毒父ってなに?
「毒親」という言葉の中には“お母さん”だけでなく、“お父さん”も含まれます。しかし世間では「毒母(どくはは)」というイメージが強いせいか父親のことはあまり注目されにくい傾向があります。
でも実際には「父親からの暴言や暴力で苦しんでいる」「ずっと恐怖を感じている」という子どももたくさんいるんです。そんな父親のことを、「毒父(どくちち)」と呼んでみます
父親が「毒」になるとは?
父親というのは家族の中で大きな存在ですよね。ときには厳しくも頼りになるイメージがある一方で家に帰ってきたときの父親の機嫌次第で、家の空気がピリピリしたり一気に暗くなったりすることもあるでしょう。もしその父親が家族を苦しめるほどの言動をするなら、それは子どもにとって“毒”になってしまいます
家族を支え守るはずの父親の態度が、子どもにストレスや恐怖を与えるものになっている。この状態こそが、いわゆる「毒父」と言えるのです
毒父と毒母のちがい父親ならではの特徴
体格的・力の面での恐怖
父親は母親に比べて体が大きかったり、声が低くて迫力があることが多いですよね。そのため子どもにとっては「お父さんが怒っている」というだけで大きなプレッシャーを感じがちです。もし暴力や激しい怒鳴り声が日常的にあったら、それだけで子どもは萎縮(いしゅく)し自分の意見を言えなくなります
“外ではいい人”のギャップ
毒父のなかには外(会社や地域の集まり)ではとても評判が良く家の中ではまったく違う態度をとる人がいます。外面(そとづら)は笑顔で優しいのに、家に帰ると無口で不機嫌、もしくは怒りっぽい…。家族だけが知っている顔が“本当の顔”だとすれば子どもは「誰にも相談しても信じてもらえないかも」と感じてしまいます
経済力・権威(けんい)をかさに着る
一般的に家族の生活を支えるために稼いでいるのがお父さん、というイメージを持つ家庭が多いかもしれません。そうすると一部の毒父は「俺が稼いでやっているんだ」という態度を取りがちです。権威を振りかざして家族を支配しようとするのも毒父の特徴の一つです
毒父によくある特徴
ここからは毒父が子どもに対してどんな言動をするのか、いくつかのポイントにわけて説明していきます。「あれ、うちのお父さんにも当てはまるかも…」と思ったら、あなたが悩んでいることは決して小さい問題ではないかもしれません
暴力や暴言が日常化
- ちょっとしたミスで手が出る
たとえば勉強でミスをした家事の手伝いで失敗した、そんなときにすぐに殴る・蹴るなどの暴力をふるう父親。力の差が大きいだけに、子どもは抵抗できずに傷ついてしまいます - 言葉を投げつける
「役立たず」「お前なんかいらない」「生まれてこなければよかった」――こうした言葉の暴力は子どもの心に深い傷を残します。ときに、殴られるよりも言葉で否定される方がつらいと感じる子どもも多いのです。
感情の起伏(きふ)が激しく、家族を振り回す
毒父の中には家での機嫌がコロコロ変わる人もいます。仕事や外でのストレスを子どもに向けて発散するため、家に帰ってきた瞬間からピリピリしているなんてことも…。子どもは「お父さんの機嫌を損ねないように」とビクビクしながら過ごす羽目になります
育児や家事に協力しない
昔の価値観をそのまま引きずっている毒父は「家事は女(母)や子どもの仕事だ」と考えていることがあります。子どもの食事や世話に全く興味を示さず怒ったときだけ口を出す。「俺は仕事で疲れている」と言い訳して、一切何もしないまま家族を“管理”しようとするケースも毒父の一面です
“無視”や“無関心”という支配
暴言を浴びせるわけではなくても子どもが何を言っても無視する、一切関心を払わない父親もいます。こうした無視や冷たい態度は、子どもに「自分はいてもいなくても同じなんだ」と思わせ、自分の存在価値を見失う原因になります
また話しかけても適当にあしらわれるだけで「父親に認めてもらえない」「どうせ期待されていない」と感じる子どもは心がどんどん暗くなってしまいます
自分の価値観を押しつけて支配する
- “男らしさ”や“女らしさ”の押し付け
「男だったら泣くな」「女は家を守れ」などの古い考えを押し付ける父親がいます。子どもが自分らしく生きようとするのを認めず、「父親の理想」を強要(きょうよう)するのです - “偉そうな”説教やマウントをとる
子どもがどんなに正しい意見を言っても「お前は子どもだから知らなくていい」「俺のほうが人生経験がある」と決めつけて対等(たいとう)に話し合おうとしない。常に自分が“上”に立たないと気がすまないのが毒父の特徴です
子どもが受ける影響
毒父の元で育つ子どもは、日々大きなストレスを感じています。そのストレスは、ただ「イヤだな」で終わるものではなく、子どもの心や体にさまざまなダメージを残すことがあるのです
自己肯定感が下がる
「お前は役立たず」「何もできないくせに」という言葉を毎日浴びせられたら自信がなくなって当然ですよね。毒父に育てられた子どもは、自分の意見を言わないようになったり、何をするにも「どうせ無理だ」と思い込んだりしてしまいます
恐怖や不安が強くなる
家でリラックスできない状態がずっと続くと、子どもは四六時中おびえて暮らすことになります。夜眠れなくなったり集中力が落ちたり、外で友だちと楽しく過ごしていても「家に帰るのが怖い…」という気持ちが離れない場合もあります
攻撃的、または無気力になる
- 攻撃的になってしまう場合
父親に強く支配されている子どもが学校や友だちとの関係のなかで突然キレたり、暴力的になったりすることがあります。これは“家では言えない怒りや不満”を、ほかの場で爆発させている可能性もあります - 無気力になる場合
逆に「どうせ何を言っても無駄だ」とあきらめ何事にも関心を持てなくなるパターンもあります。部屋にひきこもりになったり趣味も興味も失ってしまうことがあるのです
心身症や体調不良
ストレスが限界を超えると頭痛や腹痛、めまいなどの体調不良としてあらわれることがあります。病院で検査しても「特に異常なし」と言われるケースが多いですが、実は心理的なストレスが原因だったりします
どうして毒父になるの?
父親の側にはどんな理由があって、毒父になってしまうのでしょうか。もちろん、何があっても暴力や暴言は正当化(せいとうか)できませんが、理解しておくことで「なぜこんな態度をとるのか」を冷静に考えるきっかけになるかもしれません。
自分も毒父に育てられた
親が毒父だったり、もしくは子どものころに厳しすぎるしつけを受けた父親は、「それが当たり前」と思いこんでしまうことがあります。自分が子どもの頃にできなかったことを、自分の子どもに過剰に期待するケースもあります
社会的ストレス・プレッシャー
「男は家族を養わなければならない」「父親は強くあるべき」というプレッシャーに押しつぶされて、家に帰ると爆発する父親もいます。仕事での疲れや上司からの叱責(しっせき)を家で子どもにぶつける、というのも典型的な毒父のパターンです
コミュニケーションが苦手
毒父の中には、本当は子どもを愛していても「どうやって話しかけたらいいかわからない」「素直に接するのが恥ずかしい」という人もいます。その結果、ぶっきらぼうな態度や怒りっぽい態度でしか家族に近づけないのです
アルコールやギャンブルなどの依存
お酒を飲むと別人のように暴力的になる父親もいます。アルコール依存やギャンブル依存の問題を抱えた父親だと日常的に金銭トラブルや家族への暴力が起こりやすくなります。子どもは常に「今日は大丈夫かな?」と不安を抱えながら暮らすことに
Q&A:毒父に関するよくある疑問
Q1. お父さんを嫌いになったり恨んだりするのは悪いこと?
A. 親だからといって無条件に好きにならなければいけないわけではありません。あなたがひどい扱いを受けているなら「嫌だ」と思うのは当然の感情です。自分の気持ちを責めすぎず、一度受け止めてあげてください
Q2. 「うちの父親が毒父かも」って誰かに言うのが怖い。
A. たしかに、家のことを外に言うのは「裏切り」のように感じるかもしれません。しかし、もしそれであなたが救われるなら、決して悪いことではありません。勇気を出して話してみたら案外理解してくれる人はいるものです
Q3. 父親が変わることはあるの?
A. 難しい場合もありますが可能性はゼロではありません。お父さんが自分の問題に気づき、「このままではダメだ」と思えば、変わるために努力することができるかもしれません。ただし、子どもだけではどうにもできない部分が多いので外部の助けを求めることも大切です
将来、同じような父親にならないために
毒父に育てられた子どもは、大人になってから「自分も同じような父親になってしまうんじゃないか」と不安を抱く人が多いです。でも、いまから心がけておくことで、毒父の連鎖を断ち切ることはできます
親の行動が“当たり前”ではないと認識する
いま自分の父親が「こういうのは普通じゃないかも…」と思えているなら、それはすでに第一歩。自分の家がすべての基準になってしまうと将来同じ態度をとってしまう可能性が高くなります。反面教師として、よくないところをしっかり覚えておきましょう
“自分を責めない”練習
子どものころ、父親に「役立たず」と言われ続けていた人は、成長しても自分を責めるクセが抜けないことがあります。それがイライラの元になり子どもへの当たりがきつくなるパターンもあります。まずは自分を大切にしようとする気持ちが悪循環を断ち切るカギになります
健全なコミュニケーションを学ぶ
「怒鳴る以外の伝え方がある」ことを知るのは大切です。周りの人の会話の仕方や、テレビ・本などで「どうやって意見を伝えるのか」を観察してみてください。将来父親になったときに、その方法を活かすことで、怒鳴ったり暴力をふるったりしなくても自分の気持ちを伝えられるようになります
おわりに
毒父のもとで育つのは、とても苦しくつらいことだと思います。「家に帰るのが憂うつ」「お父さんの足音が聞こえるとドキッとする」――そんな毎日を送っている人も、決して少なくありません。けれど、あなたが悪いわけではありません。たとえ父親でも子どもを傷つける行為をしていい理由にはならないのです
もし「これってうちの父親に当てはまるかも」と思ったら、まずは「自分は本当はどう感じているのか」を大事にしてください。怖い、つらい、もうイヤだ――そう思う気持ちにフタをしないであげてほしいんです。そして、できるかぎり誰かに助けを求めてください。あなたが自分の安全を守りながら生きられるよう、世の中にはいろんなサポートや相談窓口があります
「お父さんだからこそ、尊敬したいし仲良くなりたい」という気持ちと、「こんな父親なんてもう嫌だ」という気持ちが混ざり合って、モヤモヤするかもしれません。どちらの気持ちもあなたの“正直な感情”なので、否定しなくて大丈夫。つらいときには、まわりの大人や友だち、相談機関などを頼って、安全で落ち着ける方法を探してください。あなたが苦しむ必要は、どこにもないのです
自分の未来のために、そしてもし将来父親になったときに同じような態度をとらないためにも、ぜひ、いまの苦しい状況を一人で抱えないでいてほしいと思います。あなたは大切にされるべき存在であり、誰かに話す権利があります。負の連鎖を断ち切るのは簡単ではないかもしれませんが、気づいたときから一歩ずつ変わっていくことは必ずできます。どうかあきらめず自分を大切にしてくださいね

