ダンブルドアの妹に何があったの?

ダンブルドアの妹に何があったの?

兄たちも止められなかった少女の運命

アリアナ・ダンブルドア。彼女の名前をはじめて耳にしたとき、どれほど多くの読者がその存在に胸をしめつけられたでしょうか。彼女はアルバス・ダンブルドアの妹。そしてその死は、彼の心に一生消えない痛みを残しました。けれどその死の真相は、作中では最後まで「はっきり」語られることがありませんでした。ほんの少しずつ、物語のなかであぶり出されるように見えてくる真実――。その断片を集めて見えてくるのは、「魔法界が守れなかったひとりの少女」と、「それに人生を狂わされた兄たちの話」でした。

小さな女の子に起きた、たった一度の悲劇

アリアナがわずか6歳のとき。彼女の身に、取り返しのつかない出来事が起こりました。近所に住むマグルの少年たちが、魔法を使う姿を偶然見てしまった彼女を「化け物」だと決めつけ、寄ってたかって襲ったのです。理由は、「怖かったから」。それだけ。彼女が何かしたわけじゃない。誰も傷つけていない。それなのに――その日を境に、彼女は心を閉ざし、魔法を自分のなかに押し込めてしまいます。

本来、魔法は感情と強くつながっています。怖い気持ち、怒り、悲しみ――それが暴走したとき、人間は自分の魔法を制御できなくなるのです。アリアナの場合も、心が壊れていくなかで、魔法もどんどん制御できなくなり、時に爆発するように周囲に害を与えてしまうようになりました。

彼女が「オブスキュラス(Obscurus)」だったかどうかは、作中では明言されていませんが、『ファンタスティック・ビースト』で描かれたオブスキュラスの症状と、アリアナの状態は非常によく似ています。心に深い傷を負った子どもが魔力を自ら押し殺し続けたとき、それはやがて“実体を持った破壊衝動”として暴れる――まさに、アリアナが経験した地獄でした。

アルバスの「失敗」とグリンデルバルドとの関係

アリアナの運命に大きな影響を与えたのは、もちろん兄アルバスです。アルバスはホグワーツを首席で卒業し、期待される若き天才魔法使いでした。でも、父はアズカバンに入れられ、母はアリアナの看病の中で命を落とします。残された兄妹3人――アルバス、アバーフォース、アリアナ。家族を支える責任を背負いながら、アルバスはまだ若く、理想ばかりを追い求めていました。

そこへ現れたのが、ゲラート・グリンデルバルド。アルバスと同じように天才で、野望をもち、「より大きな善のためなら犠牲は仕方ない」と考える人物。2人は激しく惹かれあい、未来の魔法界を変える夢を語り合いました。アリアナの存在が、彼らの理想のなかでは「足かせ」になってしまったことは否定できません。

アバーフォースはそれを見抜いていました。妹のことを「夢の邪魔だ」と思っている兄たちに怒り、ついにグリンデルバルドに対して直接怒りをぶつけます。――そして、悲劇はそこで起きました。

誰が引き金を引いたのか、永遠に分からない

3人の間で起きた決闘。アルバス、アバーフォース、グリンデルバルド。その最中、アリアナが何らかのかたちで巻き込まれてしまい、命を落とします。

誰の呪文が彼女を殺したのか。アルバスにも分からなかった。だからこそ、彼はその後の人生で「鏡の前」に立つことも、「権力を持つこと」も恐れ続けたのです。彼があれほどまでに慎重で、自分の心に正直になれなかったのは、アリアナの死を自分の罪だと考えていたから――。

小説の中でもアルバスはそれをはっきり言っています。あのとき、アリアナは自分のせいで死んだ。自分がすべてを止められたはずだったのに。

この死は、ハリーがホグワーツの「選ばれし子」として生きる決意を固めるきっかけでもあります。ダンブルドアは「人は完璧じゃない」ということを、彼自身の過去で見せてくれた。そして、誰かを救おうとした結果として、逆に失うこともある。だからこそ、ハリーは「誰かを守る」ために、より慎重に、より真剣に動くようになるのです。

『呪いの子』が再び照らし出した、アリアナの影

『ハリー・ポッターと呪いの子』ではアリアナの話が直接的に出てくる場面は少ないですが、それでも彼女の存在が物語の根底に生きていることは確かです。

特に印象深いのは、「時間をいじること」がどれほど危険か、というテーマです。もしアリアナを救える過去があったら? アルバスが、妹の死を止められたら? でも、そうした願いは、物語のなかで厳しく拒まれています。人は過去を変えることはできない。だからこそ、その後をどう生きるかが大事なのだと。

アルバス・ダンブルドアが、自分の過去を消すことも、正すこともできなかったことは、アリアナの死と向き合ってきた彼の人生そのものでした。『呪いの子』は、その痛みと、過去を抱えながらも未来を信じる姿勢を、次の世代に伝えているのです。