パドフット・黒い犬(シリウス・ブラックのアニメーガス)とは?何をしたの?怖い
子どもが怖がるのに、実はすっごく優しい犬
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』で初めて登場する、大きくて黒い犬。真っ暗でボサボサな毛に、ギラギラ光る目、どこか不気味なその姿は、まるで「死」そのもの。実際、ハリーはこの犬のことを「不吉のしるし」=グリムだと思い込んでしまって、しょっちゅう怖がっていました。
でも、読者だけが知ってるんです。この犬の正体は、ハリーの父の親友、シリウス・ブラック。彼は「アニメーガス」といって、自分の意思で動物に変身できる魔法使い。シリウスは、自分の身を隠すため、またハリーを守るために、犬の姿になって近づいていたんです。
そしてこの犬に名前がありました。「パドフット」。それは、マローダーズの仲間たちだけが知る、シリウスのあだ名でした。ちょっと笑っちゃうけど、あの怖い外見の犬に、こんな可愛い名前がついてたなんて、ギャップがすごいですよね。
パドフットという名前の意味と、マローダーズの秘密
なんで「パドフット」って名前なの?
シリウスは、ホグワーツ時代、親友のジェームズ、リーマス、ピーターと一緒に「マローダーズ(いたずら仕掛け人たち)」というグループを作っていました。彼らはリーマスが狼人間だと知ってから、毎月の満月の夜、彼と一緒に過ごすために、みんなでアニメーガスになったんです。
そのとき、お互いの変身した動物にちなんだ名前をつけ合いました。シリウスが「パドフット」。これは、古いイギリスの民間伝承に出てくる「黒い犬の精霊」から来ていると言われています。「死のしるし」「悪いことが起こる前に現れる影」とされていて、人々に恐れられていた存在。でもシリウスはあえてその名前を選んだ。そこには、彼なりの皮肉や、悲しみも隠れていたのかもしれません。
小説から映画、そして『呪いの子』へ…パドフットが背負ったもの
シリウスの人生は、犬の姿にすべて出てる気がする
『アズカバンの囚人』では、ずっと「指名手配犯」「脱獄囚」だと信じ込まれていたシリウス。でも本当は、親友の裏切りで13年間も牢に閉じ込められてしまった、無実の男だった。彼はその中で、人間のままでいたらきっと壊れてしまっていた。でも、犬に変身している間だけは、自分の苦しみから少しでも逃れられた。だから彼は、アニメーガスになり続けたんです。
犬は忠実で、主人を守ろうとする生き物。シリウスも、ジェームズとリリーを守れなかったことを一生悔いていたし、ハリーには絶対に同じ思いをさせたくなかった。だから犬の姿のまま、ハリーの周りをうろついて、遠くから見守っていたんですよね。自分が何を言っても信じてもらえないと分かっていても、それでも近くにいたかった。怖がられても、嫌われても、それでいい。…これって、すごく切ないことです。
『不死鳥の騎士団』では、人間の姿でも登場することが増えましたが、それでも「犬としての自分」は彼の中にずっと残っていたと思います。ハリーのことを守る「パドフット」としての気持ち。戦いの最中、最後に彼が死んでしまうそのときも、どこかに「あの犬」がいたような気がしてなりません。
そして『呪いの子』では、ハリーの息子・アルバスが「パドフットの話」を知っている描写はありません。でも、ハリーが息子に語らないだけで、彼の中に「パドフットの記憶」はずっと生き続けてるんじゃないかな、って思います。たとえば、アルバスが辛いときに「誰にも見られないところでそっと見守ってる誰か」を感じていたとしたら、それはきっとシリウスの影。つまり、あの大きな黒犬だったのかもしれません。
作者がパドフットに込めた想いを考える
シリウス=パドフットって、ただの変身じゃない
J.K.ローリングは、「犬に変身する男」なんていう設定を、ただのギミックとして書いたとは思えません。むしろ、「犬であること」に、シリウスのすべてを詰め込んだような気がします。
犬は、忠誠心の象徴であり、また家族を守る存在でもあります。そして、時には吠えたり、噛んだり、逃げたりすることもあるけれど、それでも飼い主を信じ続ける生き物です。シリウスは、ハリーにとっての「親代わり」になろうとしました。だけど彼自身がまだ不安定で、傷ついたままだった。だから、ハリーの父の代わりにはなれなかったけれど、「パドフットとして」だけは、ずっと彼のそばにいられたんです。
そして、「犬」という姿が、世の中から怖がられたり、誤解されたりするのもまた、シリウスそのものです。無実なのに悪者扱いされ、友人を殺したと言われ、逃げ回るしかなかった人生。でも彼は、人の姿よりも、犬の姿の方が「自分らしい」と思っていたのかもしれません。
なんで怖い犬だったの?本当は守ってくれてたのに
ハリーが最初に感じた「死のしるし」の正体
『アズカバンの囚人』の中で、ハリーがはじめてパドフットを見るのは、ダーズリー家を飛び出して夜道をさまよっていたとき。あのとき、大きな黒犬が茂みの中からぬっと現れて、ハリーはとっさに「グリム」だと思ってしまいました。魔法界の中でも特に恐れられている存在で、「見ると死ぬ」とまで言われている不吉な幻影です。
でも、その正体は…ハリーを守るために姿を現した、パドフット。しかもこのとき、ディメンターも近くにいたことを考えると、シリウスはただ遠くから見ていたわけじゃなくて、ハリーが危険にさらされた瞬間に、本能のように飛び出したんです。犬の姿のまま、ハリーに近づく。でもそれは、自分の正体をまだ明かせないからで、本当は「今すぐにでも声をかけたい」気持ちを必死で押し殺してた。
読者から見ると、「パドフットが怖い」なんてハリーの勘違いが、むしろ痛々しく思えてくる。だって、あのとき一番そばでハリーを見守ってくれてたのは、この犬だったのに。
パドフット=守るもの。でも、守れなかった悔しさもある
「誰も信じてくれない」って、どれだけ孤独だったんだろう
シリウスは、ジェームズとリリーがヴォルデモートに殺されたとき、自分のすべてが壊れたと言ってもいい。自分の無実を訴えても、誰も耳を貸してくれなかった。しかも、その裏切りをしたのが、自分の仲間だったピーターだったなんて。怒りと絶望と悔しさでいっぱいだったと思います。
それでもアズカバンで壊れなかったのは、「犬でいる時間」があったから。人間の感情から離れた時間。無言で世界を見つめるだけの、動物の時間。それが彼を救っていた。でも、同時にそれは、彼が「人として壊れてしまった」という証でもある気がします。
ハリーに会ったとき、シリウスは「君を守らせてくれ」って言います。でもその言葉には、「かつて誰も守れなかった」自分自身への怒りも込められてたんじゃないかと、私は思います。ジェームズもリリーも守れなかった。だからこそ、ハリーだけは絶対に失いたくなかった。それが、パドフットという犬の姿で近づいた一番の理由かもしれません。
アニメーガスって簡単じゃない。でもこの3人はやってのけた
犬、ネズミ、カブトムシ…じゃなくてシカ!
シリウスがアニメーガスで犬に変身できるようになったことは、とても大きな意味を持っています。なぜなら、アニメーガスの魔法って、ホグワーツでもごくわずかしか成功者がいない、とても難しいものだからです。しかも、通常は魔法省に届け出る義務があるのに、シリウスたちは無登録のまま、自己流でやり遂げた。
ジェームズはシカ(プロングス)、ピーターはネズミ(ワームテール)、そしてシリウスが犬(パドフット)。この3人の変身は、リーマスが狼人間になったときに、彼の孤独を和らげるため。あんな恐ろしい病気を持った友達を、怖がるどころか「俺たちも獣になろうぜ」と言って寄り添ってくれた。それって、普通じゃできない優しさと覚悟です。
だけど、ここにも皮肉がある。シリウスが信じたその仲間、ワームテールが裏切って、ジェームズとリリーは死んだ。自分たちの間にあったはずの「信頼」が、裏切りに変わった。それでも、シリウスはハリーのそばにい続けようとした。犬の姿で、再び信頼を取り戻そうとしたのかもしれません。
パドフットとハリーの距離が近づくとき
家族じゃないけど、心は家族だったよね
『アズカバンの囚人』のラストで、シリウスは「一緒に住もう」ってハリーに提案します。すべてがうまくいっていたら、ハリーはダーズリー家を出て、シリウスと暮らしていたかもしれない。だけど、ピーターの逃亡でそれは叶わず、シリウスは再び逃亡者として隠れるしかなかった。
それでも、二人の絆は少しずつ深まっていきます。『炎のゴブレット』では、パドフットとしてハリーをこっそり見守ってるし、『不死鳥の騎士団』ではブラック邸で再会して、本当に家族のように過ごしていた時間がありました。
でもそれも長くは続かなかった。シリウスはハリーを守ろうとしすぎて、戦いに出て、そして命を落としてしまった。あのとき、シリウスの死を目の前で見たハリーが、どれだけショックを受けたか。自分のせいで死んだと自分を責めていたハリーを思うと、胸が苦しくなります。
「怖い犬」だったはずが、「一番信じられる存在」になった
パドフットって、ハリーの中で今も生きてる
パドフットという名前は、表向きには忘れられてしまったけれど、ハリーの心の中では、ずっと生きてると思います。『呪いの子』の中で、彼が息子アルバスとの関係に悩むとき、もしシリウスがいたら、何を言ってくれたかなって、きっと思い出してたはず。
誰よりも誤解されて、でも誰よりも大切な人を守ろうとした犬、パドフット。怖がられても、名前を呼ばれなくても、そこにいてくれたあの存在は、きっと読者にとっても忘れられないキャラクターになっているはずです。

