マートルはなぜ幽霊になったの?

マートルはなぜ幽霊になったの?

最初に浮かんだのは「かわいそう」って気持ちだった

嘆きのマートル。あのトイレに住んでて、すぐ泣いて、ちょっとひねくれてる女の子の幽霊。ハリーたちが使う秘密の通路や、バジリスクの事件のカギになる場所にいるから、物語の中で結構大事な役なんだけど、ちゃんと彼女のことを考えると、実はすごく重いテーマが隠れている気がするの。

マートルが死んだのは13歳のとき。死因はバジリスクのまなざし。でも、そこだけを見るんじゃなくて、なんで彼女が「この世にとどまる」という選択をしたのか、つまり、なんで成仏せずに幽霊になったのかって考えると、彼女の心の中にどれだけ強い未練や悲しみ、怒りがあったのかが見えてくるんだよね。

原作ではさらっと描かれてるけど、実はすごく根深い

『秘密の部屋』で明かされる彼女の死の真相は、なんともやりきれない内容。彼女は、いじめっ子のオリーブ・ホーンビーに嫌がらせをされて、泣きながら女子トイレに隠れた。でもそのとき、バジリスクの声を聞いて、出ていこうとしたところで殺されてしまった。しかも彼女の死は誰にも本当には理解されず、記憶の中にさえほとんど残らなかった。

死んだ後、彼女はオリーブ・ホーンビーをずっとつけ回して、嫌がらせをするようになる。結果として、ホーンビーが魔法省に訴えて、マートルはホグワーツのトイレに閉じ込められる。…ね?これって、すごくやりきれないでしょ? 死んでもなお、心は癒えてないんだよ。むしろ、もっと傷ついてる。

つまり、彼女が幽霊になった理由って、「自分の気持ちが誰にも届かなかった」ってことと、「まだ終わってない、まだ言いたいことがある」っていう未練なんじゃないかな。死ぬときにそう思っていたら、魔法世界では幽霊になる可能性があるんだよね。ベンズ先生とかもそうだし。

『死』と『幽霊』というテーマの中に、J.K.ローリングの思いがある

J.K.ローリングがハリー・ポッターシリーズで一貫して描いているのは、「死と向き合うことの大切さ」と「喪失から立ち直る力」だと思う。ハリーの両親、セドリック、シリウス、ダンブルドア、ドビー、そしてスネイプ…。どの死にもそれぞれの意味があって、それをどう受け止めるかが、ハリーの成長と深く関わってる。

でも、マートルの死はちょっと異質。彼女は“受け止める”ことができなかった。死んでもなお、誰かに気づいてほしかった。無視されてきた日々、誰にも愛されず、評価されず、いじめられて、最後は誰にも看取られずに死んでいった彼女の人生は、まさに「置き去りにされた子ども」の象徴なんだよ。

ローリングは、インタビューの中でこう話していたことがあるの。「幽霊になるのは、心残りの強さ。魔法で魂をつなぎとめてしまうほどの感情がある場合、死んでもこの世に残ってしまう」と。これは『死の秘宝』の中でニックが説明してくれてる内容とも一致するね。

だから、マートルは成仏できなかった。心のどこかで、「私の人生、これで終わりなんて納得できない」って叫んでいた。その叫びが、ホグワーツのトイレに響き続けてるんだよ。

映画では少しだけ見える、彼女の“子どもらしさ”

映画版でのマートルの描かれ方は、ちょっとユーモラスに見える部分もある。ハリーに色目を使ってるように見えるシーンとか、ロンとハリーに対してちょっとお節介な言動を見せる場面。でも、その奥にあるのは「まだ思春期の少女の心が、そのまま時間に閉じ込められてる」という哀しさだと思う。

だって彼女は、永遠に13歳なんだよ。成長もできないし、大人にもなれない。恋だって、想像の中でしかできない。生きてたら、きっと普通の女の子として過ごせたかもしれないのに、運命はそうさせてくれなかった。これは、物語の中にそっと埋め込まれた、ものすごく静かで、でも鋭い悲劇なんだよね。

マートルはなにを思って幽霊になったのか?

―「成仏したくない」って、どういう気持ちだったんだろう?

マートルが亡くなった瞬間、ただの死じゃなかった。ただの事故死じゃない。彼女にとっては、自分がどんなふうに生きてきて、どれだけ誰にも必要とされなかったか、それを思い知らされたまま終わってしまった人生だった。そんな人生を「よし、これで満足。もう行こう」って思えるわけがないよね。

彼女は、明らかに怒ってた。悔しくて、悲しくて、自分の存在が軽んじられてきたことが許せなかったんだと思う。「あんなことで死ぬなんて」「私のことを誰もちゃんと見てくれなかった」って、ずっと叫んでたんだと思う。でも、その叫びは誰にも届かない。だからこそ、幽霊になった。

これって、すごく人間らしいと思わない? 死んでなお、人に分かってほしい、理解してほしい、気づいてほしいって思い続けること。ローリングは、その「しがみつく心」の切なさをマートルというキャラクターにすべて込めたんじゃないかと思う。

「いじめられてたから」「報われなかったから」じゃなくて

マートルの死をただの“いじめの犠牲者”として見てしまうのは、たぶん浅い。もちろん、彼女はいじめられてた。魔法界でも、女の子同士の意地悪はある。メガネをからかわれたり、容姿のことを笑われたり、それがどれだけ彼女の心をえぐっていたか、わたしたちは想像するしかないけれど、想像すればするほど胸が詰まる。

でもね、それだけじゃ幽霊にはならないと思う。マートルが幽霊として残ったのは、もっと奥深い「認めてもらえなかった自分」に対する怒りや、存在を無視され続けた孤独があるから。いじめよりももっと根深い、「誰にも愛されなかった」「必要とされなかった」っていう感情があったんじゃないかな。

それって、わたしたちにも少しは分かるよね? 学校や友だちの中で、自分だけが浮いてる感じ、話を聞いてもらえない感じ、無視されたときのあの冷たさ。大人になったら忘れるって言うけど、本当は忘れてない。その痛みを、彼女は死んだ後も引きずってたんだよ。

ハリーと話すとき、ちょっとだけ心がほどけてる

『炎のゴブレット』で、ハリーが卵の謎を解こうとトイレに来たとき。マートルが水中でひとり浮かんでて、静かに話しかけるシーンがある。あの時のマートルは、いつもよりちょっとだけ穏やかだった気がする。「誰かが自分の話を聞いてくれる」っていう経験が、彼女の心を少しだけ癒してたんじゃないかな。

もちろん、ハリーへの気持ちは半分は冗談、でも半分は本気。好きっていうより、「誰かにやさしくされたい」っていう思いがすごく出てたと思う。ハリーが自分に話しかけてくれた。無視しないで、ちゃんと目を見てくれた。そのことが、彼女にとっては、どんな魔法よりも強くて温かかったんじゃないかな。

そして、そんなちょっとしたぬくもりさえ、マートルには「一瞬」しか許されなかった。それがまた切ないよね。

―なんで女子トイレにとどまりつづけたんだろう?

ホグワーツの北側、使用禁止になってる女子トイレ。そこが、マートルがずっととどまり続けている場所だよね。原作でも映画でも、このトイレに入った生徒たちはまず「やば…あの幽霊がいる…」って顔をする。つまり、みんなマートルがそこにいることを知ってるし、避けてる。

でも、マートルにとってはそこが「自分の居場所」なんだよね。どうして、彼女はあの場所から離れなかったんだろう? どうして、他の幽霊みたいにホールを自由に浮遊したり、談話室に現れたりしないんだろう?

それはたぶん、彼女にとって「最後に自分が自分でいられた場所」だからだと思う。

死んだ場所だから、じゃない

もちろん、彼女があのトイレで殺されたのは事実。でも、死んだ場所だからってそこに幽霊が必ず残るわけじゃない。ニック(ほぼ首なしニック)や血まみれ男爵、灰色のレディみたいに、幽霊たちはけっこう自由に城内を動いてるよね。

じゃあなぜマートルだけ、あそこにこだわったのか。それはやっぱり、「逃げ場」だったからなんだよ。

マートルは、生きていたときにいつも傷つけられていた。笑われて、からかわれて、バカにされて…誰にも味方がいなかった。そんな中でトイレだけは、唯一ひとりになれる場所だった。泣いてても誰も見ないし、誰にも責められない。たとえ孤独でも、そこだけは「自分を守れる空間」だったんじゃないかな。

死ぬ直前、彼女はまたいじめられて泣いてた。そして、トイレに逃げ込んだ。そこが唯一の避難所だったのに、そこで命を奪われてしまったんだよね。

だからこそ、彼女はそこから動けない。動きたくない。逃げ込んだ先で、人生が終わったからこそ、「自分の時間が止まった場所」にしがみついてる。これはすごく痛々しくて、でも人間らしい感情だと思う。

追い出された経験が、執着に変わったのかも

実は彼女は一度、あのトイレを離れてる。死んだ直後、オリーブ・ホーンビーにつきまとって復讐しようとした。でも魔法省が動いて、マートルはホグワーツに“強制送還”されちゃうんだよね。

これって、彼女にとっては「また居場所を奪われた」って感覚だったんじゃないかな。ただでさえ誰にも理解されない人生だったのに、死んでからも「勝手な判断で追い払われる」。そんな人生だったからこそ、次に与えられた“場所”にしがみついた。

「ここだけは私の場所」って思い込みでもいい、たとえ誰も近寄らなくてもいい、誰にも迷惑をかけないなら、もうこれ以上自分をどこにも追いやらないで…って、そんな叫びが女子トイレには詰まってる気がする。

それは、“居場所を失い続けた子ども”の最後の砦。マートルにとっての「わたしの部屋」だったんだよね。

『呪いの子』のマートルは変わった?

―幽霊になった意味、今さらだけど考えてみたくなる

『呪いの子(The Cursed Child)』でマートルがまた登場したとき、なんだかちょっとホッとした人、多いんじゃないかな。「あ、まだいたんだ」って。もちろん彼女は幽霊だから、時間が流れても変わらない存在。でも、その“変わらなさ”が、逆にマートルの姿をものすごく浮き彫りにしてた気がする。

彼女は、シーンの中ではアルバスやスコーピウスに対して、ちょっと親しみをもった態度を見せる。特にスコーピウスに対してはやわらかく話しかけてて、どこか楽しそうにさえ見える。

一瞬だけど、「あれ、マートルちょっと元気そう?」って感じるんだよね。『秘密の部屋』や『炎のゴブレット』のときのあの重たさとは、少し違う。だけど、だからこそ逆に気づく。

彼女はやっぱり、誰かが来てくれて話をしてくれると、ほんの少しだけ“生き返る”んだ。誰かが関わってくれることで、幽霊でも、「わたしって生きててもよかったのかな」って思える瞬間があるのかもしれない。すごくせつないけど、それがマートルの希望なんだと思う。

幽霊でいることの意味って、なんだろう?

魔法界では、死後に幽霊になることは「選択」だとされてる。これはシリーズ全体を通して語られてる設定で、『死の秘宝』でもニックがそのことを話してくれる。

彼いわく、「怖くて前に進めなかった者たち」が幽霊になるんだって。だからニック自身も、「もっと勇敢だったら死後の世界に行けたのに」って少し後悔してるふうだった。

じゃあマートルはどうだったのか。彼女は“怖かった”というより、「納得できなかった」んじゃないかな。「死にたくなかった」ってよりも、「こんな終わり方、イヤすぎる」っていう、どうしようもない怒りと、寂しさと、無力感と…いろんな気持ちがぐちゃぐちゃになってて、それが彼女の魂をこの世界につなぎとめてしまった。

『呪いの子』の中でも、彼女は成仏してない。時間は過ぎても、彼女はそこにいるまま。でもそれって、ずっと過去に置いていかれた子どもが、まだ誰かに振り向いてほしいって願ってるってことじゃないかな。

「わたしはここにいるよ」って。

誰にも必要とされなかった彼女が、誰かにとっての“思い出”としてほんの少しでも残ることで、幽霊でいることがほんの少しだけ、意味をもつ。そう思ったら、なんだか彼女の涙の理由が、ちょっとだけ分かる気がしてくる。

幽霊でい続けることが、彼女の選んだ“抗議”だったのかも

もしかしたら、彼女は“幽霊として生きること”を、ひとつの「拒絶」として選んだのかもしれない。「こんな世の中、わたしは納得してない」「誰にも理解されないまま死んでたまるか」「いなくなってやるもんか」って。

それって、ただの怖がりとか、未練とは違う。「わたしはここに残る。だって、まだ伝えたいことがあるんだもん」っていう、強さの表れでもある。

ローリングがマートルというキャラクターを最後まで消さなかったのは、そういう意味もあるのかもしれない。「ただかわいそうな幽霊」じゃなく、「この世界に傷ついたまま残された声の象徴」として。

そして、私たちはその声を、今も忘れずに聞いてあげるべきなんだと思う。