【完全版】迷惑メールよ、さようなら。今日から始める本気の迷惑メール対策
今日も元気に届く迷惑メールの数々、皆様いかがお過ごしでしょうか。もはや業務の一部として、その仕分け作業に貴重な時間を奪われてはいませんか。単なる宣伝ならまだしも、最近では本物と見分けがつかない巧妙な詐欺メールも横行し、受信トレイはさながら地雷原の様相を呈していることでしょう。
「完全にブロックしたい」その気持ち、痛いほど理解できます。しかし残念ながら、迷惑メールとの戦いは、根絶を目指すというより、いかに優位に立ち、被害を未然に防ぎ続けるかという、終わりのない知的ゲームに近いのかもしれません。
【心構えと基礎知識】 すべての対策の土台となる考え方
対策を講じる前に、まずは敵、つまり迷惑メールの本質を理解することから始めましょう。なぜ彼らはこれほどまでに執拗なのか。その背景を知ることで、対策の重要性がより明確になるはずです。
迷惑メールはなぜ、なくならないのか
実にシンプルな話で、そこに利益が生まれるからです。迷惑メールの送信者は、決して暇つぶしでメールを送っているわけではありません。彼らにとっては、これも一つの「ビジネス」なのです。
数百万、数千万という単位でメールをばらまけば、そのうちのほんの数パーセント、いえ、0.01%でも反応する人がいれば、十分に元が取れてしまう。フィッシング詐欺で認証情報を一つでも盗めれば、あるいはランサムウェアに一台でも感染させられれば、そのリターンは計り知れないものとなります。
送信コストは限りなくゼロに近く、成功した際のリターンは大きい。この非対称な収益構造こそが、迷惑メールがなくならない根本的な理由と言えるでしょう。私たちが迷惑メール一通に感じる「迷惑コスト」など、彼らの知るところではないのです。
あなたのメールアドレスは、もはや公共財産かもしれない
「このメールアドレスは誰にも教えていないはずなのに…」そう思った経験はありませんか。残念ながら、一度インターネットの海に放たれたメールアドレスは、あなたが思う以上に様々な経路で収集され、売買されています。
ウェブサイトからの漏洩
過去に登録したオンラインショップやフォーラム、SNSなどがサイバー攻撃を受け、登録情報がごっそり盗まれるケース。これは最も一般的で、防ぎようのない漏洩経路の一つ。
名簿業者による売買
合法、非合法を問わず、様々なルートで収集された名簿が出回っています。アンケートへの回答や懸賞への応募が、結果的にあなたの情報を売り渡す行為になっている可能性も否定できません。
プログラムによる自動生成と検証
info@ support@ test@ といった一般的な文字列や、よくある人名とドメイン名を組み合わせて、無差別にメールを送信し、エラーにならなかったアドレスを「有効」としてリスト化する手法。あなたの意思とは無関係に、アドレスの存在が確認されてしまうのです。
もはや、メールアドレスは「秘匿すべき個人情報」というより、「ある程度は公開されてしまうもの」と認識を改めた方が、精神衛生上も、対策を考える上でも、現実的かもしれません。
迷惑メールの主な分類
「迷惑メール」と言っても、その目的や手口は様々。代表的なものを知っておくことは、適切な対処に繋がります。
- 広告・宣伝メール商品やサービスの宣伝を目的とした、古典的なスパムメール。内容は多岐にわたりますが、多くは興味のない情報を一方的に送りつけてくるものです。
- フィッシング詐欺メール実在する銀行、クレジットカード会社、大手IT企業などを装い、偽のウェブサイトへ誘導し、ID、パスワード、クレジットカード情報などの重要な個人情報を盗み出すことを目的とした、極めて悪質なメール。年々その手口は巧妙化し、本物との見分けが困難になっています。
- マルウェア感染型メールWordやExcel、PDF、ZIPファイルなどを添付し、開かせることでウイルスやランサムウェアに感染させることを目的とするメール。「請求書」「注文確認書」など、業務に関係ありそうな件名で送られてくることが多く、特に企業にとっては深刻な脅威です。
- 標的型攻撃(スピアフィッシング)メール特定の企業や組織、個人を狙い撃ちにする、オーダーメイドの迷惑メール。事前にターゲットの情報を入念に調査し、業務上のやり取りや同僚、取引先を装うため、非常に騙されやすいのが特徴。企業の機密情報窃取などを目的とします。
これらの分類を念頭に置き、次の章から具体的な対策を見ていきましょう。
【個人・初心者向け】今日からできる、即効性のある防御術
まずは、特別な知識やツールがなくても、意識と少しの工夫で実践できる基本的な対策です。これを徹底するだけでも、迷惑メールの量は大きく変わってくるはず。
メールの「公私混同」が招く悲劇
最も簡単で、そして最も効果的な対策の一つが、メールアドレスの使い分けです。すべての連絡を一つのメールアドレスで済ませてしまうのは、家の鍵一本で玄関も金庫も車も開け閉めするようなもの。非常に危険です。
最低でも、以下の3つに使い分けることを強く推奨します。
- メインアドレス(仕事・重要連絡用)取引先との連絡、公的な手続き、金融機関とのやり取りなど、信頼できる相手とのコミュニケーションに限定して使用するアドレス。このアドレスは、ウェブサイトなどで絶対に公開しないこと。名刺交換など、対面で信頼できる相手にのみ伝えましょう。
- プライベートアドレス友人や家族など、親しい間柄での連絡に使うアドレス。こちらも、むやみに公開すべきではありません。
- 登録用アドレス(捨てアド)オンラインショッピング、SNS、各種ウェブサービスへの登録、メルマガ購読、資料請求など、少しでも情報の信頼性に疑問がある場合や、一時的にしか使わないサービスに利用するアドレス。このアドレスは、ある意味で「汚れても良い」アドレスと割り切ることが肝心です。
GmailやYahoo!メールなどのフリーメールサービスを複数取得すれば、コストをかけずに実践できます。この使い分けを徹底するだけで、重要なメインアドレスが迷惑メールのリストに載るリスクを劇的に低減できるのです。
「捨てアド」を制する者は、迷惑メールを制す
前述の「登録用アドレス」は、俗に「捨てアド」と呼ばれます。この捨てアドの活用こそ、現代のインターネット社会を賢く生き抜くための必須スキルと言えるでしょう。
捨てアドのメリットは計り知れません。
- 漏洩時の被害を限定仮に登録したサービスから情報が漏洩しても、被害はその捨てアドだけに限定されます。メインアドレスやプライベートアドレスは安全なまま。
- 迷惑メールの隔離サービスからの宣伝メールや、漏洩によって届き始めた迷惑メールは、すべてこの捨てアドの受信トレイに集約されます。重要なメールが埋もれてしまう事態を防げるのです。
- 不要になったら破棄あるサービスを使わなくなった、あるいは特定の捨てアドへの迷惑メールが手に負えなくなった場合は、そのアドレスごと破棄してしまえば良いのです。実にシンプル。
最近では、10分間だけ使える一時的なメールアドレスを発行してくれるウェブサービスも存在します。一度きりの会員登録などには、こうしたサービスを利用するのも一つの手でしょう。
そのクリック、本当に大丈夫?
迷惑メールの多くは、受信者に何らかのアクション、特に「クリック」をさせることを目的としています。したがって、メール内のリンクや添付ファイルを安易にクリックしない、という習慣を身につけることが、被害を防ぐ上で決定的に重要となります。
メールを受け取ったら、クリックする前に一瞬立ち止まり、自問自答する癖をつけましょう。
- 送信元アドレスは本当に正しいか?表示されている送信者名(例「Amazon.co.jp」)に騙されてはいけません。必ず、info@amazon.co.jp のような実際のメールアドレスを確認する。amazon-security@mail.com のように、ドメイン部分が本物と少しでも違えば、それは偽物です。
- 日本語に不自然な点はないか?「あなたのアカウントがロックされ」「至急、確認してください」といった、不自然な敬語や句読点の使い方、誤字脱字は、海外の攻撃者が翻訳ソフトを使って作成したメールによく見られる特徴です。
- 過度に緊急性や不安を煽っていないか?「24時間以内に対応しないとアカウントが永久に削除されます」といった文面は、受信者の正常な判断力を奪うための典型的な手口。冷静に対処することが求められます。
- リンク先のURLは正しいか?リンクにマウスカーソルを合わせると、実際の飛び先URLが表示されるはずです(PCの場合)。表示されたURLが、本文に書かれているものと一致しているか、見慣れないドメインではないかを確認しましょう。
少しでも怪しいと感じたら、クリックは絶対にしない。そのメールに書かれている内容が本当かどうか気になる場合は、メール内のリンクからではなく、いつも使っているブックマークや検索エンジンから、公式サイトにアクセスして確認する。この一手間が、あなたのアカウントと資産を守ります。
親切そうな「購読解除」リンクの裏の顔
迷惑メールの中には、末尾に「今後の配信を希望されない方はこちらから」といった、一見親切な購読解除リンクが記載されていることがあります。
しかし、ここに大きな罠が潜んでいる可能性を忘れてはいけません。悪意のある送信者にとって、この「購読解除」クリックは、以下のような情報を与える絶好の機会なのです。
- 「このメールアドレスは、現在もアクティブに使われている」
- 「このアドレスの持ち主は、メールをきちんと読んでいる」
この情報を与えてしまうと、あなたのメールアドレスは「価値のあるアクティブなアドレス」として認識され、さらに多くの迷惑メールが送られてくるようになったり、他の業者に高値で売られたりする可能性があります。親切心でクリックした行為が、結果的に被害を拡大させるという、何とも皮肉な結果を招くのです。
では、どうすれば良いのか。
- 身に覚えのないメールの購読解除リンクは、絶対にクリックしない。
- 自身で登録したと確信が持てる正規の企業からのメールマガジンであれば、購読解除リンクは安全に機能します。
見極めが難しい場合は、「触らぬ神に祟りなし」の精神で、リンクはクリックせず、後述する迷惑メールフィルター機能で報告・削除するのが最も安全な対処法です。
お使いのメールソフト、その標準機能を見直す
Gmail, Outlook, Yahoo!メールといった主要なメールサービスには、非常に優秀な迷惑メールフィルターが標準で搭載されています。これらの機能を最大限に活用しない手はありません。
- 「迷惑メールを報告」機能を積極的に使う受信トレイに届いてしまった迷惑メールは、ただ削除するのではなく、「迷惑メールとして報告」(サービスによって名称は異なります)ボタンを押しましょう。この操作は、単にそのメールを迷惑メールフォルダに移動させるだけではありません。あなたの報告は、メールサービスのAI(機械学習モデル)にフィードバックされ、「このような特徴を持つメールは迷惑メールである」という学習データとして蓄積されます。つまり、あなたが報告すればするほど、AIは賢くなり、将来的には同様の迷惑メールが自動で振り分けられるようになるのです。これは、あなた一人のためだけでなく、全ユーザーのためにもなる、ささやかで偉大な貢献と言えるでしょう。
- 送信者やドメインを指定してブロックする特定の送信者から繰り返し迷惑メールが届く場合、そのメールアドレスや、@example.com のようなドメイン全体を受信拒否リストに登録する機能も有効。ただし、送信者はアドレスを次々に変えてくるため、これはあくまで対症療法的な側面が強いかもしれません。
- 逆に「セーフリスト」を活用する重要な取引先からのメールなどが、誤って迷惑メールフォルダに振り分けられてしまうことがあります。これを防ぐため、「この送信者からのメールは常に受信トレイに表示する」といったセーフリスト(信頼できる差出人のリスト)に登録しておくと安心です。
まずは、お使いのメールソフトの設定画面を一度じっくりと眺めてみてください。あなたがまだ使っていない便利な機能が、きっと見つかるはずです。
【企業・組織向け】個人技から組織戦へ移行する
個人の対策は重要ですが、企業や組織となると、それだけでは不十分。一人の従業員のうっかりミスが、組織全体に甚大な被害をもたらす可能性があるからです。ここでは、組織として取り組むべき対策を解説します。
最大の脆弱性は「人」、社員教育という名のワクチン
どれほど強固なセキュリティシステムを導入しても、それを扱う「人」の意識が低ければ、いとも簡単に突破されてしまいます。サイバー攻撃の世界では、しばしば「最大の脆弱性は人である」と言われるのはこのためです。
特に、前述した標的型攻撃メールは、従業員一人ひとりの警戒心が最後の砦となります。したがって、定期的かつ実践的なセキュリティ教育は、もはや企業の必須科目と言えるでしょう。
- 標的型攻撃メール訓練の実施実際にありそうな偽の標的型攻撃メールを従業員に送信し、誰が開封してしまったか、リンクをクリックしてしまったかを測定する訓練。これは、従業員の意識レベルを可視化し、具体的な改善点を見つける上で非常に効果的です。罰するためではなく、気づきを与えるための訓練として実施することが重要です。
- 最新の脅威に関する情報共有現在流行しているフィッシング詐欺の手口や、新たなマルウェアの情報を、社内で定期的に共有する体制を構築する。情報システム部門からの一方的な通達だけでなく、朝礼や社内報などを活用し、全社員が「自分事」として捉えられるような工夫が求められます。
- インシデント発生時の報告フローの徹底「怪しいメールを開いてしまった」「パスワードを入力してしまった」といった事態が発生した際に、それを隠さず、速やかに定められた窓口(情報システム部など)へ報告することを徹底させる。迅速な報告が、被害の拡大を防ぐ鍵となります。叱責を恐れて報告が遅れるような組織風土は、極めて危険です。
社員教育は一度やれば終わりではありません。攻撃手口は日々進化するため、継続的なアップデートが不可欠。いわば、組織全体で打ち続ける「情報セキュリティのワクチン」なのです。
セキュリティソフトは「入れて終わり」ではない
法人向けの総合セキュリティソフト(エンドポイントセキュリティ製品)やUTM(統合脅威管理)アプライアンスの導入は、基本的な防御策として当然検討されるべきです。これらの製品には、多くの場合、アンチスパム(迷惑メール対策)機能やアンチウイルス機能が含まれています。
しかし、重要なのは「導入したから安心」と考えるのではなく、その機能を最大限に活かすための適切な設定と運用です。
- 定義ファイルの自動更新を有効にするウイルスや迷惑メールのパターンを定義したファイルは、毎日、あるいは数時間おきに更新されます。この更新が止まっていては、最新の脅威に対応できません。自動更新が正常に機能しているか、定期的に確認しましょう。
- フィルタリングレベルの調整迷惑メールのフィルタリングレベルは、通常、複数段階で調整できます。レベルを上げすぎると、正常なメールまでブロックしてしまう「過検知」のリスクが高まり、業務に支障をきたす可能性があります。逆に、レベルが低すぎると、迷惑メールをすり抜けてしまいます。自社の業務内容やメールの特性を考慮し、最適なバランス点を見つけるためのチューニングが必要です。
- ログの監視と分析セキュリティ製品が出力するログには、どのような攻撃がブロックされたか、どの従業員が危険なサイトにアクセスしようとしたか、といった貴重な情報が記録されています。これらのログを定期的に監視・分析することで、組織が直面している脅威の傾向を把握し、より効果的な対策へと繋げることができます。
セキュリティソフトは、設置するだけの魔法の箱ではありません。その性能を最大限に引き出すためには、管理者の継続的な関与が不可欠なのです。
ゲートウェイ対策、入口で洪水を防ぐ
従業員のPCに届く前に、メールサーバーの入口(ゲートウェイ)で迷惑メールをブロックする。これがゲートウェイ対策の考え方です。社内に専用のアプライアンス機器を設置する方法と、クラウド型のメールセキュリティサービスを利用する方法があります。
クラウド型メールセキュリティサービスは、近年の主流となりつつあります。
- 導入・運用の容易さ自社でハードウェアを保有する必要がなく、DNSのMXレコード(メールの配送先を指定する情報)を変更するだけで、比較的簡単に導入できます。日々の運用やメンテナンスもサービス提供事業者に任せられるため、情報システム部門の負担を軽減できます。
- 高い検知精度サービス提供事業者は、世界中から膨大な量のメールデータを収集・分析しており、最新の脅威に対して迅速に対応する専門家チームを抱えています。そのため、個別の企業が独自に運用するよりも高い検知精度を期待できる場合が多い。
- BCP(事業継続計画)対策自社のメールサーバーがダウンした場合でも、クラウドサービス側でメールを一時的に保持してくれる機能(メールスプール)を持つものもあります。これにより、障害発生時でもメールを失うリスクを低減できます。
従業員一人ひとりの注意深さに依存するだけでなく、組織の入口で洪水をせき止めるダムを建設する。ゲートウェイ対策は、多層防御の観点から非常に重要な一手となります。
【上級者・管理者向け】技術で迷惑メールの根源を断つ
さて、ここからはより技術的な側面に踏み込みます。主に企業のメールサーバー管理者や情報システム担当者が対象となりますが、これらの技術を理解することは、迷惑メール対策の全体像を把握する上で、個人の皆様にとっても有益な知識となるでしょう。
これらの技術の多くは、「なりすましメール」を防ぐことを主眼としています。フィッシング詐欺や標的型攻撃の多くが、送信元を偽る「なりすまし」によって行われるため、これを技術的に見破る仕組みは、現代の迷惑メール対策の根幹をなすものです。
送信ドメイン認証(SPF・DKIM・DMARC)という三種の神器
迷惑メール対策の技術的な議論において、必ず登場するのが SPF, DKIM, DMARC の三つです。これらは、送信元のドメインが正当なものであることを証明するための技術であり、いわば「メールの身分証明」の仕組み。自社が送信するメールが正当なものであることを証明し、他社になりすまされることを防ぐ「送信側」の対策と、受信したメールがなりすまされていないかを確認する「受信側」の対策、両方の側面を持ちます。
1. SPF (Sender Policy Framework) 送信サーバーの身分証明
SPFは、「私のドメイン(@example.co.jp)からのメールは、このIPアドレス(192.0.2.1など)を持つサーバーからしか送りませんよ」という宣言を、ドメインのDNSサーバーにTXTレコードとして公開しておく仕組みです。
- 仕組みメールを受信したサーバーは、送信元メールアドレスのドメイン(@example.co.jp)のDNSサーバーに問い合わせ、SPFレコードを確認します。そして、実際にメールを送ってきたサーバーのIPアドレスが、SPFレコードに記載されているIPアドレスのリストに含まれているかを照合。含まれていれば「認証成功」、含まれていなければ「認証失敗(なりすましの可能性が高い)」と判断します。
- SPFレコードの例v=spf1 ip4:192.0.2.1 include:_spf.google.com ~all
v=spf1SPFのバージョン1であることを示す。ip4:192.0.2.1このIPアドレスからの送信を許可する。include:_spf.google.comGoogle Workspaceなど外部のメールサービスを利用している場合、そのサービスのSPFレコードを取り込む。~allここに書かれていないサーバーからの送信は「ソフトフェイル(失敗の可能性が高いが、受信は拒否しない)」として扱う。厳格に拒否する場合は-all(ハードフェイル) を使用するが、設定ミス時の影響が大きいため、最初は~allから始めるのが一般的。
2. DKIM (DomainKeys Identified Mail) メールに電子署名を刻む
DKIMは、メールそのものに電子署名を付与することで、送信元が正当であることと、メールが途中で改ざんされていないことを証明する技術です。
- 仕組み送信側サーバーは、メールのヘッダや本文の一部から算出したハッシュ値を、自らが持つ「秘密鍵」で暗号化し、電子署名としてメールヘッダ(DKIM-Signatureヘッダ)に追加して送信。受信側サーバーは、送信元ドメインのDNSサーバーに問い合わせて「公開鍵」を取得。この公開鍵を使って電子署名を復号し、受信したメールから算出したハッシュ値と一致するかを検証。一致すれば「認証成功」と判断します。
SPFが送信サーバーの「場所(IPアドレス)」を認証するのに対し、DKIMはメールという「手紙そのもの」に押された印鑑のような役割を果たします。
3. DMARC (Domain-based Message Authentication, Reporting, and Conformance) 認証失敗メールの運命を決める司令塔
DMARCは、SPFとDKIMの認証結果を統合し、もし認証に失敗したメール(なりすましメールの疑い)を受信した場合、受信側サーバーがそのメールをどう扱うべきかを、送信側がポリシーとして宣言するための仕組みです。
- 仕組みDMARCも、DNSのTXTレコードとして公開します。このレコードには、SPFかDKIMのどちらか、あるいは両方が成功しない場合に、そのメールをどうしてほしいかというポリシー(p=タグ)を記載します。
p=none(監視モード) 認証に失敗しても何もしないが、その事実をレポートで送信者に通知する。まずはこのモードから始め、自社のメール送信状況を把握します。p=quarantine(隔離モード) 認証に失敗したメールを、迷惑メールフォルダなどに隔離するよう要求する。p=reject(拒否モード) 認証に失敗したメールを、受信拒否(削除)するよう要求する。これが最も厳格なポリシーです。
さらに、DMARCの強力な機能としてレポーティング機能があります。rua=タグで指定したメールアドレスに、自社ドメインを騙るメールの認証状況に関する集計レポートが世界中の受信サーバーから送られてきます。これにより、「どこから、どれくらいのなりすましメールが送信されているか」「自社の正当なメールが、何らかの理由で認証に失敗していないか」といった状況を正確に把握し、ポリシーを安全に reject へと強化していくことが可能になるのです。
これら三つの技術を正しく設定・運用することは、自社になりすまされることを防ぎ、企業のブランド価値を守る上で、今や必須の対策と言えるでしょう。
IPレピュテーションとRBL、悪評は瞬く間に広がる
多くのメールサーバーやセキュリティサービスは、メールを受信する際に、送信元サーバーのIPアドレスの「評判(レピュテーション)」をチェックしています。
- IPレピュテーション過去に大量のスパムメールを送信した実績のあるIPアドレスや、セキュリティ設定が不十分なIPアドレスは、「評判が悪い」と評価されます。評判の悪いIPアドレスからのメールは、受信を遅延させられたり、スコアを低く評価されて迷惑メールフォルダに直行したり、場合によっては受信そのものを拒否されたりします。
- RBL (Real-time Blackhole List) / DNSBL (DNS-based Blackhole List)スパム送信元として知られるIPアドレスのリストを、リアルタイムで提供しているサービスのこと。メールサーバーは、メールを受信するたびにこのリストに問い合わせ、送信元IPが掲載されていないかを確認します。掲載されていれば、そのメールをブロックする、という仕組みです。
自社のメールが確実に相手に届くようにするためには、自社のメールサーバーのIPアドレスが、こうしたブラックリストに載らないよう、健全な運用を心がける必要があります。例えば、ウイルス感染した社内PCからスパムが大量送信されたりすると、あっという間にIPアドレスの評判は地に落ち、正常な業務メールまで届かなくなってしまうのです。
サンドボックス、未知の脅威を隔離分析
従来のウイルス対策ソフトは、既知のウイルスのパターン(シグネチャ)と照合して検知する方式が主流でした。しかし、これでは、まだ誰も知らない新種のマルウェア(ゼロデイ攻撃)には対応できません。
そこで登場したのがサンドボックス技術です。
サンドボックスとは、隔離された安全な仮想環境のこと。メールゲートウェイなどでこの技術を利用する場合、受信したメールに怪しい添付ファイルやリンクが含まれていると、そのファイルやリンク先を、まずこのサンドボックス内で実際に開いたり実行したりしてみます。
そして、その仮想環境内で「ファイルを勝手に暗号化し始めた」「外部の怪しいサーバーと通信しようとした」といった悪意のある振る舞い(ビヘイビア)を検知した場合に、そのメールを「危険」と判断してブロックするのです。
これにより、パターンファイルが存在しない未知のマルウェアに対しても、高い防御能力を発揮することが可能になります。高度な標的型攻撃への対策として、非常に有効な技術の一つです。
メールヘッダ情報、送信者の足跡を読む
最後に、少しマニアックですが強力な分析手法として、メールヘッダの読解があります。
普段私たちが見ているのはメールの本文だけですが、その裏側には、そのメールがどのような経路を辿って自分の元に届いたかを示す、詳細なヘッダ情報が付与されています。
ヘッダ情報の中の Received: という行を、下から上に向かって見ていくと、メールが経由してきたサーバーのIPアドレスやタイムスタンプが記録されています。これにより、送信元として表示されている組織とは全く関係のない、見知らぬ国のサーバーから送られてきている、といった事実が判明することがあります。
また、Authentication-Results: というヘッダを見れば、受信サーバーがSPF、DKIM、DMARCの認証を試みた結果(pass なのか fail なのか)を確認できます。
ヘッダの読み方を習得するのは少し慣れが必要ですが、怪しいメールの正体を見破るための、確かな鑑識眼を養うことに繋がるでしょう。
まとめ
ここまで、個人でできる簡単な対策から、企業が取り組むべき高度な技術まで、迷惑メールと戦うための様々な手法をご紹介してきました。
- 個人レベルでは、アドレスの使い分けと、安易にクリックしないという強い意志が防御の基本。
- 企業レベルでは、人への教育と、ゲートウェイでの技術的なブロックを組み合わせた多層防御が不可欠。
- そして技術の最前線では、送信ドメイン認証によって「なりすまし」の根源を断つ試みが続けられています。
冒頭で述べたように、迷惑メールを「完全にゼロ」にすることは、残念ながら現実的ではありません。攻撃者は常に私たちの対策の裏をかこうと、新しい手口を開発し続けます。
だからこそ、迷惑メール対策に「これで終わり」というゴールはないのです。それは、自社の情報資産と従業員、そして日々の業務の平穏を守るための、継続的な取り組みに他なりません。
この記事で紹介した対策を一つでも二つでも実践し、定期的に見直していくことで、あなたの受信トレイが、本来の「重要なコミュニケーションのためのツール」としての姿を取り戻すことを、心から願っています。
さあ、まずはあなたのメールソフトの「迷惑メールを報告」ボタンから、反撃の第一歩を始めてみてはいかがでしょうか。まあ、明日にはまた、想像もつかないような新しい手口のメールが届くかもしれませんが。その時はまた、一緒に知恵を絞ることにしましょう。

