来なかったのが、何よりの冒涜だった。グリフィンドール? 勇敢? 馬鹿の間違いじゃないのか。僕はスネイプ先生の信任を得て、授業でも優位に立ち、箒の腕前も見せつけてやった。だが、やはり奴はどこかで目立っていた。禁じられた森の罰則、空飛ぶ鍵、チェス、そして……あの「賢者の石」。

なぜだ。なぜ毎回、やつが「主役」になる?
僕は努力している。魔法も訓練も、純血の誇りもある。なのに、あいつは「何もしなくても選ばれる」。あの日、トロールが現れたときも、みんなが口々に言っていた。「ハリーが助けた」と。ふざけるな。僕だって逃げなかった。……いや、少し後ずさりはしたが、それは戦略的撤退だ。臆病じゃない。

年末のクィディッチ試合。僕は観客席からあいつを睨んでいた。飛び方も、受け止められ方も、すべてが「特別仕様」。まるでハリー・ポッターのためにホグワーツが存在しているかのように。僕が父にどんなに報告しても、「ほう、またポッターか」と興味すら持ってくれない。……悔しかった。認めたくなかった。でも、あいつが勝ち続ける姿に、僕は焦りと苛立ちを募らせていった。

何より許せなかったのは、ダンブルドアのあの所業だ。最後の寮杯争奪戦で、スリザリンが勝ったはずだった。勝っていた。誰がどう見ても、我々こそが真の勝者だった。なのに、最後の最後で、あいつらに点を加点して、グリフィンドールが勝利? それって……それって、ただのご都合じゃないか!

悔しかった。涙なんて見せられない。でも、あの瞬間、僕は拳を握りしめていた。あいつを倒さなきゃ、僕の物語が始まらない。そう思った。そう信じた。

だけど、ここで知っておくべきだったんだ。
──この戦いは、僕にとって「勝てない戦」だということを。

『秘密の部屋』:血と泥のプライドバトル

──僕はスリザリンの誇りだった。だが、”あいつ”はまたもや主役の座をかっさらった。僕の名誉も、僕の正義も、泥だらけにされて。

2年目のホグワーツ。僕は決意していた。昨年の敗北――寮杯での屈辱、あいつの「英雄扱い」――すべてを洗い流すべく、勝利への道を描いていた。僕こそが真のリーダー。僕の背後には誇り高きスリザリンがついている。クラッブとゴイルも健在だ。もちろん、知性で勝負する気はない。だが力と忠誠こそ、時に何よりの武器となる。そう、僕は知っていた。去年の僕とは違うと。

そして僕の人生は、さらに「光」に近づく。クィディッチのシーカーとして選ばれたのだ。それも、自前の最新型ニンバス2001――父が揃えてくれた、まさに王の乗騎。グリフィンドールのオンボロ箒どもなど、足元にも及ばない。僕はようやく「見せ場」を手に入れた。だが、そこでまた……あいつが現れるのだ。僕に嫉妬していたのは明らかだった。ロンの顔は真っ赤、ハーマイオニーは怒りに震え、ハリーは「沈黙」で対抗してきた。そう、やつは沈黙することで僕を挑発するタイプだ。……それが一番腹が立つんだ。

だが、事件は始まっていた。廊下に「血文字」が浮かび、猫が石になり、空気が凍った。誰もが囁いた――「秘密の部屋」。そして「継承者」という言葉。あのとき、僕はゾクリとした。もしかして……僕? そうだ。マルフォイ家こそ、スリザリンの正統。僕の中には、何か特別な血が流れている。ヴォルデモートではないが、何か「特別」な資格があるのでは? そう思った。信じたかった。つい、クラッブとゴイルの前で自慢げに言ってしまった。「穢れた血は許されない」と。でも、それは理想だったんだ。正義だったんだ。……間違いではなかった。

だがあいつら、あいつらは変身してまで僕を嗅ぎまわった。ポリジュース薬? ハーマイオニーの手口だな。全てはハリーの指示に違いない。あいつは何でもやる。自分が正義だと思って疑わない。泥臭い、正義のふりをした「主役」。彼らは僕の発言を録音するように、慎重に聞き取り、僕の父や家族を笑いものにする証拠を探していた。最低だ。僕を「悪」と決めつけて遊んでいる。ならば、僕も応じよう。「悪役」として、全力で戦ってやる。

そして決闘クラブ。あれこそ、僕のリベンジの舞台になるはずだった。見せてやろう、僕の力を、僕の存在感を――と思った矢先、あいつは蛇を呼んだ。蛇語? なんだそれは。まるで禁じられた力、古代の闇。全員が凍り付いた。僕も、最初は驚いた。だが、次の瞬間、気づいたんだ。そうか――「秘密の部屋の継承者」って、ハリーじゃないか? そう囁いたら、みんなが頷いた。見たか? あいつは喋ってたぞ。蛇と。間違いない、あいつだ。

だがまたも、あいつは英雄になった。ハーマイオニーが襲われ、ロンは狼狽し、あいつは独りで謎を追った。そして、解決した。バジリスク? 日記? 僕が何も知らぬ間に、彼は再び「伝説」を上書きしていた。誰も知らない場所で、誰も証明できぬ中で、また「やった」と称えられていた。ふざけるな。僕はここにいる。見せ場もあった。努力もした。だが、僕の物語は常に「脇役」扱いされる。なぜだ。なぜ僕は、選ばれない。

父はホグワーツに多大な寄付をしている。権力もある。だが、ハリーの一挙手一投足には誰も敵わない。あいつが「光」なら、僕は「影」。それでも、僕は引き下がらない。何度でも戦う。あいつの隙を突いて、いつか「僕」が主役になる日まで、剣を研ぎ続ける。

でも──少し、疲れていた。
何をやっても勝てない自分に、傷ついていた。
あいつが羨ましくて、悔しくて、壊れそうだった。

『アズカバンの囚人』:貴族の憤怒と、狼の恐怖

──この年、僕は誓った。「あいつ」を黙らせると。だけど牙をむいたのは、あいつではなかった。あの”獣”だった。僕は初めて、本物の恐怖というものを知ることになる。

僕は、今でもあの瞬間を覚えている。
ホグワーツ特急が、急に止まったあの時。車内に入り込んできた「何か」。空気が冷え、世界が黒く染まり、背筋が凍った。僕は凍り付いた。クラッブもゴイルも動けなかった。あの感覚……あれが、アズカバンの番人、ディメンターだったという。僕は動けなかった。いや、あいつも、動けてなかったはずだ。なのに、なんだ? あのルーピンとかいう教師が、ハリーを優しく抱え、「よくやったね」みたいな目を向けた。僕の恐怖は「滑稽」だったのか? 許せなかった。認めたくなかった。……だから、僕は笑うしかなかったんだ。

新学期が始まった。世間は騒いでいた。「シリウス・ブラックが脱獄した」「あいつを狙っている」──まるで、またもやハリーが世界の中心であるかのような騒ぎだった。なぜいつも、奴の周りには騒動が舞い降りる? いや違う。奴が騒動を引き寄せてるんだ。そして僕は、またもや「見物人」になるのか?

違う。今年は違う。僕は戦う。奴を「言葉」で倒す。僕は機転で、毒舌で、スリザリンの名に恥じぬ策略で奴を追い詰める。それが、この年の僕の戦い方だった。

クィディッチの試合前、僕は挑発した。奴の親は死んだ。惨めに。名もなき過去に消えた。……言ってはいけない一線を、僕は踏み越えた。でも、そうでもしないと、「届かなかった」んだ。何をやっても、僕は奴に勝てない。箒に乗っても、呪文を撃っても、言葉で刺しても、最後は観客が拍手するのは「ハリー」だった。くやしかった。そんな自分が惨めだった。

クィディッチ中に、あの忌々しいディメンターが降ってきた。奴は箒から落ちた。僕は笑った。心の底から。初めて奴が「無様」に見えた。だが、それも束の間。あいつは復活し、再び勝利する。あの名馬「ファイアボルト」に乗って。僕は見ていた、グリフィンドールの勝利に湧く歓声の渦を。僕の胸の中には、もう何もなかった。ただ空っぽの、虚しさだけ。

そして事件は進んだ。バクビーク──あの「獣」が、僕の腕を傷つけた。みんなは言う。「大げさだ」と。「演技だろ」と。違う。確かに痛みは誇張したかもしれない。でも、あの時感じた恐怖は本物だった。あの牙、あの爪、あの瞬間の重さ。命を賭して僕は叫んだ。「父上に言いつけてやる!」それしか僕には、なかった。父は動いた。処刑の命令が下った。僕はようやく、「勝った」と思った。だが……また、奴らは奪っていった。

奴らはバクビークを救い、時間さえ巻き戻してやり直した。時間だぞ!? そんな反則が許されるのか? どこまで奴は「特別扱い」されるのか!? 時空を超えて「勝つ」など、もはや物語の主人公の特権でしかない。そう思ったら、心が折れた。僕の「現実」は、彼の「物語」に飲み込まれていく。

それでも、僕は退かなかった。必死に周囲に嘘を吹き込み、事実を塗り替え、彼らを「怪物」に仕立てた。そうでもしないと、僕の「存在意義」が消えてしまうから。僕がスリザリンの王子であるためには、「ハリー」という光を否定し続ける必要があった。そうしないと、僕はただの「凡庸な少年」になってしまうから。

だが――最後に現れたのは、ブラック本人だった。あいつの名を語り、親友たちの裏切りを暴き、真実を語る……そこに立っていたのは、「大人」たちだった。僕は、また子供だった。知らされない、見せてもらえない、話にも加われない。闇の話は、あいつと、その周辺の「選ばれし血筋」だけが共有する物語。僕はその輪にいなかった。悔しいより、虚しかった。

僕はこの年、知ったんだ。
「力」では勝てない。
「策略」でも届かない。
あいつは「物語」に愛されてる。

じゃあ僕は、どうすればいい?
次の手段は……忠誠か。
本当に、そこしか残っていないのか?

この時、僕の心の中で、ある種の「諦め」が生まれていた。勝てないなら、違う「道」を選ぶしかない――そう思ったんだ。

『炎のゴブレット』:選ばれなかった者の絶望と焦燥

──世界が彼に火を灯したとき、僕はただ、その焔の外にいた。あの聖なる炎に選ばれなかったこと、それが僕の人生を決定づけた。

僕は、今年こそ主役になると信じていた。
3年連続で「負け続けた」なんて認めたくないけど、事実だ。
あいつはいつも、どこかで脚光を浴び、僕はその横で指を噛んでいる。だけど今回は違う──トライウィザード・トーナメント。三大魔法学校の魔法の精鋭たちが競い合う夢の祭典。これだ。これこそが僕の「逆転劇」の舞台。スリザリンの名をホグワーツ全土に轟かせるチャンス。僕はそう信じていた。

だから、名前を入れようとした。
本気だった。
炎のゴブレットに、自分の名前を書いた紙を差し出そうとしたその瞬間、年齢制限のバリアが僕の前に立ちはだかった。
はじかれた。
問答無用だった。
何をどう頑張っても、僕は「出場資格すら持たない」存在だったんだ。

でも、それならそれで、誰が選ばれるのかを見届けようと決めた。僕じゃなくても、せめてスリザリンの誰か、誇り高き血統の誰かが選ばれてほしい──そう思っていた。

ところが、その名前が出た瞬間、僕の中の何かが焼き切れた。
あいつの名前が、第二の代表として読み上げられたのだ。
──ハリー・ポッター。

何なんだよ、それは。
何でまた、お前なんだよ。
規定人数を超えて、しかも未成年で。前代未聞の「特別扱い」。

校内はざわついた。生徒も教師も、誰もが疑った。最初は、僕だけじゃなかった。全員が「これは不正だ」と叫んだ。でも、あいつが「やってない」と口にしただけで、周囲の空気は変わった。皆、彼を信じ始めた。いつの間にか、主役の座が「当然のもの」として彼に用意されていた。僕は……違った。

僕は違った。僕だけは、絶対に許さなかった。
信じなかった。認めなかった。
だから僕は、「バッジ」を作った。
──“Potter Stinks”
あれはただのジョークじゃない。叫びだった。悲鳴だった。
「俺を見ろ」という、無様なまでの嫉妬と焦りの塊だった。

なのに彼は、そのバッジすら笑い飛ばした。
しかもセドリック・ディゴリー。ハッフルパフの英雄と共に、あいつは大会に臨んだ。
タスク一:ドラゴン。
タスク二:水中の試練。
タスク三:迷路。

どれもが、命がけ。
でもあいつは生き延びた。勝ち抜いた。称賛された。
僕はその間、何をしていた? 見ていただけだ。
笑っているふりをして、陰口を叩いて、憎まれ役を演じて、
でも本当はずっと──泣きたかった。

セドリックが死んだ夜、僕は震えた。
誰かが死んだんだ。本当に死んだんだ。
でもその時も、英雄になったのはやっぱり、あいつだった。
誰も彼を責めなかった。
誰も疑わなかった。
あの夜、彼が泣いたかどうか、僕は知らない。だけど、僕は泣けなかった。
涙を流す権利すら、与えられていなかった気がした。

次の日から、空気が変わった。
ヴォルデモートの復活。信じる者、信じない者。僕の父は言った。「ポッターの妄言に付き合うな」。
僕も、そう言った。言わされた。
でも、心の奥底で──たぶん、僕は知ってた。
「もう、戻れない」と。

何が正義で、何が嘘で、何が真実なのか、もう分からない。
ただ一つ確かなのは、僕は、また「選ばれなかった」ってことだけ。
あの炎のゴブレットは、僕の名を受け取らなかった。
そして、それこそが──僕の存在のすべてを否定する「象徴」になった。

何をしても届かない。
名前を叫んでも、バッジを配っても、相手にされない。
それでも僕は叫び続ける。
僕はここにいる、と。
この世界で、確かに生きている、と。

だけど、世界は答えない。
主役はいつも、「あいつ」だけだった。

『不死鳥の騎士団』:マルフォイの怒りと、あいつの軍団

──あいつが声を上げたとき、皆がついていった。僕が声を上げたとき、誰も振り向かなかった。その差こそが、この世界の「真理」だった。

僕はこの年、「限界」を知った。
怒りにも限界がある。悔しさにも、叫びにも、虚勢にも、限界がある。
何をどう足掻いても超えられない「壁」が、世界にはあるのだと。
それが、ハリー・ポッターだった。

ホグワーツ五年目。
最初から異常だった。
あいつが──ハリーが──新聞で「嘘つき」と書かれ、世間の冷笑と不信に晒されていた。
僕は、心底、嬉しかった。
いや、もはや嬉しいという感情を超えていた。
「ようやく神が裁いた」
そうすら思った。
今までどれだけ、奴が主役だった?
どれだけ僕が、その影にいた?
英雄、選ばれし子、ホグワーツの奇跡……どれもこれも奴にばかり与えられ、
僕には常に「引き立て役」としてのポジションしか残されていなかった。

そして今。
あいつは嘘つき。妄想家。精神不安定。
新聞も世論も、それを断罪している。
父も喜んだ。「やはりポッターはガキだった」と。
僕は頷いた。僕の時代が来ると信じていた。

だけど──あいつは、沈まなかった。

ダンブルドアが無視されようが、校長を降ろされようが、あいつは「戦って」いた。
いや、正確に言えば、「自分だけの軍団」を作っていた。
D.A.──ダンブルドア軍団?
ふざけるな。教師でもないガキどもが秘密裏に魔法を教え合う?
規則違反も甚だしい。秩序の破壊。校内統制の脅威だ。
……そう言いながら、僕は本気で怯えていた。
何よりも恐ろしかったのは、あいつの言葉に人が集まったこと。
ロンも、ハーマイオニーも、ルーナも、ネビルすらも。
皆が「ハリーの話を信じて」動いていた。
どうしてだ。
どうして、僕には誰もついてこない?
僕だって叫んでいた。「あれは嘘だ」と。「冷静になれ」と。
でも誰も、僕の言葉には耳を貸さなかった。
クラッブもゴイルも、ただ「うん」と頷くだけで、自分の意志では何も動かなかった。

僕は何度も訴えた。アンブリッジ先生に密告もした。
でも、全てが「あいつを追い詰める」というより、「僕がみっともなく告げ口している」ようにしか見えなかった。
……なぜだ。
僕が正しいことをしているのに、なぜ世界は嘲笑する?

やがて、あいつは戦った。
省庁での戦い。死喰い人たちとの本物の戦争。
僕の父、ルシウス・マルフォイもそこにいた。
……捕まった。

新聞は「マルフォイ家」を晒し者にした。
あの誇り高き家名が、瓦礫のように崩れ落ちた。
父の顔が、手錠をかけられた姿で世に晒された。
僕は叫んだ。「嘘だ」と。
でも誰も信じなかった。
父の罪状は「明確」だった。
あいつの言葉は「真実」だった。
そしてまたしても、あいつが「世界を救った」ことになった。

僕はもう、怒る気力もなかった。
「次は俺の番だ」
──その言葉も、空っぽだった。
僕の腕には、まだ何も刻まれていなかったが、心には既に「敗北の烙印」が刻まれていた。

僕はこの年、決定的に理解した。
僕とあいつは、同じ土俵にすら立てていなかった。
あいつは戦う。信じて、仲間と立ち上がる。
僕は……独りだった。

誰もが彼に耳を傾ける世界で、僕の声は虚空に消えていった。
クラッブも、ゴイルも、僕の内面に触れようとはしない。
スリザリンの生徒すら、僕の背中を冷めた目で見ていた。
彼らは言う。「アンブリッジに媚びるな」「密告は美徳ではない」と。
僕は命令された通りに動いていただけなのに。
ただ「正しいこと」をしたかっただけなのに。

何もかもが裏目に出た。
何をしても、主役にはなれなかった。

そして僕の心は、ある決意に傾いていく。
そう。
僕が世界の中心になれないなら、
──せめて「敵の中心」になろうと。

それが、あの「印」に繋がる。
次の年、僕はようやく「選ばれた」。
でもそれは、決して栄光の選抜ではなかった。

それは、魂の売却だった。
そして、その代償は──命そのものだった。

『謎のプリンス』:マルフォイに課された、選ばれざる使命

──勝ちたかったんじゃない。救いたかった。家族も、自分も、名誉も、誇りも──だけどそのすべてが、手のひらからこぼれ落ちていった。

選ばれた。
とうとう僕も、「選ばれた」んだ。

ヴォルデモート卿のご命令。
それは、僕にとって待ち望んだ「承認」だったはずだった。

今までの人生、僕は常にハリー・ポッターの「影」だった。
どれだけ努力しても、どれだけ呪文を磨いても、
父の名を振りかざしても、世界は僕を認めてくれなかった。

でも、この任務は違う。
ホグワーツへの潜入工作、姿を隠すキャビネットの修復、
そして──アルバス・ダンブルドアの「命」を奪うこと。

……重すぎる。
正直に言おう。
最初に命令を受けたとき、僕は震えていた。
でも、それでも僕は「拒まなかった」。
いや、拒めなかった。

なぜなら、それは「僕がやらなければ、家族が終わる」からだった。

父はアズカバン。
母は常に怯え、部屋の奥で泣いていた。
マルフォイ家の屋敷は、今や死喰い人の溜まり場になり、
僕たちの「純血の誇り」は、ただの「道具」に変わっていた。

僕は、戦いの中に放り込まれた。
何の準備もなく。
誰の支えもなく。
父から受けた魔法の訓練は、勝つためのものだったはずなのに、
今や僕は「生き残るために殺すこと」を強要されていた。

ホグワーツに戻った僕は、もう以前の僕じゃなかった。
取り巻きと馬鹿騒ぎをする暇はなかった。
僕は「任務」のためだけに動いていた。
秘密裏に動き、誰にも本心を話さず、
キャビネットを修復するために、無数の呪文と実験を繰り返した。

でも──誰にもバレないように振る舞うのが、何より辛かった。

何度、涙を堪えたか分からない。
呪文の途中で手が震えたこともある。
キャビネットが壊れたままの夜、僕はひとりで吐いた。
誰かに助けを求めたかった。
でも、頼れる人はいなかった。

スネイプが声をかけてきたときでさえ、僕は拒んだ。
信用できなかった。
彼は、ヴォルデモートに忠誠を誓い、同時にダンブルドアにも取り入っていた。
つまり「僕とは違う」。
僕には、両方に忠誠を誓う余裕なんてなかった。
僕はただ、家族を救うことしか考えていなかった。
そのために、誰かを「殺す」必要があるなら──僕は、やるしかなかった。

それでも心は、ずっと壊れていた。
ポッターは、また僕の前に立ちはだかった。
「何か隠してる」と詮索し、尾行し、監視し、
あげくの果てには、列車の中で僕を罠に嵌め、
僕は躊躇なくあいつを石化させた。
迷いはなかった。怒りもあった。
でも、虚しさの方が大きかった。

僕は「勝っても」、誰も褒めてくれない。
「殺しても」、ただ悪として処分されるだけ。
光など、どこにもなかった。

そして──あの日が来た。

キャビネットが、ついに開通した。
死喰い人たちが、ホグワーツに侵入した。
僕は、塔の上で、ダンブルドアと対峙した。

僕の杖は震えていた。
僕は、やると決めていた。
でも、どうしても、手が動かなかった。
あの老人は、ただ僕の目を見ていた。
「殺せ」とも、「やめろ」とも言わず、
ただ、僕の魂の奥を覗くような目をしていた。

そのとき、僕は全てを悟った。

「僕は、殺せない」
そう、自分に言い聞かせた瞬間、
スネイプが現れ、呪文を放った。

ダンブルドアは、死んだ。
そして僕は、何もしていないのに──
「殺人者」として逃げることになった。

あの夜、僕はすべてを失った。
仲間も、母校も、希望も。
僕は任務を全うできなかった。
それでも生き延びた。
──それが、何よりの「罪」だった。

僕はこの年、命令を果たせなかった。
でも同時に、「人であること」を捨てずに済んだ。
その代償は大きかった。
あいつ──ハリー・ポッターは、また全てを失い、また立ち上がった。
僕は何もせず、ただ逃げただけだった。

それでも、死喰い人として、僕は「敵」として扱われる。
それが、僕の運命だった。

『死の秘宝』:マルフォイの敗北と、生き延びるという罪

──誰かを殺すこともできず、誰かを救うこともできず、僕はただ命を拾った。だからこそ、それは「敗北」だった。命とは、こんなにも重く、苦しく、恥ずかしいものだったのか。

マルフォイ邸が、牢獄になった。

あの屋敷は、かつて社交の中心だった。
純血の名家としての威光と格式、重厚なカーテンと魔力を帯びた装飾品に彩られた廊下。
父が「完璧」と称した応接室は、いまや叫び声と血の匂いに満ちていた。

「客人」たち──いや、死喰い人たちは、僕の家を本拠地とし、
母を「女主人」ではなく「道具」として扱った。
父は黙り、目を伏せ、かつての誇りなど一欠片も見せなくなった。

僕は、座る場所をなくした。

僕の部屋には誰かが寝泊まりし、僕の机は書類で埋め尽くされ、
僕の存在は「邪魔な家具」だった。

あの事件──ダンブルドア殺害未遂以降、
僕は完全に信用を失っていた。
任務を果たせなかった少年として、
見張られ、侮られ、罵られながら、ただ黙って頭を垂れていた。

そしてある日、「あいつ」が連れてこられた。
ポッターが、ロンが、ハーマイオニーが、
ボロボロの状態で、マルフォイ邸の床に転がされた。

僕の胸は一瞬、激しく脈打った。
憎しみか? それとも、安堵か?
分からなかった。

ベラトリックスは叫んだ。
「これは、ポッターか?」
「マルフォイ、お前が確認しろ!」

僕は、見た。
ハリー・ポッターの顔を。

だけど、僕は「見えなかった」と言った。
──見えなかった。
違う。
「見ようとしなかった」。

僕が「はい、彼です」と言っていれば、
ハリー・ポッターはその場で殺されていただろう。
全てが終わっていた。

でも僕は、
その瞬間、
心の底でこう叫んでいた。

──「お願いだ。誰か、生きていてくれ」

殺すことに怯えていたんじゃない。
殺したあとの「世界の空気」が怖かった。
僕はもう、これ以上「何か」を失いたくなかったんだ。

そして彼らは脱出した。
屋敷は破壊され、我が家の誇りもまた一層剥がれ落ちた。

誰もが僕を責めた。
父は沈黙し、母はただ肩を抱いてくれた。
ベラは怒鳴り、死喰い人たちは冷笑し、
ヴォルデモートは、無言の圧力で僕を押し潰した。

そして、あの戦いの日──ホグワーツの最終決戦。

僕はスリザリンの仲間と共に脱出命令を受けた。
だが、僕は引き返した。
……理由は、いまでも分からない。

あいつを追った。
ハリー・ポッターを。

それは復讐だったのか?
それとも、確認したかっただけか?
──「なぜ、お前は何度も立ち上がれるんだ?」

戦火の中、僕は叫び、逃げ、転び、
ついに「炎」の中でクラッブを失った。

僕は初めて、「自分が戦っていなかった」ことに気づいた。
あいつは戦っていた。
死を恐れず、仲間を信じ、先へ進んでいた。
僕はただ、与えられた役をなぞっていただけだった。

そして戦いは終わった。
ヴォルデモートは死に、世界は平和を取り戻した。

あいつは英雄になった。
皆が彼の勝利を讃えた。

僕は──「何もしなかった者」として、
ただ、生き延びた。

その後の人生で、誰も僕を責めなかった。
でも、僕は「赦されなかった」。

自分で、自分を。

屋敷に戻った日、父は僕の目を見なかった。
母は微笑んだが、その微笑みの裏に、深い悲しみが見えた。

「あなたが生きていてよかった」と彼女は言った。
でも、僕には分からなかった。
本当にそれが、よかったことだったのか。

僕は生き延びた。
だがその代わり、何も手に入れなかった。
仲間も、誇りも、栄光も。

「死ぬこと」より、「生き残ること」の方が、
こんなにも、重い罰になるとは思わなかった。

でも、ひとつだけ救いがあるとすれば──
ハリーは、僕を殺さなかった。

それが、すべてだ。

マルフォイその後

──すべてが終わった。敗北も、怒りも、嫉妬も。それでも僕の中には、まだ確かにあの名前が残っている。彼のことを思い出さない日は、ひとつもなかった。

19年。
それは、僕にとって「逃げた年月」だった。

ホグワーツを去ったあの日、
僕は未来に希望を持っていなかった。
あの戦いで、誰かを救ったわけでも、守ったわけでもない。
ただ「生き延びた」だけの男として、
僕はあのまま、物語の幕の外へ消えていくはずだった。

でも、世界は終わらなかった。
太陽は昇り、人々は笑い、未来は歩き出した。

僕も──生きた。

アストリアと結婚した。
彼女は、僕のような「何者にもなれなかった者」の痛みを知っていた。
彼女もまた、傷つきながら生きてきた人間だった。
だからこそ、僕たちは「語らずとも分かり合えた」。

スコーピウスが生まれた日、
僕は震えていた。
父親になるということが、どういう意味を持つのか、分かっていなかった。

「マルフォイの名」を背負って生きてきた僕は、
自分の子どもに何を背負わせてしまうのだろう。
そんな不安が胸を押し潰しそうだった。

だが、スコーピウスは、穏やかな子だった。
僕のように強がらず、虚勢も張らず、
誰に対しても優しい目を向ける子だった。

──僕が、なりたかった「理想の人間」が、そこにいた。

父としての人生は、僕に「贖罪」の機会をくれた。
誰も裁かなかったが、僕は僕を赦せなかった。
だからこそ、子どもを育てることだけが、
僕に残された「正しい選択」だった。

その日、キングズ・クロス駅のホームに立ったとき、
僕は一人の「影」を見た。

──ハリー・ポッター。

彼も、子どもを連れていた。
グリフィンドールの赤を身にまとい、あの頃と変わらない背中で、
新たな世代を送り出そうとしていた。

……なぜか、笑えてしまった。

あいつはまだ、あの頃の「英雄」のままだ。
だけど、背中には歳月が刻まれていた。
何人もの命を背負い、世界を救い、
そして、今は「父」としてそこに立っている。

僕は、ふと──
彼と目が合った。

あの目は、僕を裁いてはいなかった。
拒絶してもいなかった。
むしろ、「懐かしさ」すら湛えていた。

そして、僕は──
静かに、うなずいた。

それは「和解」ではなかった。
「感謝」でもない。
ただ、「理解」だった。

あの頃、僕は間違っていた。
でも、それでも「戦っていた」ことだけは、嘘じゃなかった。

だからこそ、僕は言葉にしない形で、あいつに伝えた。

──お前は、よくやった。

そして、僕はスコーピウスに微笑んだ。
「行ってこい」と、肩を押した。

彼が汽車に乗り込むのを見届けながら、
僕は思った。

もう、僕は「過去」に囚われなくていいのだと。