すべては「愛」だった──スネイプの心から見た『ハリー・ポッター』
スネイプは「いい人」じゃない。善人でも、優しいでも、誠実でもないかもしれない。
だが、彼は「人生を全て誰かのために投げ打った」唯一の存在だ。
誰も気づかない場所で戦い続けた、絶望と怒りと赦しと愛のすべてを背負った、最も痛ましく、最も美しい人物──それが、セブルス・スネイプだった。
「Always」その言葉が、どれだけの涙を吸っていたか。
彼を愛さずにいられるだろうか。
『賢者の石』──あの瞳が再び現れた日
誰も理解などしなかったし、されるとも思っていなかった。
私はただ、最初の年、あの子が門をくぐったその瞬間から――全てを思い出してしまったのだ。
リリー。
君の目だ。
あの少年の中に宿っていたのは、君が最後まで守ろうとした、あのまっすぐで優しい、そしてどこか脆さすら漂う、あの“まなざし”だった。私が何度見つめても、決して応えられなかったあの視線が、11年の時を経て、忌まわしい名の下に蘇った。
“ハリー・ポッター”などという名前を、私は受け入れたことがない。
彼の中に流れている血は、私が人生のすべてをかけて否定したあの男の血――ジェームズ・ポッターの傲慢、浅はかさ、そして強引な力。それが顔面のすべてに濃厚に焼き付いていた。見るだけで吐き気がした。私が憎んだすべてが、あの子の姿にはあった。
だが同時に、リリーの目がそこにあった。
それが私を地獄へ突き落とした。
どちらか一方だけであれば、私はまだ容易く拒絶できた。だが、ジェームズの顔に、リリーの瞳が宿る。それが、スネイプという人間をもっとも激しく、もっとも深く裂いた事実だった。私は許せなかった。ジェームズが彼女の命を弄び、結果として彼女を死に追いやったにもかかわらず――その子どもが、この世で讃えられながら歩いていることが。
それでも、私は彼を守らねばならなかった。
誰も知らぬ。いや、知ってはならぬのだ。
あの少年を守ること、それが私の“生きる義務”になったあの日から、私の人生は完全に反転した。死喰い人としての罪、リリーを裏切った過去、そのすべての贖いとして、私はこの任を受け入れた。
それなのに、ハリー・ポッターは私を睨む。私の授業に怯える。私の忠告を無視する。
いいだろう、そうでなければならぬのだ。あの子が私を信じる理由など、あってはならぬ。私の本当の意図を知れば、少年の心は余計に惑う。あの子には、私を“敵”と思わせておくことこそ最善だった。
だから私は、嘲笑を浴びる“厳しいポーション教師”を演じ続けた。
常に冷たく、容赦なく、偏見に満ちた指導者を演じた。
あの少年が真実に近づかぬよう、私という壁を作り、そこに“怒り”を投影させるように。
そしてその陰で、私は彼の身に忍び寄る危機を全て観察し、封じ、操作した。
たとえば、あの飛行訓練のとき。クィレルの呪詛が発動したとき、私はすでに呪文を逆流させるべく、カウンターを唱えていた。だが、あの忌々しいグリフィンドールの少女――ハーマイオニーが、私のマントに火をつけたせいで、妨害された。仕方ない。結果的に事故は防がれた。
無知な者たちは、私を“邪魔者”と決めつけたが、それでも構わなかった。
あの子さえ無事でいれば、それでいい。
私は、石の秘密に近づく者たちを遠ざけるため、授業中に幾度も牽制を行った。
怪我をしたトロールの傷跡が、誰の仕業かなど、最初から察していた。クィレル。優しげな顔の裏に潜む、恐怖に支配された操り人形。彼が暗黒の主の残影を宿していることは、私にしか分からなかったかもしれない。
だが、誰も私の警告に耳を貸さなかった。
ダンブルドアは常に私の“憎悪”を冷静に処理し、あの子の自由を最優先した。
それでも私は、石の保護に加わり、最奥の試練に“知識”の課題を設定した。
剣や力ではなく、論理を通過せねば越えられぬように。
それは、ジェームズのような蛮勇では決して進めぬようにするための、私なりの“フィルター”だったのだ。
結局、ハリーは通り抜けた。
フィレンツェの助け、ロンの犠牲、ハーマイオニーの才知――そしてハリー自身の“愛”の盾。
彼は、リリーの血の魔法に守られていた。
それを初めて知った瞬間、私はしばらく身動きができなかった。
“リリーは、死んでもなお、あの子を守っている”――それを認識したとき、私は生まれて初めて「ジェームズの遺伝子を羨ましい」と思った。
どれほど私が彼女を思っても、彼女の魔法は、あの少年を守ったのだ。
私ではなかった。
そして、学期末。
ダンブルドアは、あの子に点数を与えた。最後に“最も勇気ある者”として評価されたのは、なんとあのロングボトムだった。
あれには、私も苦笑せざるを得なかった。
だがそれで良かったのだ。英雄としてのハリーではなく、名もなき生徒の“友を止める勇気”を讃えたことが、あの年の結末を優しく包んだ。
私は、その構図の中で、ただ一人、誰からも称賛されない場所に立ち続けていた。
称えられなくていい。
理解されなくていい。
ただ、ハリー・ポッターが生き延びれば、それでいい。
それが、私に課された贖罪の“初年度”だったのだから。
『秘密の部屋』──見て見ぬふりの天才どもと、また一人で泥を啜る私
言っておこう。
この年、私は改めて「この学校の教師陣の選定基準は狂っている」と確信した。
校長は老いたが賢い、だがその下に控える人材は、どれもこれも「何かを教える」よりも「問題を引き起こす」方が得意な者ばかりだ。とくにこの年の“闇の魔術に対する防衛術”担当などは、歴代最低記録の看板を見事に塗り替えてみせた。
ギルデロイ・ロックハート――。
あの金髪をなびかせて歩く凡庸な詐欺師に、私は毎日「よく人前に出てこれるな」と感嘆していた。いや、呆れていた。いや、軽蔑していた。
しかし世間とは面白いもので、**“嘘が華やかなら真実より拍手を得る”**という醜悪な法則のもと、彼は教員就任早々からサイン攻めに遭い、同僚の中でも群を抜いて注目を浴びていた。忌々しい。
私は校長に進言した。
「闇の魔術から生徒を守るべき立場にある者が、己の名声しか守っていない」と。
だがダンブルドアは「経験として学ばせるのも教育だ」と薄く笑うのみ。いや、校長、“教育”とは“失敗例の見本市”ではないはずだが?
◆バジリスク? ああ、どうせまた誰かが死にかけるんだろう
本題に入ろう。
その年、学校で相次いで発生した“石化事件”――私は当然のように、その中心にあの子がいることを早い段階で察していた。
ハリー・ポッター。
見事なまでに“問題の中心にいる星”の下に生まれついた少年。
トロールの年には偶然助け、今年は蛇語を披露して関係者扱い。
しかも、本人は全く理解していないのだ。「自分が“選ばれている”という事実を」。
蛇と話せる?なるほど、普通ならそれだけで十分に警戒対象だ。だが、彼は生徒たちから距離を置かれることに困惑していた。“蛇と話せる”=“闇の側の証”という基本的な感覚さえ、彼にはなかった。彼は自分を「善」だと信じていた。無垢な、都合のいい“選ばれし者”だった。
◆記憶にございません、とロックハートは言うだろう
問題の本質は、誰が扉を開いたかではない。
問題は、「こんな事件が再発するほど、ホグワーツが隙だらけだ」ということに尽きる。
当時、生徒の間では“スリザリンの継承者”なる人物が囁かれていた。
そして当然、疑われるのは“スリザリン生”であり、“その寮の責任者”でもある私だった。
いやはや、素晴らしい構図だな。学校が危険に陥るたび、私はいつも“濃い目の容疑者”扱いされる。
この役回りには慣れたが、もはや私自身が“呪われた役職”なのではないかと錯覚させられるレベルだ。
だが、いいか? 私は何度も言っている。
私は“スリザリンの血”を持たない。いや、望んだとしても持てはしない。
それに、あの怪物――バジリスク――を意のままに操れるなど、あってはならぬ幻想だ。
リリーの死を経て、私が再び“殺しの側”に立つわけがない。
◆あの子が語らぬ痛みに、私は黙って背を向けた
さて――この年もまた、私は“憎まれ役”として見事にその機能を果たしていた。
ポッターの小隊は、またしても学校のあちこちに首を突っ込んでは怪我をして戻ってきた。
ロックハートは何をしていたか? “巻き貝で記憶を飛ばす方法”を女子生徒に披露していた。吐き気がする。
そしてハーマイオニーが石化されたとき、ハリーの目は静かに怒りに震えていた。
あの少年は、あの少女を“守れなかった”ことに心を砕かれていた。
私は思った。「彼は本当に、リリーに似てきたな」と。
守ることの重みを、初めて理解したのだろう。
だからこそ、私は薬草学の温室に足を運び、マンドレイクの成熟具合を自分の目で確かめ続けた。スプラウトが優秀であることは承知していたが、油断は禁物だった。生徒の命がかかっている。
誰が「スネイプが植物の世話をする」と思うだろうか?
誰が、私が“ハーマイオニー・グレンジャーの命を守るために夜遅くまで根の育成を確認していた”などと、想像するだろう?
いいのだ。知られなくて。
だが、その分だけ、私は彼らの“救いの場面”からも距離を取らねばならなかった。
◆ドビーは自由になったが、私は未だ囚われたままだ
最終的に、この年の真相は明らかになる。
日記帳。分霊箱。リドルの記憶。蛇。バジリスク。そして、ハリー・ポッターの“生存”。
彼はまたしても生き延びた。いや、殺すことが目的だったわけではない。
だが、それでも“死にそうな場面”が次から次へと降りかかる様は、もはや何かしらの“呪い”がこの少年に降りかかっているとしか思えなかった。
ドラコは彼を憎んでいた。ジニーは魂を抜かれて倒れていた。ロンは弟のように怯えていた。
そして私は、再び“すべてを見通していたが、何も表には出せなかった”役目を演じ切っていた。
そして、終わった。
誰もが笑顔で新学期を迎える準備を始める中、私はひとり、**“ヴォルデモートの匂いが再び漂った”**ことに静かに戦慄していた。
この戦いは終わっていない。あれは、ただの“前哨戦”だった。
それを伝える者は、いなかった。
いや、伝えてはならなかったのだろう。
「平和の幻想」こそが、人間という種の最も脆く、そして最も愚かな防壁なのだから。
◆だから私は沈黙を選んだ
言いたいことは山ほどある。
それでも、私は語らない。
リリーは死に、私は生き残った。
ハリーは生き残り、私はその背後で何度も“生かすための嘘”を重ねた。
“英雄”ではない。
“贖罪者”でもない。
私はただ、過ちを償う手段として“少年を守る”という手段を選んだにすぎない。
理解などされなくていい。
皮肉に塗れた日々も、無駄ではなかった。
この年もまた、彼は生きた。
それが、すべてだ。
『アズカバンの囚人』──復讐ではなく、誓いのために私は立っていた
あの年、私は限界だった。
実に長い間、私は沈黙を守り続けていた。
ダンブルドアに従い、過去を封じ、“冷酷な教師”としての仮面を維持し、あの子を、ハリー・ポッターを、己の命と引き換えにでも守ると心に決めていた。
だが、彼の名を聞いた瞬間、すべての均衡が軋み始めたのだ。
シリウス・ブラック。
人殺し。裏切り者。
リリーを死に追いやった連中のひとり。いや、“奴が情報を渡さなければ、彼女は死なずに済んだ”――私は、そう信じて疑わなかった。
新聞が報じた。アズカバンからの脱獄。空前絶後の逃亡者。
だが私は、誰よりも早く“奴がホグワーツに来る”ことを悟った。
ハリーの命が狙われているのなら、それはもはや**“警護”などという生易しい言葉で済む問題ではなかった**。
それは、“復讐”と呼ぶには生ぬるい、“償わせるべき罪”を遂行する機会だった。
◆教師である前に、私は剣を抜いた“兄”だった
だが私は、教師だった。
表向きは、“規律と秩序を守る”者として、教壇に立たなければならなかった。
だからこそ、あの年ほど皮肉が口をついて出た年はなかった。
ルーピン――ああ、あの年の防衛術の担当は“ホグワーツ史上もっとも穏やかで、もっとも危険な男”だった。
リーマス・ルーピン。
彼は、“裏切りの夜”に黙っていた。
シリウスがリリーとジェームズを裏切ったあの夜、彼は何もせず、ただ何も知らないふりで静かに消えた。
いや、奴に言わせれば“誰にも知らされなかった”そうだ。だが、私は知っていた。
シリウスもルーピンも、あの時、“私ではなくジェームズを選んだ”のだ。
私という友は、あの夜、死んだのだ。
だというのに。
再びあの男が教壇に立ち、生徒に“防衛術”を教えていた。
彼の授業は確かに優秀だった。だが私は知っていた。
“月夜の夜”には彼を信用してはならない。
◆少年に見せるには残酷すぎる“自分の記憶”
私はハリーを見ていた。
この年の彼は、一層父親に似てきた。
顔だけではない。
“危険に首を突っ込む癖”、
“命令に背いても仲間を助けようとする性格”、
“人の話を最後まで聞かない思い込みの強さ”。
だが、同時にリリーの影もまた強く出てきた。
“誰かを救いたいと願う純粋さ”と、“差別を憎む視線”。
それは、ジェームズが決して持ち得なかった、“本当の優しさ”だった。
だから私は苛立った。
彼の行動すべてに、腹が立って仕方なかった。
ハーマイオニーを守るように動くハリーを見て、
私はなぜか、過去のリリーと自分の幻影を見た。
その瞬間、激しい怒りと自己嫌悪が渦を巻いた。
なぜだ? なぜ、私ではなくジェームズが選ばれた?
なぜ、私は一生をかけて償っているというのに、
あの男の息子は、誰からも“希望の子”と讃えられるのか?
それでも、私は行動を止めなかった。
あの年、彼が“忍びの地図”を使って校外へ出ようとした時、私は本気で怒鳴った。
「お前の命に関わる問題だ!」
だがその叫びは、彼の耳には届かなかった。
ハリーは、私をただの“敵”と見ていた。
それで構わなかった。
いや、それでしか、構いようがなかったのだ。
◆狼、鼠、犬、そして私――誰が“悪”だったのか
夜の叫びの屋敷。
この世で一番見たくなかったものが、次々とそこに集まっていた。
シリウス・ブラック。
リーマス・ルーピン。
ピーター・ペティグリュー。
死んだと思っていた裏切り者が、ねずみの姿で生きていた?
ふざけるな。
あの夜、ジェームズとリリーを死に追いやったのは“この場にいる三人”だったはずだ。
私の人生を、私の後悔を、私の償いを、血で塗りつぶしたのは、この者たちだったはずだ。
私は、杖を構えた。
そして叫んだ。
「殺してやる……」
ダンブルドアにすら止められない感情が、私の中で溢れていた。
それは“復讐”ではなかった。
“正義”ですらなかった。
ただ、彼女の命を奪った連中を、自分の手で裁きたかっただけだ。
誰かに奪われる前に、自分の誓いを終わらせたかっただけだ。
だが、またしてもあの少年が現れた。
「彼らを殺すのではなく、裁かせるべきだ」と。
それが、リリーの息子の選択だった。
皮肉なことだ。
私が望んでいた理想を、あの少年が実現させようとしていた。
◆結局私は、誰の味方でもなかった
その後の出来事は、もはや滑稽だとしか言いようがなかった。
ブラックが逃げ、ペティグリューも逃げ、
結局私は「誤解した者」として教職に戻り、
生徒たちの冷ややかな視線をまた一身に浴びることとなった。
だがいい。
私は“正しく憎まれる”ことに慣れていた。
私は“間違って好かれる”ことより、それを選ぶ。
ルーピンが辞職した。
「気づかれてしまった」と。
いや、私は知っていたよ。
それでも、お前を守る気でいた。
だが、お前は逃げたな。
いつものように、立ち向かわずに、背を向けた。
お前の“弱さ”が、ジェームズの“強さ”を照らしていた。
私の“苦さ”が、リリーの“優しさ”を映していた。
皆、誰かの“反射光”としてしか残っていなかった。
◆だからこそ、私は前を向いた
私は変わらぬ“冷酷な教師”に戻った。
教室で生徒を睨みつけ、毒を持つ薬草の取り扱いを延々と説明する、いつもの日々へ。
だが私の心の中で、一つだけ変わったことがある。
「この少年は、確かに彼女の息子だ」――そう思えた瞬間があった。
私の存在が、彼の目に“敵”としか映らなかったとしても、
それでも、彼の中に確かに“リリーの意思”が生きていることを感じた。
ならば、私は、ますます“敵”としての役割を全うしなければならない。
守るために、憎まれることを選ぶ。
それが、私にしかできない誓いの形だった。
『炎のゴブレット』──焼けた刻印、奴の囁き、そして私はまた沈黙を選んだ
これまでの3年間――そう、私は“過去の残骸”の中で呼吸していたにすぎない。
リリーを失った後の命など、どうでもよかった。
その命を使って“あの少年”を守る、それだけが贖罪だと信じて、私はホグワーツという檻の中で生きていた。
だがこの年、私は思い知ったのだ。
贖罪とは生ぬるい。あれは、“再び始まる”のだと。
私の左腕が、それを告げた。
熱い。痛い。皮膚の下で、黒い印が目を覚まし、蠢いている。
そして私は、とうとう見えない“選択”を迫られることになる。
私は、どちら側に立つのか?
◆トライウィザード? 名誉と死が並ぶ舞台を誰が喜べるか
魔法省と各国の校長たちが意気揚々とホグワーツに乗り込んできたとき、私はすでに“祭りの空気”に不快しか覚えていなかった。
トライウィザード・トーナメント?
三校が誇りを懸けて生徒を競わせる?
愚かだ。どの口が“生徒の安全”を語れる?
案の定、死者が出る大会を“学校行事”のように扱う空気に、私は唾棄すら覚えた。
しかも、年齢制限を設けているにも関わらず、突如“4人目”が出場者として名前を告げられる。
ハリー・ポッターの名が、炎のゴブレットから浮かび上がった瞬間、私は全身の血が凍る音を聞いた。
まさか――いや、“まさか”が常に現実になるのがこの少年だ。
なぜ貴様は、常に“鍵穴”に嵌め込まれていく?
誰かが仕組んでいる? 当然だ。
だが問題は“誰か”ではない。“何のために”だ。
◆監視する者として、見張られる者として
私は監視を開始した。
ポッターの動向、寮の交友関係、外部からの介入、使われた魔法、呪文の痕跡、薬草庫の異常な使用頻度。
すべてを記録し、ダンブルドアに報告した。
いや、違う。
私は、ダンブルドアに報告する者であると“思わせる役”でもあったのだ。
“奴”が戻ってくる兆候を、私は肌で感じていた。
夢の中に侵入する“痕跡”。
記憶を奪われる生徒。
“闇の道具”の動き。
そして何より、私の左腕に刻まれた黒い印――ダークマークの疼きが、それを誰よりも正確に告げていた。
だが、誰にも語れない。
ダンブルドア以外の誰一人、私が“過去に何を誓い、何を捨て、何を背負い続けているか”など知らないのだから。
◆ポリジュース、陰謀、そして盲目の魔法界
この年、最も私を苛立たせたのは、マッド・アイ・ムーディ……を演じる男だった。
偽者だった。
だが私は、彼の“教え”に妙な既視感を覚え続けていた。
ある種の手際の良さ。
生徒に対する接し方の雑さと、手を抜かぬ呪文の使い方。
彼の振る舞いには“計画”の匂いがしすぎていた。
最終的に、彼が“ポリジュース薬”を使ってバーテミウス・クラウチ・ジュニアであると明らかになったとき、私は叫びたくなった。
**「だから言ったではないか」**と。
だが、誰も私の“推察”には耳を貸さなかった。
いつもそうだ。
スネイプは信用に値しない。
彼はかつて“死喰い人”だった。
“冷酷で陰険で、信用できない教師”だと。
構わない。
そう見せておくことが、私の任務だ。
◆セドリックの死、血の儀式、そして再誕
最後の課題。
迷路。
ポッターとセドリック・ディゴリーは、同時にカップを掴んだ。
そこまでは誰もが“予測できた勝利”の物語として眺めていた。
だが、次の瞬間――彼は死んだ。
セドリックの死。
ハリーの失神。
カップから転送され、血の儀式の犠牲となったあの夜。
“奴”が復活した。
もはや疑いはない。
私の印は焼けるように疼き、奴は呼んでいた。
“戻ってこい”と。
私は向かった。
奴のもとへ。
◆スパイとして、裏切り者として、私が生きる意味
あの夜、私は全てを振り出しに戻した。
再び、“死喰い人”という衣を纏った。
だがそれは**“味方”のふりをするためではない。**
敵の最奥に身を置き、情報を引き出し、戦いの行方を左右するためだった。
誰がこの地獄を望んだ?
誰が、こんな命を望んだ?
私か? いや違う。
私はただ、一人の女性を愛し、一人の少年を守ろうとしただけだ。
だが運命は、私を再び“裏切り者の面”に縛りつけた。
私は奴の前に跪き、かつての仲間の視線を耐え、嘘を吐き、心を閉ざした。
“いかにダンブルドアを欺いたか”を語ることで、“再び忠誠を示した”のだ。
全身が腐るようだった。
だが、それであの子を守れるなら、それでいい。
あの子が、あの目が、生きてさえいれば――それでいい。
◆少年が生き残ったことだけが、この年の“唯一の勝利”
学年末、ホグワーツに戦慄が走った。
「ヴォルデモートが蘇った」と、ハリーが語った。
誰も信じなかった。
魔法省は隠蔽に走った。
新聞はあざ笑った。
生徒たちは疑った。
教師たちも沈黙した。
だが、私は知っていた。
そして、誰よりも強くそれを肯定し、支えたのが、あの少年だった。
彼の叫び、彼の恐怖、彼の記憶。
私は誰にも知られず、それらを裏から支え続けた。
彼がひとりきりにならぬように。
彼が、信じることを諦めぬように。
◆だから私は、また孤独を選ぶ
この年、“私が何をしたか”など、誰も語らなかった。
私は祝われない。
記章も受け取らない。
歴史にも残らない。
それでいい。
私は、私のやり方で“戦っている”。
“あの人のために生きる”という、誰にも理解されない覚悟を抱えて。
次の戦いが始まる。
だが私は、ただの教師のふりをして、またホグワーツに立ち続ける。
そのときが来るまで。
『不死鳥の騎士団』──閉じよ、心よ。あの子には決して見せるな
言っておこう。この年、私はかつてなく疲弊していた。
いや、単なる疲れではない。“摩耗”だ。
精神の縁をぎりぎりで保ちながら、私は毎日“違う顔”を貼り付けていた。
片方では、ホグワーツの教師。
片方では、ヴォルデモートの側近。
そしてそのどちらでもない、ただひとつの真実――
「彼女の子を、生き延びさせるための陰」
この三重構造のなかで、私がどれだけ“自分”を犠牲にしていたか、誰も知らないし、知ってはならなかった。
◆アンブリッジという“悪意の凡庸”と、私の沈黙
この年、ホグワーツに最も強烈な害悪が侵入した。
ドローレス・アンブリッジ。
魔法省直属の高等監察官。
ピンクの衣をまとい、毒の如き笑みを浮かべ、生徒たちを支配し、教師たちの信念を粉砕して回った女。
私は、彼女を見て即座に察した。
この女は“理想”ではなく“制度”を守る。
“正しさ”ではなく“命令”を信奉する。
最も危険なタイプの“凡庸な邪悪”だ。
だが私は、表向きは沈黙した。
アンブリッジが私の授業に“問題なし”の評価を下すと知ると、他の教師たちが吐き気を催すなか、私はそれを無視した。
私の目的は“指導”ではない。
“彼女の子”が生き残る道を確保すること。
アンブリッジなど、そのための通過点にすぎなかった。
◆オクルメンシー――私はあの子に、記憶を見せたくなかった
その年、ダンブルドアはある提案を私に下した。
「ハリーに、閉心術を教えてくれ」
あのとき、私はほんの一瞬、心が凍りついた。
なぜなら、閉心術の授業とはすなわち、
“私の心を、あの子にさらす危険”を意味していたからだ。
私が最も守りたい“記憶”――リリーと過ごした日々、
私が最も封じたい“後悔”――あの罵声、あの裏切り、あの選択。
それらすべてが、ハリーに“見られてしまう”可能性を含んでいた。
だが私は、引き受けた。
引き受けざるを得なかった。
なぜなら、ヴォルデモートの精神が、確実にハリーと繋がりつつあったからだ。
“あの目”がもし、闇に堕ちたら――
私はそれを、絶対に許すことができなかった。
◆あの子が“私の記憶”を覗いた日、私は崩壊した
授業は、予想通り惨憺たるものだった。
ハリーは集中力を欠き、守り方を理解せず、私の怒声にただ反発するだけだった。
私は彼の怒りを引き受けることで、“心の壁”を作らせようとした。
だが彼は、まるで“開かれた書”のようだった。
その無防備さが、あまりにもリリーに似ていて、私は何度も理性を揺さぶられた。
だが――あの一度だけ。
私の不注意だった。
“心の防壁”が一瞬崩れた瞬間、ハリーの意識が“私の記憶”に入り込んだ。
あの場所――
スリザリン寮の廊下。
リリーが私を見つめ、私が彼女を“穢れた血”と叫んだ、あの瞬間を。
すべてを見られた。
私は、崩れ落ちる感覚に身を任せた。
自分が、最も知られたくなかった“過去”を、あの子に晒してしまったのだ。
怒りではなかった。
羞恥でもなかった。
それは、自壊だった。
私は授業を打ち切り、口をきかなくなった。
ハリーも、何も言わなかった。
だが私は知っていた。
“あれを見たあの子は、二度と私を信じない”。
◆シリウス・ブラックの死――私が望んだ終焉ではなかった
その年、シリウス・ブラックが死んだ。
私は、ハリーが“何をしたのか”を知っていた。
無謀な突入。誤った判断。
そして、ベルラトリックスの呪文によって崩れ落ちた彼の“父の影”。
私は、呪われたように部屋で立ち尽くしていた。
望んでいたか?
かつて、あれほど憎んだ男の死を、私が“喜ぶ”と思うか?
違う。
私は、この死がハリーに何をもたらすかを知っていた。
守る者がいなくなれば、あの子はもっと危うくなる。
自分を“復讐の器”にしてしまう危険を孕んでいる。
リリーがそうはさせなかったように、私もそうさせたくなかった。
だが私には、もう何もできなかった。
信頼は失われ、言葉は届かず、手を伸ばせば引き裂かれる。
◆私は、ただの“壁”であればいい
この年が終わる頃、私は再びホグワーツの片隅で、誰にも感謝されず、誰にも理解されず、ただ“立っていた”。
あの子は、私を「最低の教師」として見ていた。
私の授業を憎み、私の顔を見るだけで拳を握りしめていた。
それでいい。
それでしか、守れないのだ。
“私はあなたの父ではない”
“私はあなたの味方ですらない”
それでも、“私はあなたを守っている”。
『謎のプリンス』──誓いと裏切りと、誰にも知られてはならぬ忠誠
もしこの一年を一言で語るとしたら、それは「死への準備」だった。
私自身の死、そして“彼の死”――。
どちらも、この年に“意味”を与えられたのだ。
私は最初から知っていた。
この年が、私という存在を完全に“敵”として確定させる節目になると。
リリーの死以来、私はずっと裏側を歩き続けてきた。
だがこの年、私は“表側の世界からも完全に消える”ことになる。
自ら望んで――ではない。
約束のため、忠誠のため、そして何よりも、あの少年の未来のため。
◆ドラコ・マルフォイ──一人の子どもが、過去の私を呼び覚ました
新学期早々、私は新たな“仕事”を与えられた。
ヴォルデモートが、ドラコ・マルフォイに“使命”を与えたのだ。
殺せ、ダンブルドアを。
ふざけている。
子どもに“殺し”を命じるなど、もはや理性の領域ではない。
だが、私は悟った。
これはドラコへの“処刑命令”であり、“純血の名家”を揺さぶる見せしめであり、私への“試験”でもあった。
彼にできるはずがない。
だから私は、“破れぬ誓い”を結んだ。
ナージッサの手を握りながら、内心では吐き気がした。
これは自殺契約だ。
だがそれでいい。
いずれ私がやるべきことだったのだ。
この年のはじめ、私はすでに“自分がダンブルドアを殺す”未来を受け入れていた。
◆私はようやく、防衛術の教師になった──遅すぎた報い
皮肉な話だ。
ずっと望みながら、決して許されなかった“闇の魔術に対する防衛術”の担当。
この年、ようやくその職に就いた。
だがもう私は、教えることに情熱を持てなかった。
この教壇は“終焉”の場所となる。
私にとって、ホグワーツ最後の“表の仕事”。
生徒たちは、いまだに私を“憎悪の象徴”として見ていた。
よろしい、それで結構。
それは盾であり、仮面であり、誰にも見せてはならぬ“裏切り者の心”の保護色だったのだから。
◆リドルの記憶、そしてホークラックス──少年が知るべき“真の敵”
ダンブルドアは、ハリーを“戦士”に仕立て上げようとしていた。
そのために、彼にヴォルデモートの過去を教えた。
“分霊箱”――ホークラックス。
それを破壊することが、この戦いの鍵になると。
私はその方針に表立っては口を挟まなかった。
だが私は知っていた。
“敵の心臓を抉るには、同じだけ心を捧げなければならない”と。
つまり、ハリーには“人間性”すら削られる未来が待っていた。
あの少年が“殺す覚悟”を持ったとき、その瞳はもうリリーのものではなくなるかもしれない。
それでも、彼には生き延びてもらわねばならない。
その矛盾を、私はただ一人、沈黙の中で引き受けた。
◆フェリックス・フェリシス──私の“感情”が、ついに一線を越えた瞬間
一つ、感情の暴発があった。
ハリーが“フェリックス・フェリシス”――幸運の液体を手に入れたとき、私はそれを奪ってやろうかと思った。
なぜなら、その薬は“運命を歪める”。
そんな薬にすがらなければならないほど、あの少年が“見えていないもの”が多すぎたからだ。
だがダンブルドアはそれを許した。
「それも学びになる」と。
そうか、“学び”という名のもとに、どれだけこの少年が壊されるのか。
それを私は、笑って見守らねばならないのか?
◆あの夜──天文塔、死を迎える師と、刃を握る私
すべては、あの夜に繋がっていた。
ドラコが天文塔へ。
ダンブルドアがその到着を悟り、私に“準備”を告げる。
そして、私は塔へ向かう。
そこで見たのは、杖を向けながら震えるドラコと、逃げ場のない老人だった。
ダンブルドアは、静かに私を見た。
「今だ、セブルス。お願いだ」
私が殺す。
それが、最初から決められた筋書きだった。
ドラコの命を守り、ヴォルデモートに“忠誠”を証明し、ハリーを守る“枠”を保ち続けるためには――
ダンブルドア自身の死が必要だった。
私は、杖を構えた。
そして、呪文を放った。
「アバダ・ケダブラ」
◆逃走者として、全ての世界から姿を消す
あの夜の私の心を、誰が測れるだろう。
私は“学校の裏切り者”となった。
生徒たちの怒りを背に受け、魔法界中から追われる身となり、
そして、ヴォルデモートには“完全なる忠誠者”として迎えられた。
だが私は、“守るべき少年”の目から、完全に消えた。
もう二度と、ハリーの近くには戻れない。
二度と、あの瞳に触れられない。
それが、この年の“報酬”だった。
◆それでも私は、ただ一人、前へ進む
理解などされなくていい。
許されなくていい。
私はもう、自分の命すら道具としてしか見ていない。
ただ一つだけ望むのは、
「彼が、最期まで彼でいられるように」
それだけだ。
『死の秘宝』──命を賭した記憶、“Always”と呼ばれた祈りの行方
ここから先の記憶は、もう生ではなく、痛覚と無音だけでできていた。
私は、私自身が“人間”であることを捨てる覚悟をしていた。
いや、もうとっくに捨てていたのだ。
それでも、私には“果たさねばならぬ誓い”があった。
それが終わるまで、私は、死ぬことも許されなかった。
◆校長という名の“幽霊”として
あの夜、ダンブルドアを殺してから――私がホグワーツの“校長”に任命された。
笑える。
教師陣の反発。
生徒の絶望。
魔法省からの監視と、ヴォルデモートからの信任。
それらすべての“構造の中心”に、私は座っていた。
だがその本質は、私が“校長の仮面を被ったスパイ”だったことに他ならない。
私は、生徒を傷つけた。
いや、見殺しにするふりをした。
時に怒鳴り、罰し、孤立させた。
その裏で、逃がした。
その裏で、守った。
その裏で、泣いた。
“必要の部屋”でのレジスタンス活動も知っていた。
ネビル・ロングボトムの成長も、ジニー・ウィーズリーの気骨も、私は誇りに思っていた。
だが私は、それを表には出さない。
「敵を欺くには、味方から欺かねばならない」
それが、私に与えられた“役割”だった。
◆ハリー・ポッターの帰還、運命の時が迫る
そして、ついにあの少年が戻ってきた。
ホグワーツに、最終決戦が始まる。
私は、すべてを知っていた。
“分霊箱”の破壊。
“7つの魂の断片”。
そして――
「ヴォルデモートが、自分の手で作った最後の分霊箱は、“ハリー自身”であることを」
私しか知らなかった。
私と、ダンブルドアだけが。
この事実を、誰があの少年に伝える?
誰が、「君は死ぬ必要がある」と言える?
ダンブルドアはその“汚れ役”を、私に託した。
私が、あの子にその真実を渡す。
私が、“あの子を殺す”という現実を伝える。
――その役を、私が担うのか。
私は、何のために生きてきた?
私が守ってきた“彼女の子”を、私自身が“殺すために導く”のか?
いや、違う。
私はただ、“彼に選ばせるため”に、真実を託すのだ。
ハリーが、最期まで“人間”でいられるように。
◆湖畔の舟屋――ヴォルデモートの最後の命令
私の死は、偶然ではない。
私は“死ぬことになっていた”。
ヴォルデモートは、私を完全に信用していなかった。
彼は“ニワトコの杖”を掌握するために、私を殺す必要があると信じていた。
だが彼は知らなかった。
真の忠誠心は、物理では動かない。
それは“愛”にしか反応しないのだ。
湖畔の舟屋に呼ばれたとき、私はそれを理解していた。
ナギニが、私に襲いかかる。
毒の牙が、喉を裂く。
視界が、暗くなっていく。
そして、私は見た。
彼が来た。ハリーが来た。
私は、すべてを託した。
◆「見てくれ、せめて君の目だけを」
私は、声が出なかった。
血に沈んだ舌。
割れた喉。
気道の底から、私はただ一つの願いを吐き出した。
「君の目を、見せてくれ――リリーの目を」
彼女の目に、私は最期に触れたかった。
リリーの魂を、そのまま宿した瞳に、私の命の記憶を映し出したかった。
ハリーは、見てくれた。
私は、ようやく、死ねた。
◆記憶が語る私の生――“Always”という祈り
私が彼に託した記憶は、私という人間のすべてだった。
・リリーを愛した少年時代。
・忌まわしき“穢れた血”という言葉で、彼女を失った日の悔恨。
・死喰い人となった愚行。
・ダンブルドアへの涙の懇願。
・「リリーの子を守る、それがすべて」と叫んだあの夜。
そして、**“Always”**という言葉。
ダンブルドアに問われた。
「今でも彼女を?」
私は答えた。
「Always」
彼女のために、私はすべてを捧げた。
彼女の子を守るために、私は世界から“裏切り者”と呼ばれることを選んだ。
誰にも理解されず、
誰にも褒められず、
誰にも愛されず――
それでも、私は愛した。
それだけは、真実だった。
◆そして私は、すべてを置いて去った
戦いは終わった。
ヴォルデモートは滅び、ハリーは生きた。
それでいい。
それが、私のすべてだったのだから。
人々は語る。
「スネイプは裏切り者だった」
「スネイプは校長を殺した」
「スネイプは冷酷で、容赦のない教師だった」
それでいい。
だが、ハリーが“彼は僕の命を救った”と語ったなら――それだけでいい。
◆終章――誰も知らない英雄として
私に葬儀はない。
私は、歴史の陰に消える。
だが、私は望んでいなかった。
記念碑も、功績も、贖罪も。
ただ一つだけ望んだ。
「彼女の瞳が、もう二度と涙で曇らぬ世界」
それを、私は作りたかった。
それを、私は命で編んだ。
セブルス・スネイプ
一生を、たった一言に捧げた男――
“Always”
「俺が何をした?本当に“何をした”って訊きたいのか、ポッター父(ジェームズ・ポッター)」
ジェームズ・ポッター。
ああ、お前のその名を口にするたび、口内が苦くなる。
たとえお前がこの世にいなくても、あの忌々しい笑顔と、挑発に満ちた声と、無意味な英雄気取りの態度は、私の脳裏でいまだに生き続けている。
だから訊くぞ。お前の魂に、はっきりと向けて叫ぼう。
「俺が一体、何をした?」
何をしたというのだ、あの頃。
お前の機嫌を損ねたか?
リリーと親しかったことが気に食わなかったのか?
魔法に長けていたことが、そんなに癪だったか?
それとも、お前のように“周りを笑わせる才能”とやらが私にはなかったからか?
俺はただ、魔法を学んでいただけだ。
ホグワーツに来て、生きる意味をようやく手に入れて、
“リリー”という名前の光を見つけて、それを、心の底から大切にしていただけだ。
それを、お前は、あっさりと奪っていった。
理由も、正義も、必要なかった。ただ“お前が気に食わなかった”から。
ほうきに乗って俺の頭上を飛び、
俺の呪文を奪い取り、
俺の名前をあざ笑い、
俺の存在を“面白い見世物”に変えた。
貴様にとって、俺は一体なんだった?“からかっても罪に問われない家具”か?
お前がいたから、リリーは俺から遠ざかった。
お前がいたから、俺は“最も大切な人”に“穢れた血”と叫ぶという地獄の選択をしてしまった。
そして、そのあとも。お前の影は消えなかった。
お前が死んだあとも――
その顔が、毎年毎年、ホグワーツにやってくる。
お前そっくりの髪と、あの“自信だけでできたような態度”を持って。
だが、そいつの中に、リリーの目があった。
皮肉なことだろう?
お前の顔をしていながら、リリーの眼差しで俺を見上げてくるんだ。
俺は、毎日それを見て、吐き気と懺悔と、どうしようもない怒りで――
それでも守った。守り続けた。命をかけて。
どうしてかって?
リリーが選んだ男が、お前だったからだ。
俺の全存在が拒絶したその相手を、**“リリーが愛した”**というたった一つの事実が、
俺の人生を永久に縛った。
それでも訊くか?「俺が何をした」かと?
俺は、生き残った“お前の息子”を、憎まれながら守った。
ダンブルドアに嘆願し、何度も死を偽り、
死喰い人の仮面を再び被り、
裏切り者と罵られ、
校長を殺し、“魔法界の敵”になってまで、
俺はあの子を守った。
“お前の子を”だ。
だから、もう一度訊く。ジェームズ・ポッター。
俺が何をした?何をすれば、あの光を取り戻せた?
何をすれば、リリーの隣に立てた?
……いや、わかってるさ。
何をしても、無駄だったんだ。
俺は最初から、“選ばれない側”だった。
リリーが笑いかけるのは、いつもお前だった。
そしてその報いとして、俺は“永遠に報われない愛”を守り続ける亡霊になった。
お前の息子が戦いを終えて、ようやく“真実”を知ったとき、
彼は俺に“英雄”の名をくれた。
だがそれでも、俺は“リリーの横にはいなかった”。
それでいい。
それが、お前の遺した世界だ。
ただ一言、言わせてくれ。


